レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年3月5日
- 登録日時
- 2023/12/12 12:16
- 更新日時
- 2023/12/20 15:17
- 管理番号
- 川崎2023-001
- 質問
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解決
猟師としての「鳥刺し」について
鳥黐(とりもち)竿で鳥を捕獲する「鳥刺し」について、主に日本における職業(副業・趣味含む)として、
・歴史的な概要、いつの時代からいつ頃まで存在していたか
・地域的な分布、全国的に存在したのか、特定の地方だけか
・持ち物類、鳥黐竿以外にどのような道具類を持っていたか
・獲物となる鳥の種類、特に食用目的の鳥の種類
・食用、観賞用、鷹の餌用などの用途はどの用途が多かったか、また他の目的のものはあったか
- 回答
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食用された鳥の種類について、記録に残っているのは主に天皇・公家・武家などの食事記録で、そこに出てくる鳥は鷹狩によって捕獲された旨の記載がある。直接鳥刺しで捕獲された鳥が食事として供されたかどうかは不明。その他、捕獲方法は不明なものの、庶民の食糧確保のために広く鳥が獲られていたと読み取れる資料があった。
猟師・狩猟に関する本はマタギや熊、鹿といった獣に関することが中心であり、鳥刺しについて触れているものを見つけることができなかった。
職業として鳥刺しをしたのは主に餌差(えさし。餌指、餌刺とも書く)であると考えられるので、歴史的・地理的な概要については鷹狩の本を一読することを勧めた。
『広辞苑 第7版』(新村出/編、岩波書店/発行 2018年)
「鳥刺」には鳥もちを塗った竿で小鳥を捕らえること、という意味と江戸時代に鷹匠の下で鷹の餌鳥を請負った者、といった意味が記載されている。「餌差・餌刺」「鳥黐」「黐竿」の項もある。
『日本大百科全書17』(小学館/発行 1987年)
「鳥刺し」の項には、「~二間(約3.6m)余りの竿先にとりもちを塗り~」、「鳥もち」の項には「~1971年(昭和46年)以降、狩猟用としては禁止され」との記載がある。
『鷹狩の日本史』(福田千鶴・武井弘一/編、勉誠出版/発行、2021年)
古代から近世まで続けられた鷹狩の歴史を知るための本。p78~81「餌指」の項がある。天保期の加賀藩の庶民生活が描かれた『民家倹労図』に「かけもち糸を張、鳥を捕る図」が掲載されており、稲刈りの終わった田に何本もの竿を並べ、竿の先に鳥もちの巻かれた糸が付いている様子がわかる。
『大江戸歴史の風景』(加藤貴/著、山川出版社/発行、1999年)
第4章「将軍の鷹狩と江戸周辺農村」の中で、鷹場では、鷹狩のために鳥類や動物、魚の殺生が原則禁止されていたものの、猟師や農民は、生業や農業維持のために鳥獣を捕獲・駆除する必要があったこと、また食料の供給や娯楽のための鳥猟や魚釣りを行っていたはずだ、という内容の記載がある。
『肉食の社会史』(中澤克昭/著、山川出版社/発行、2018年)
中世日本の肉食文化について論じた本。第2章では、平安王朝から近代まで続く肉食禁忌の基調の中で、実際はかなり肉食が行われていた点に触れている。p127「百姓たちが伝えた動物供儀」の項では、捕獲方法には触れていないものの「百姓たちもみずから捕獲した鳥獣の肉を神と共に味わった。」との記載、p411に狂言『餌差十王』では、餌差が地獄で鳥を食べたことのない閻魔王に「汝が持った竿で刺いて閻魔王に振る舞え。」と言われて鳥を焼鳥にして進ぜるというやり取りの記載がある。
『全集日本の食文化 第4巻 魚・野菜・肉』(芳賀登・石川寛子/監修、雄山閣出版/発行、1997年)
p229「中世の狩猟・漁撈と庶民生活-おもに肉食との関連から-」の項では、室町初期の『庭訓往来』や、室町中期の『尺素往来』といった往来物や料理書といった史料には雉、鵠、鶉、雲雀、鴨、鴛、雁、鶴、鷺、山雉、青鷺等の鳥の名称が見え、「狩猟などが中世庶民の食生活を補完していたことが読み取れる」としている。しかし「仏教思想は肉食の否定をたてまえとしており、肉食は理念上では好ましからざることとしていた」という時代背景が書かれている。
『狩猟伝承』(千葉徳爾/著、法政大学出版局/発行、1979年)
第1章第3節「ワナのさまざま」の項で、「統計がないから全く分からないものの、大正末の狩猟統計から推測すると鳥類としてサギ・ウ・ウソ・ウズラ・カシラダカ・カモ・キジ・シギ・ツグミ・ハト・バン・ヒヨドリ・ヒワ・ホオジロ・ヤマドリ・オシドリなどが、食用、愛玩用、羽毛用および害鳥駆除としてとられていた。」との記載がある。また、ワナのひとつとしてトリモチを塗った細縄を使ったものの説明や、トリモチ製造業も明治時代まで山村にかなりみられたとの記載がある。
