レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 登録日時
- 2018/03/04 14:24
- 更新日時
- 2018/03/09 16:35
- 管理番号
- 138
- 質問
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解決
尼崎藩領の銀札(藩札・私札等)について知りたい。
- 回答
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銀札は、近世の銀貨の代用紙幣で、西日本を中心に藩・旗本・商人等が発行しました。発行主体ごとに「藩札」「旗本札」「私札」等と区別され呼ばれることもあります。
尼崎藩領内で銀札が最初に発行されたのは、「寛永十四三月」と刻まれた小版木とともに銀札の版木(『尼崎市史』第2巻、巻頭写真)が発見されていることから寛永14年(1637)と考えられていますが、小版木の作成年代に疑問の見解があって発行年は確定していません(永井久美男「尼崎銀札の初期札」、尼崎市立地域研究史料館紀要『地域史研究』18-1、1988)。また、この銀札は藩札ではなく私札であろうと推定されています。発行推定年代が絞り込まれていて、現存最古とおぼしき銀札(私札)は、寛文10年(1670)発行と考えられる油屋庄右衛門札と樋口屋弥兵衛札です。
確認できる最古の尼崎藩札として、『尼崎市史』第2巻では、当時尼崎藩領であった西宮町の町人たちが藩札の札元となって発行した「西宮銀札」をあげ、発行年を貞享元年(1684)と比定していますが、その後の研究では発行年を貞享元年とする説に疑問が呈されています(永井久美男「西宮銀札の「甲子」押懸け印―西宮銀札の貞享元年発行説を否定する―」、『地域史研究』32―2、2001)。このように、発行年の確定できていない銀札もありますが、尼崎藩領内における銀札発行とその流通及び藩の統制等に関する『尼崎市史』第2巻の記述及び、同第5巻(史料編)掲載の関連史料類により、その概要を知ることができます。尼崎藩の経済政策を理解するうえで藩札発行は重要な位置を占めており、専売制との関連から銀札発行を考察する研究(一例として、上村雅洋「尼崎藩の木綿専売制度と銀札発行」、『地域史研究』10-2、1981)もあります。
さらに尼崎市立地域研究史料館では「尼の十二札」(銀十匁札/裏面に「よつのときめくりてやます(四時廻不止)」の12文字のうち一文字を頭文字として札番号が記される)をはじめとする尼崎藩札等を所蔵しており、閲覧することができます。
- 回答プロセス
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1 尼崎藩領内における銀札通用の概要がわかる文献
◆八木哲浩「尼崎藩の銀札」(『魚澄先生古稀記念国史学論叢』魚澄先生古稀記念会、1959)
◆作道洋太郎『日本貨幣金融史の研究』(未来社、1961)
「第一部純粋領国型における信用通貨の研究 第一章近世信用通貨の発展形態―尼崎藩の場合を中心として―」で、近世期における尼崎藩領内での銀札発行・流通、それらの藩による統制等について概説。
◆『尼崎市史』第2巻(1968) p314~368
執筆は八木哲浩氏。「第5章近世の尼崎 第4節尼崎藩の支配機構と財政 四尼崎藩の藩札」に、銀札について詳述されている。作道氏の研究をふまえつつ、考察を深めている。
◆『尼崎市史』第5巻(1974) p451~504
「四尼崎藩の藩法 3年貢関係触れ書 4藩札仕法」に、主たる史料が翻刻掲載されている。
2 尼崎藩の専売制との関係から尼崎藩札制度を論じたもの
◆上村雅洋「尼崎藩の専売制度―木綿交易会所を中心に―」(『大阪大学経済学』29-3・4、1980)
◆上村雅洋「尼崎藩の木綿専売制度と銀札発行」(尼崎市立地域研究史料館紀要『地域史研究』10-2、1981)
3 その他尼崎藩札に関する参考文献
◆新保博「藩札についての一考察―徳川時代の信用制度との関連において―」(『神戸大学経済学研究 年報』19、神戸大学経済学部、1972)
◆永井久美男「尼崎銀札の初期札」(『地域史研究』18-1、1988)
◆永井久美男「西宮銀札の「甲子」押懸け印―西宮銀札の貞享元年発行説を否定する―」(『地域史研究』32―2、2001)
いずれも作道・八木両氏の説に疑問を呈する。
◆作道洋太郎「西摂尼崎藩の藩札発行と泉屋利兵衛」(同氏著『阪神地域経済史の研究』、御茶の水書房、1998)
初出は、「尼崎藩の財政金融と泉屋利兵衛」(『地域史研究』3-2、1973)及び「泉屋利兵衛の系譜と創業」(『地域史研究』3-3、1974)
4 その他藩札に関する参考文献
◆『藩札・私札展観目録』(黒川古文化研究所、1955)
