レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2024/06/14
- 登録日時
- 2024/09/27 00:30
- 更新日時
- 2024/09/27 00:30
- 管理番号
- R1014626
- 質問
-
解決
帝国主義時代の中国の「租借地」について知りたい。
「植民地」や「租界」とは違うのか。
どうして割譲ではなく「租借」という形式がとられたのか。
- 回答
-
中国の租借地に関する記述がある資料の中で、「植民地」や「租界」との定義の違いや、割譲ではなく「租借」という形式をとった理由に言及されているものを調査した。
結論として、租借地は植民地とは違い、領土を外国に割譲するものではないが、経済的目的のために設置された租界よりは主権譲渡の意味合いが強いようである。
また、国ごとに租借地の制度は異なり、ドイツのようにほとんど植民地として認識していた場合もある。
(1)「租借地」の定義
以下の資料に、「租借地」の定義や、1897年から98年にかけての租借条例の交渉過程について記載があった。
・『世界大百科事典 16 改訂新版』(平凡社 2007.9)
p.389 「租借地」
「国家が領域の一部を特別の合意によって他の国家に貸す場合,この領域の一部を租借地という.(中略)政治的租借地の著名な例としては,中国のものがあげられる.中国では,租界も設定された.租界は,外国人の居住・貿易権の確保という経済的目的のために設定された.ところが,政治的租借地に関しては,日清戦争に敗れて弱体ぶりをさらした中国に対し領土割譲に類する実際的効果を得ようとした列強の相互牽制のため,また,中国国民の憤激を回避したい清朝の体面のため,〈租借〉という名目が使われたとされる.」
「[中国の租借地](前略)ドイツは1897年(光緒23)11月にドイツ人宣教師殺害事件を口実に青島を武力占領し,翌98年3月の条約で膠州湾を99ヵ年の期限つきで租借した.これに刺激されて同じ年にロシアは旅順,大連(各25ヵ年),三国干渉に加わらなかったイギリスもロシアとの勢力均衡を理由に威海衛(期限はロシアが旅順、大連を租借している間)と九竜半島(99ヵ年),翌年フランスは広州湾(99ヵ年)をおのおの租借したのである.」
・『図説中国文明史 10 清 文明の極地』(陳萬雄/著 張倩儀/著 川浩二/訳 稲畑耕一郎/監修 劉【ウェイ】/編 創元社 2006.1)
p.130-132 「第3章 5 港湾の強制租借―青島と威海衛」
「租借地と勢力範囲」に「租借地はけして外国に領土として割譲した土地ではありません。しかし各国は租借地を領土とみなし、総督を置いて統治させ、本国の海外における領土の一部に数えていました。租借地の面積は租界よりも広く、港を占領しただけでなく、軍港を作って軍隊を駐屯させました。また、商港を設けて海運業をおこなう以外にも、一般的に周辺地域の鉄道の敷設権や鉱山開発の権利も附属しており、他国が租借地周辺に勢力を伸ばすのを阻むこともできました。そのためある租借地が置かれた省全体までもが、租借権を得た国の勢力範囲となったのです。」(p.132)とある。
・『ドイツ統治下の青島:経済的自由主義と植民地社会秩序』(浅田進史/著 東京大学出版会 2011.3)
p.42-55 「1 膠州湾の植民地化 2 外交による膠州湾の植民地化」に次の記載がある。
「そもそもドイツ外交代表自身が条約交渉以前に明確な「租借」概念を有していたわけではなく,むしろ交渉過程で中国に適用すべき「租借地」を案出していった」(p.44)
「ドイツ側は租借条約の締結をもって,租借地における主権が中国からドイツへと移譲されたとみなし,膠州湾租借地はほかのドイツ植民地と同等の法的地位に置かれた.それ以降,膠州湾租借地はドイツ側の認識においては植民地でありつづけた.植民地行政は,領域的な支配の確立を目指し,中国系住民に対する主権は自らにあるとしていた.
