レファレンス事例詳細

名古屋城に左甚五郎作と伝えられる彫刻はあるか。

名古屋城本丸御殿上洛殿（御成書院）の欄間彫刻（1945（昭和20）年に焼失）について、左甚五郎作であるという伝承があった。しかし、その本当の製作者は、沢田庄左衛門（「庄右衛門」とするものもある）という当時の大工頭である。この欄間彫刻の他、左甚五郎作と伝えられる彫刻は確認できなかった。

１　名古屋城についての資料に以下の記述がある
【資料1】『国宝史蹟名古屋城　上』p25
「特に上段の間境及び二の間境の欄間の彫刻は、(中略)他に多く其の比を見ないものである。『金城温古録』には「是迄欄間彫刻は左リ甚五郞上は彩色は古法眼元信と申来れり」とあるが、「事蹟錄」寬永十年八月の項に「御座敷彫物之儀澤田庄右衞門干時御大工頭平内に被仰付」とあるを以て真とせねばなるまい。」

【資料3】『名古屋城史』p259
「次に是非申し述べねばならぬは、上洛殿三室の境にある欄間の彫刻であって、（中略）この彫刻作者は古来左甚五郎の伝称が根強くとなえられてきたが、前顕事蹟録の発見によって大工頭沢田庄左衛門平内なる人の所作たることが明らかとなった。」

『金城温古録』の該当箇所は【資料4】p45で確認できる。『事蹟録』は尾張藩政の編年記録であり、現在徳川林政史研究所が所蔵している。（【資料5】参照）

２　沢田庄左衛門について以下の記述を確認
【資料6】「名古屋城上洛殿の造營に就て」p5
「徳川侯爵家蓬左文庫所蔵の最も確実な記録と考へられる「事蹟録」を調査するに（中略）一、尾州名護屋御城本丸御成書院之絵狩野采女被仰付外之御座敷ハ狩野杢助に仰付御座敷彫物之儀澤田庄右衛門干時御大工頭平内ニ被仰付　留書方状留　とあつて（中略）欄間彫刻として他に多く比疇を見ない傑作と推賞せられる彫刻の作者が明確に浮び出たことになる。」

【資料6】の著者は後に【資料7】で、調査の結果、名前を「庄左衛門」としている。

３　左甚五郎作と伝えられる彫刻について
【資料8・9】『国宝名古屋城美術図録　上・下巻』は名古屋城の美術について50図版を紹介しており作者の情報も記載されているが、下記の２図以外に左甚五郎についての記載はなかった。
「第十六図　上洛殿一の間欄間　諫鼓鶏彫刻　左甚五郎作と伝へらる
第十八図　上洛殿一の間、二の間欄間　松ニ鶴.松ニ尾長鳥彫刻　左甚五郎作と伝へらる」

４　左甚五郎について
【資料10】『日本近世人名辞典』、【資料11】『日本大百科全書』などによると、左甚五郎は、建築彫刻の名人として江戸時代に理想化された人物像であり、伝説は数多いが、実在したか否かはさだかでない、とのこと。

なお、焼失前の欄間彫刻の写真は【資料2】『国宝史蹟名古屋城　下』【資料9】『国宝名古屋城美術図録　下巻』などで見ることができる。