◆作道洋太郎「県下の藩札」(『兵庫県の歴史』1、1969)
◆荒木三郎兵衛『藩札』上巻(いそべ印刷所、改訂第3版1969)
◆荒木豊三郎『日本古紙幣類鑑』上巻(思文閣、1972)
5 藩札・私札等
◆尼崎藩札等尼崎藩領域で発行された銀札が含まれる文書群
文書群番号060001尼崎藩札(安永札)(1)、060011史料館所蔵版本類・金札・銀札、085018尼崎藩札(安永札)(2)、089016摂津西宮銀一匁札、090016尼崎藩札等銀札類、091011尼崎藩札(安永札)(3)、092003尼崎藩札(安永札)(4)、092010播磨国上郡会所銀一匁札、093003西村謙治氏寄贈銀札、101022尼崎藩札(安永札)(5)、102013尼の十二札、108064戎屋重助発行私札、109014尼崎藩札、110007菅原敏二氏寄贈尼崎藩札(安永札)、111039尼崎藩札(安永札)(6)、113039尼崎藩札(安永札)(7)、113059尼崎藩札(安永札)(8)、115068尼崎藩札(安永札)(9)など
他の文書群にも含まれている場合がある。
◆銀札の受取・引替等発行の様子がわかる文書群
062001天野屋市兵衛家文書(1)、063003徳田善五郎氏文書(1)(2)、074009橋本治左衛門氏文書(1)、095113橋本治左衛門氏文書(3)、078004堀新次氏文書(1)、093021-1小西光信氏文書、110041常吉村文書など。
その他、尼崎藩大庄屋を務めた岡本家文書に、銀札関連の文書があり、尼崎市立地域研究史料館にてマイクロフィルムで閲覧できる。また大庄屋日記で発行の経過等がわかるが、大庄屋日記については、にしのみやデジタルアーカイブ(https://archives.nishi.or.jp/)で閲覧できる。
- 事前調査事項
- NDC
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- 近畿地方 (216)
- 経済史.事情.経済体制 (332)
- 貨幣.通貨 (337)
- 参考資料
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- 魚澄, 惣五郎, 1889-1959 , 魚澄先生古稀記念会. 魚澄先生古稀記念国史学論叢. 魚澄先生古稀記念会, 1959. (当館請求番号204.1/S/ウ)
- 作道洋太郎 著 , 作道, 洋太郎, 1924-2005. 日本貨幣金融史の研究 : 封建社会の信用通貨に関する基礎的研究. 未来社, 1961. (当館請求番号337.5/A/サ)
- 尼崎市/編 , 尼崎市. 尼崎市史 第2巻. 尼崎 尼崎市, 1968. (当館請求記号219/A/ア-2)
- 尼崎市/編 , 尼崎市. 尼崎市史 第5巻. 尼崎 尼崎市, 1974. (当館請求記号219/A/ア-5)
- 上村 雅洋 , 上村 雅洋. 尼崎藩の専売制度--木綿交易会所を中心に. 1980-03. 大阪大学経済学 29(3・4) p. p90~102
- 上村 雅洋 , 上村 雅洋. 尼崎藩の木綿専売制度と銀札発行. 1981-02. 地域史研究 10(2) p. p61~78
- 新保博,新保博.藩札についての一考察―徳川時代の信用制度との関連において-.1972-12. 神戸大学経済学研究 年報19 神戸大学経済学部 p. p1~37
- 永井久美男,永井久美男.尼崎銀札の初期札.1988-08.地域史研究 18(1)p. p32~33
- 永井久美男,永井久美男.西宮銀札の「甲子」押懸け印―西宮銀札の貞享元年発行説を否定する―.2001-12.地域史研究(32)2 p. p58~68
- 作道洋太郎 著 , 作道, 洋太郎, 1924-2005. 阪神地域経済史の研究. 御茶の水書房, 1998. , ISBN 4275017013 (当館請求記号332.6/S/サ)
- 黒川古文化研究所,藩札・私札展観目録,1955 (当館請求記号202.1/S/ク)
- 作道洋太郎,作道洋太郎.県下の藩札.1969-06.兵庫県の歴史1. p. p29~32
- 荒木 三郎兵衛/著 , 荒木‖三郎兵衛. 藩札 上巻 第3版. 荒木三郎兵衛, 1969. (当館請求記号337.5/ /ア-1)
- 荒木豊三郎/編. 日本古紙幣類鑑 上巻 増訂[版]. 思文閣出版, 1972. (当館請求記号337.5/A/ア-1)
- キーワード
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- 銀札
- 尼崎藩札
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000232056