しかし,ドイツと清の2国間条約のうえでは,ドイツ文の第1部表題に「膠州湾の租借」(Verpachtung von Kiautschou)と記されることとなり,膠州湾租借地はあくまで「租借地」であり,割譲とは異なっていた.さらに,中国文の同じ個所には「租界」とさえ記されていたのである.」(p.54)
・『模索する近代日中関係:対話と競存の時代』(貴志俊彦/[ほか]編 東京大学出版会 2009.6)
「第3部 国家の利害と外交」の「第9章 領域と記憶:租界・租借地・勢力範囲をめぐる言説と制度」(川島真)p.159-183
p.163-170 「1 租界・租借地・勢力範囲 (2)租借地」
「租借地は、中国側の潜在的な主権が認められるだけで、租界よりも主権譲渡の意味合いが強く、(海に接していれば)周辺海域をも租借対象に含めるものであった。だが、当該地域の人民については、それを臣民として統治下におく植民地とは異なり多様な解釈がなされた。また、中国側の行政権や司法権は(当初多少の例外はあったが)、一般に外国側に属するものとされた。4)」(p.163、170)とあり、注の4)を確認すると、「4)ただし、旅順・大連租借地の金州城、香港の九龍城、威海衛の威海衛城などにおける行政権、司法権は中国側に残された。」(p.170)とある。
p.168-169 「表2 租借地をめぐる制度的状況」
各国の租借地の制度上の相違が表でまとめられている。
・『支那租借地論』(植田捷雄/著 日光書院 1943)
p.3「租借地が支那に設定されるに至つたのは、正に十九世紀末葉に於いて最高頂に達せる列国の帝国主義的政策の必然的結果であつて、当時の列国が抱ける真意は支那に於ける領土の獲得にありしこと後述の通りである。唯、列国相牽制せるの結果、露骨に支那に対して領土の割譲を強制することを得ず、遂に租借の名の下に所謂假装的割譲(中略)をなさしめるに至つたのである。」
当時の列国の状況については、「第一編 租借地の外交史的研究 第二章 設定時代 第一節 独逸の膠州湾租借」(p.23-37)等に詳しく書かれている。
国立国会図書館デジタルコレクションでも閲覧可能。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1453598 (インターネット公開)(2024/6/14現在)
(2)中国の「租借地」に関する資料
以下の資料にも、19世紀末の中国の租借地についての記述があった。
【図書】
・『中国の歴史 10 ラストエンペラーと近代中国 清末中華民国』(菊池秀明/著 礪波護/[ほか]編集委員 講談社 2005.9)
p.96-98 「第三章 ナショナリズムの誕生-戊戌変法と義和団 列強の中国分割と変法派の登場 列強の中国分割」
・『岩波講座東アジア近現代通史 2 日露戦争と韓国併合 19世紀末-1900年代』(和田春樹/[ほか]編集委員 岩波書店 2010.10)p.176-195
佐藤公彦「帝国主義中国分割と「民衆」社会-「瓜分」と「雪辱」」
p.176-180 「一 ドイツの膠州湾占領と山東社会の動揺」
p.180-183 「二 ロシアの旅順・大連租借と満州官民の反応」
p.183-186 「三 フランスの広州湾占領・租借をめぐる官民の抵抗」
・『新図説中国近現代史:日中新時代の見取図 改訂版』(田中仁/[ほか]著 法律文化社 2020.2)
p.46-47 「第3章 革命と中国の出発 1 変法運動 1 瓜分 租借地と勢力範囲」
・『清末政治史の再構成:日清戦争から戊戌政変まで (汲古叢書144)』(宮古文尋/著 汲古書院 2017.7)
p.23-24 「第一章 日清戦争以後の清朝対外連携策の変転過程 第二節 連露合意とその破綻 3 ロシアの租借地要求」
・『青島の都市形成史:1897-1945 市場経済の形成と展開』(欒玉璽/著 思文閣出版 2009.2)
p.19-60 「第1章 青島の租借と都市インフラストラクチャー整備」
・『ハンドブック近代中国外交史:明清交替から満洲事変まで (Minerva KEYWORDS 4)』(岡本隆司/編著 箱田恵子/編著 ミネルヴァ書房 2019.4)
p.122-123 「第5部 日清戦争・日露戦争-一八八〇年代後半~一九〇〇年代 36 利権獲得競争:中国における帝国主義の絶頂と限界」
・『近代中国と列強の利権:積弱大国に展開する経済の国際政治』(斎藤良衛/著 書肆心水 2021.11)※『改訂増補 支那国際関係概観』(1925年12月刊行第6版、国際聯盟協会)の改題改版復刻
「3 列強の利権競争」に次の項がある。
p.55 「ドイツと山東省」
p.56 「露国の旅順租借、仏国の広州湾租借等」
p.57-58 「英国の態度の巧妙さ」
【論文】
