レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023/02/01
- 登録日時
- 2023/03/09 00:31
- 更新日時
- 2023/03/09 00:31
- 管理番号
- 6001059821
- 質問
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解決
古代に北アジアで栄えた遊牧民族である鮮卑の名称の由来を知りたい。
なぜ自らの民族名に「いやしい」という意味がある「卑」の字を用いたのか。
- 回答
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漢和辞典で「卑」の字義を確認すると、酒器の盃を表わす等の意味は見つかりましたが、自らの民族名に用いる理由になりそうな意味は分かりませんでした。
・『講談社新大字典 特装版』(上田万年/[ほか]共編 講談社 1993.3)
p.301-302 卑
「字義 一 いやしい(いやし)(形)。いやしめる/ひくい(ひくし)(形)/いやしい人/さかずき/自己の謙称。 二 しむ(助動)。せしむ。使役の助字。俾に通ず。」
・『大漢和辞典 巻2 八部…口部 修訂版』(諸橋轍次/著 大修館書店 1984.6)
p.551-555 卑
第1字音である「ヒ」の字義としては、次の意味が挙げられています。
1いやしい 2いやしいもの 3いやしむ 4ひくい 5ひくいところ 6ちひさい 7おとろへる 8ちかい 9わかりよい 10へつらふ 11へりくだる 12しなやか 13つぐなふ 14恥ぢるさま 15つとめはげむさま 16さかづきの一種 17鳥の名 18庳に通ず 19埤に通ず 20裨に通ず 21姓
・『大漢和辞典 巻12 雨部…龠部 修訂版』(諸橋轍次/著 大修館書店 1986.2)
p.743-746 鮮
語彙の例に「鮮卑」があり、意味として「種族の名」等が挙げられていますが、語源の記載はありませんでした。
鮮卑について調査してみると、名称の由来にはいくつかの説があるようです。名称の由来が記載されている資料を紹介します。
・『世界の地名・その由来 アジア篇』(和泉光雄/編著 講談社出版サービスセンター 1997.1)
p.335 中華人民共和国 南海(南中国海) 鮮卑族
「鮮卑は、ツングース系の一支族でSaibi“瑞獣、神獣”の音訳で、《魏書》に「その獣は馬に似て、牛の鳴き声、……東胡は瑞獣が刻まれた金属の帯鉤“帯留め”をしている」とある。また族名は鮮卑山によっていたから、逆に山名はむしろ族名からとする説がある。その鮮卑山はどこかについて多くの説があるが、大興安嶺の南部及び遼河流域であろうという。」
・『ウイグル人』(トルグン・アルマス/著 東綾子/訳 集広舎 2019.12)
p.99-106 第一部 ウイグル・カガン国 第3章 ウイグル人がウイグル・カガン国を建てる前の状況 2 鮮卑とウイグル人
「(前略)そのときにツングースの一部はキディルカン山(興安陵山)の北にある鮮卑山(現在の遼東)に移り住んだ。それ以来、彼らはその山の名をとり、自分たちのことを鮮卑と名乗ったとされる。」(p.99)
・『北アジア史研究 鮮卑柔然突厥篇 (東洋史研究叢刊 28之2)』(内田吟風/著 京都 1975)
p.2-15 烏桓鮮卑の源流と初期社会構成―古代北アジア遊牧民族の生活― 二 烏桓鮮卑の起原
「つぎに烏桓なる族名の意味を考うるに、之が別に烏丸なる文字を以ても写されていることよりしても、同種族鮮卑族と同様、彼等の原名を当時の漢人が漢字を以て音訳したものであろうことは容易に推知し得るのであるが、しからばこれが果たして如何なる意味の原名を音訳したものであるかというと、これは甚だ究明し難い問題である。」(p.9-10)
*大阪府立図書館で所蔵している当該資料はp.5-8が落丁しているため、内容を確認できていないページがあります。
・『白鳥庫吉全集 第4巻 塞外民族史研究 上』(白鳥庫吉/著 岩波書店 1970)
p.82-114 東胡民族考 二 烏桓 鮮卑
鮮卑の名称の起原について考察しています(p.83-88)。
・『アジア・太平洋地域民族誌選集 30 満洲民俗考、満蒙民族志ほか』(山下晋司/ [ほか]編 クレス出版 2002.9)
p.148-155(満蒙民族志) 後篇 遼西及び東蒙古地方の諸民族 五 鮮卑名の起源
山名説と祥瑞説の2説を記載しています。
こちらの資料の原本となる『満蒙民族志』は国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されています。(2023/2/1現在)
・『満蒙民族志 (経調資料 ; 第113号)』(南満洲鉄道経済調査会 1936)―国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/1453212/1/84
p.148-155(84-87コマ)
以上のように、鮮卑が自らの名称に「卑」という漢字を用いたというわけではなく、住んでいた山や身に着けていた装飾品の名前から取った、もしくは後に漢人によって音に合う漢字を当てられた等と考えられるようです。
[事例作成日:2023年2月1日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 中国 (222 10版)
- 参考資料
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- 講談社新大字典 上田/万年∥[ほか]共編 講談社 1993.3 (301-302)
- 大漢和辞典 巻2 修訂版 諸橋/轍次∥著 大修館書店 1984.6 (551-555)
- 大漢和辞典 巻12 修訂版 諸橋/轍次∥著 大修館書店 1986.2 (743-746)
- 世界の地名・その由来 アジア篇 和泉/光雄∥編著 講談社出版サービスセンター 1997.1 (335)
- ウイグル人 トルグン・アルマス‖著 集広舎 2019.12 (99)
- 北アジア史研究 鮮卑柔然突厥篇 内田/吟風∥著 同朋舎 1975 (9-10)
- 白鳥庫吉全集 第4巻 白鳥/庫吉∥著 岩波書店 1970 (83-88)
- アジア・太平洋地域民族誌選集 30 復刻 山下/晋司∥[ほか]編 クレス出版 2002.9 (148-155)
- https://dl.ndl.go.jp/pid/1453212/1/84 (『満蒙民族志 (経調資料 ; 第113号)』(南満洲鉄道経済調査会 1936)―国立国会図書館デジタルコレクション(2023/2/1現在))
- キーワード
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- 鮮卑(センピ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000330014