『狩猟』(直良信夫/著、法政大学出版局/発行、1979年)
p206「鳥黐のこと」の項がある。『万葉集』にすでに「鳥黐の」という一句があることから、著者は、「奈良朝にはそれがもう十分に猟者の間で確実に使いこなされていたことが明瞭になった」と書いている。
オンラインデータベース『朝日新聞クロスサーチ』で「鳥刺し」「鳥差し」を検索したところ、該当の内容は見つけられなかったが、「鳥もち」で検索すると2016年5月31日の朝日新聞朝刊に「野生メジロ101羽を捕獲容疑 無許可の5人書類送検」の記事がヒットした。(令和5年3月3閲覧)
また、国立国会図書館デジタルで「鳥刺」を検索したところ、次の資料があった。
『幼き日の街角』(花沢徳衛/著、新日本出版社/発行、1987年)
p65に「鳥刺し」として、服装や持ち物がわかる絵と文章で説明されている。
『趣味副業小鳥の飼ひ方』(東京小鳥研究会/著、榎本書房/発行、1927年)
p115からの捕鳥法のうち、p131に刺竿捕鳥法がある。
- 回答プロセス
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川崎市立図書館所蔵の資料には鳥刺しについて詳しく書かれた資料は見つけることができなかったため、鷹狩、日本の肉食や狩猟といったテーマの本を調べた中で見つけた、鳥刺しに関連すると思われるいくつかの資料及びオンラインデータベースでの検索結果をご紹介した。
その後、国立国会図書館デジタルコレクションの参考資料を追記した。
- 事前調査事項
- NDC
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- 釣魚.遊猟 (787 9版)
- 衣食住の習俗 (383 9版)
- 社会.家庭生活の習俗 (384 9版)
- 参考資料
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新村 出/編. 広辞苑 第7版. 岩波書店, 2018-01.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I081371586-00 , ISBN 9784000801317 -
日本大百科全書 17 (とけーにほんく). 小学館, 1987.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001871279-00 , ISBN 4095260173 -
福田千鶴, 武井弘一 編 , 福田, 千鶴, 1961- , 武井, 弘一. 鷹狩の日本史. 勉誠出版, 2021.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I031264063-00 , ISBN 9784585222972 -
加藤貴 編 , 加藤, 貴, 1952-. 大江戸歴史の風景. 山川出版社, 1999.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002835478-00 , ISBN 4634607603 -
中澤克昭著 , 中澤, 克昭(1966-). 肉食の社会史. 山川出版社, 2018-08.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000706849-00 , ISBN 9784634151383 -
千葉徳爾著 , 千葉, 徳爾(1916-). 狩猟伝承. 法政大学出版局, 1975-02. (ものと人間の文化史)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000511113-00 , ISBN 4588201417 -
直良信夫著 , 直良, 信夫(1902-1985). 狩猟. 法政大学出版局, 1968-09. (ものと人間の文化史)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000574346-00 , ISBN 4588200216 - 国立国会図書館デジタルコレクション
- オンラインデータベース『朝日新聞クロスサーチ』
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新村 出/編. 広辞苑 第7版. 岩波書店, 2018-01.
- キーワード
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- 鳥刺(トリサシ)
- 鳥黐(トリモチ)
- 餌差(エサシ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000343325