レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年4月3日
- 登録日時
- 2021/03/28 17:14
- 更新日時
- 2021/06/15 18:14
- 管理番号
- 県立長野-20-132
- 質問
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解決
「龍渓石(りゅうけいせき)」命名の由来について知りたい。信州デジタルコモンズの「龍渓硯」【最終確認2021.3.30】の解説に「当時の長野県知事大村清一氏によって命名された」とある。
- 回答
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『上伊那教育風土記』 上伊那教育会編・刊 1960 【N370/284】 p.23には、
(-前略-) 「竜渓」なる名は昭和十年赤羽幸之進氏が当時の県知事大村清一氏の所へ持参し、名づ
けてもらったものである。支那の名硯「端渓」にあやかり、伊那の代表「天竜」に因んだものであ
る。登録商標、赤羽氏所有。
とある。
赤羽幸之進については、『上伊那文化事典』伊沢和馬編 信濃路出版 1990 【N242/109】p.437に、
1894-1968 自治功労者。明治27年川島村(現辰野町)渡戸に生まれた。村会議員、村助役、辰
野町合併後の町会議員の他種々の委員会・団体の要職を務め、その推進役となって活躍した。渡
戸に産出する硯石は江戸末期より硯に加工されていたが、これを時の県知事大村清一に竜渓石と
命名してもらい、全国にその名を広め郷土の産業発展に寄与した。(-後略-)
とあったので、合わせて紹介した。
- 回答プロセス
-
1 龍渓石を産出する上伊那郡辰野町の『辰野町誌 近現代編』【N242/108/1】p.835 には、
昭和十年長野県知事大村清一に命名を依頼し龍渓石(硯)と名づけられ、これが一般化されて今日に
至った。
とある。知事へ依頼した者が誰なのかの記述はないため不明。また、p.376-378に「硯石」の項目があり、江戸時代からの産業としての一面が記されている。『辰野町誌 自然編』【N242/108/2】には、
この粘板岩で作った硯が昭和10年、長野県知事大村清一によって『竜渓石』と命名されて以来、
この粘板岩を俗に竜渓石と呼ぶようになった。
とある。
2 インターネット上を「龍渓硯」で検索を行い、硯工房清泉堂のwebsiteに「龍渓硯の由来」【最終確認2021.3.30】を発見。
「龍」天龍(竜)川系で石が産出することから、
「渓」天龍川系の横川川の渓流・その美しさからという説と
中国広東省の有名な硯石の産地である「端渓」で作られている硯が
世界で有名であることにちなんで「渓」を頂いたという説があります。
としている。
信州豊南短期大学の学生が作成している辰野町についてのコンテンツにも、「龍渓石の硯」【最終確認2021.3.30】があり、同様の記述があった。
3 『竜渓石に就いて』楠瀬日年著 代々木書院 1937 を所蔵している秋田県立図書館様に内容を照会したところ、硯に使われる石としての龍渓石を論じたもので、命名の由来についての記述はないとのこと。
4 新聞記事を探す。当館契約の「信濃毎日新聞データベース」で、昭和10年1月15日(大村知事着任後)から12月31日の間を「龍渓」「知事」「辰野」「上伊那」「横川」「命名」などのキーワードでそれぞれ検索したが、大村知事が龍渓石と命名したことを報じた記事はヒットしなかった。記事の全文検索ができる期間ではないため、記事につけたキーワードでヒットしなければ、探せない可能性もある。
5 郷土雑誌記事の検索を行う。辰野高等学校商品研究会「地域産業における商品としての龍渓石の研究」『伊那路』第10巻第11号 1966 p.24-26のp.25 に
ところが昭和に至り、時の首相犬養木堂翁等が横川川(よこかわがわ)に流れてくる石質によって
日本最良なることが認められ、昭和九年、当時の長野県知事大村清一氏による『竜渓石』と命名さ
れて、今日に至ったのである。
と記されている。この資料以外のものは昭和10年と記述されていた。タイトルは「龍」を使っているが、本文では「竜」を使っている。
6 長野県公式ホームページの中の「長野県指定伝統的工芸品」【最終確認2021.3.30】を確認する。
龍渓硯(りゅうけいすずり)(主要産地/上伊那郡辰野町)(昭和62年2月10日指定)
辰野町横川地籍に産する「龍渓石」から硯作りが始まったのは、江戸時代末期。
現在でも伝統技法の手彫りにより製造されている。
とある。由来についての記述はなかった。
7 辰野町立辰野図書館へ照会したところ、パンフレット『信州龍渓硯』(龍渓硯振興会事務局)の「龍渓硯の歴史」として記載されている内容は、硯工房清泉堂のwebsiteに「龍渓硯の由来」と同じだった。出典は不明。
8 辰野町教育委員会へ照会し、「川島村龍渓硯」(『辰野町資料』第52号 昭和36年3月)も確認していただいたが、『辰野町誌』に記載されている以上のことは不明とのこと。
<調査資料>
・『長野県百科事典』信濃毎日新聞社開発局出版部編 信濃毎日新聞社 1981 【N030/2a】p.841
・『辰野町の文化財』 辰野町文化財保護調査委員会編 辰野町教育委員会 1978 【N709/63】p.40-41
・『信州匠の里の職人たち』松橋昭夫著 ボロンテ 2000【N750/19】p.45-48
・小林比出代「郷土の文化遺産を志向した書道教育の展開例」
・『長野県地学図鑑』信州地学教育研究会解説・写真 信濃毎日新聞社 1993【N450/21b】
p.71-72「粘板岩」
・『信州の地質めぐり』地学団体研究会松本支部編 郷土出版社 1995 【N455/83】
・『木堂翰墨談』犬養毅 1923 【728/111/1-2】
・『信濃中部地質誌』本間不二男著 信濃教育会小県上田部会 1931【N455/12】
・『長野県の地形・地質案内 大地は語る』信州理科教育研究会編 東京法令 1994【N450/33】
- 事前調査事項
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『竜渓石に就いて』楠瀬日年著 代々木書院 1937 が出版されたようだが、見ることができないので内容はわからなかった。
- NDC
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- 中部地方 (215)
- 地質学 (455)
- 参考資料
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辰野町誌編纂専門委員会 編纂 , 辰野町 (長野県). 辰野町誌 近現代編. 辰野町誌刊行委員会, 1988.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001948679-00 (【N242/108/1】p.835) -
辰野町誌編纂専門委員会/編 , 辰野町誌編纂専門委員会. 辰野町誌 : 自然編. 辰野町誌刊行委員会.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I059270423-00 (辰野町誌 自然編』【N242/108/2】) - 信州龍渓硯. 信州 龍渓硯; 日本の真ん中 光と緑とほたるの町 辰野町 A4. 龍渓硯振興会. (辰野町立辰野図書館所蔵)
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辰野町誌編纂専門委員会 編纂 , 辰野町 (長野県). 辰野町誌 近現代編. 辰野町誌刊行委員会, 1988.
- キーワード
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- 龍渓石
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- 伝統的工芸品
- 伝統工芸
- 地域産業
- 信州学
- 赤羽幸之進
- 登録商標
- 寄与者
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- 辰野町立辰野図書館様から、先ごろ別件で調べていた際に発見したと連絡を受けた。ありがとうございました。
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000295922