・古瀬啓之「中国における勢力圏と租借地に対する英国の認識:ワシントン会議期の権益一覧表を題材に」『三重大学法経論叢』39 (1)(三重大学法律経済学会 2021.10.31)p.15-27
p.19 表
九龍と威海衛の租借地について、承認日や年限、他の条件が書かれている。
p.24-25「4,九龍と威海衛の租借についての認識」
三重大学学術機関リポジトリ https://mie-u.repo.nii.ac.jp/records/14797 (2024/6/14現在)
・広野好彦「ロシアの旅順・大連湾租借の一側面」『大阪学院大学国際学論集』31(1・2)(大阪学院大学国際学学会 2020.12.31)p.31-58
大阪学院大学学術機関リポジトリ https://ogu.repo.nii.ac.jp/records/504 (2024/6/14現在)
・尾﨑庸介「19世紀末の東アジアにおける戦略拠点の獲得とイギリス:巨文島占領と威海衛租借との比較から」『大阪学院大学国際学論集』28(1・2)(大阪学院大学国際学学会 2017.12.31)p.1-23
大阪学院大学学術機関リポジトリ https://ogu.repo.nii.ac.jp/records/345 (2024/6/14現在)
[事例作成日:2024年6月14日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 中国 (222 10版)
- 参考資料
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- B12269728 世界大百科事典 16 平凡社 2007.9 031 (389)
- B12084799 図説中国文明史 10 稲畑/耕一郎∥監修 創元社 2006.1 222.01 4-422-20261-8 (130-132)
- B12653542 ドイツ統治下の青島 浅田/進史∥著 東京大学出版会 2011.3 222.12 978-4-13-046106-1 (42-55)
- B12461991 模索する近代日中関係 貴志/俊彦∥編 東京大学出版会 2009.6 319.1022 978-4-13-026606-2 (163-170)
- B10516673 支那租借地論 植田捷雄著 日光書院 1943 329.17 (23-37)
- B12017032 中国の歴史 10 礪波/護∥[ほか]編集委員 講談社 2005.9 222.01 4062740605 (96-98)
- B12603529 岩波講座東アジア近現代通史 2 和田/春樹∥編集委員 岩波書店 2010.10 220.6 978-4-00-011282-6 (176-186)
- B13788093 新図説中国近現代史 田中/仁‖著 法律文化社 2020.2 222.06 978-4-589-04055-8 (46-47)
- B13457929 清末政治史の再構成 宮古/文尋‖著 汲古書院 2017.7 222.068 978-4-7629-6043-7 (23-24)
- B12434913 青島の都市形成史:1897-1945 欒/玉璽∥著 思文閣出版 2009.2 222.12 978-4-7842-1453-2 (19-60)
- B13673385 ハンドブック近代中国外交史 岡本/隆司‖編著 ミネルヴァ書房 2019.4 319.22 978-4-623-08490-6 (122-123)
- B14017235 近代中国と列強の利権 斎藤/良衛‖著 書肆心水 2021.11 319.22 978-4-910213-21-7 (55-57)
- 古瀬啓之「中国における勢力圏と租借地に対する英国の認識:ワシントン会議期の権益一覧表を題材に」『三重大学法経論叢』39 (1) https://mie-u.repo.nii.ac.jp/records/14797 2024/6/14現在
- 広野好彦「ロシアの旅順・大連湾租借の一側面」『大阪学院大学国際学論集』31(1・2)(大阪学院大学国際学学会 2020.12.31) ps://ogu.repo.nii.ac.jp/records/504 2024/6/14現在
- 尾﨑庸介「19世紀末の東アジアにおける戦略拠点の獲得とイギリス:巨文島占領と威海衛租借との比較から」『大阪学院大学国際学論集』28(1・2)(大阪学院大学国際学学会 2017.12.31) https://ogu.repo.nii.ac.jp/records/345 2024/6/14現在
- キーワード
-
- 中国
- 租借地
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000355933