レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2024/07/01
- 登録日時
- 2024/07/16 14:55
- 更新日時
- 2024/10/01 13:52
- 管理番号
- 関大総図 24B-7J
- 質問
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解決
河川敷の「アジール」としての役割の詳細、歴史、その始まりから現代に至るまでの様々な事例が知りたい。
- 回答
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ご質問の「河川敷のアジール」(以下:アジール)に関する情報が掲載された(されているであろう)資料がいくつか見つかりましたので、ご紹介します。
まずはアジールの役割について記述されている資料をご紹介します。
・村田らむ『ホームレス消滅』, 2020.
第5章でホームレスが河川敷に住む理由や生活様式、ホームレスにとっての河川敷の役割など詳しくレポートされています。(pp.231-285)
村松他(2020)は、河川敷の勝手耕作は社会的弱者の生活を支え、より豊かにする福祉的な面をもっていると述べています。
林(2014)は著書の中で、海岸沿いの砂防林は公園や公共施設、駅とは異なり空間管理の拘束力が弱い(=他の妨げになっておらず、日常的に管理・監視されていない)と述べています。(p.74-77)
一方で本岡(2018)は河川敷の役割として、廃品回収業を生業とする居住者にとっては廃品への近接性と共に、回収品を保管できる場所を確保できる点がアジールになっている。(p.50)と述べ、同時に「社会的混合や社会的流動性の高さが見られる一方で,特に在日朝鮮人をはじめ,障がい者や母子世帯,戦災被害者や被爆者など社会的周縁に位置づける人々のための「拠り所」としての一面も有していたことも考えられよう.」(p.50)とも述べています。
・「サイクルエッセー 関西粋人いんたあねっと 159回 投票所はアジール」『サンデー毎日』 2000/7/30, p.53
こちら記事内容は確認できませんがタイトルから見るに、投票所を設けることでアジールが社会の役割の一つになっているのかもしれません。
映像資料としては『淀川アジール さどヤンの生活と意見』(2020)が公開されており、この映画では淀川河川敷に住む1人の男性の生活をドキュメンタリーとして映しています。
また、この映画のレビュー記事が『キネマ旬報』(2021) と『マスコミ市民』(2021) に掲載されていましたので、一度ご覧ください。
次にアジールの歴史を紐解く資料をいくつか紹介します。
本岡拓哉『不法なる空間にいきる』,2019
戦後における河川の不法占拠から立ち退きまでが書かれた資料です。第4章では居住者への行政対応とアジールについて述べられています。
中沢(2012)は第2章の中で大阪難波の砂州をブッダの言葉を引用して「無所得、無縁のアジール、それが砂州。」「砂州は輪廻の法から抜け出している」(p.79)と書いています。
宮本(1986)は隅田川の境界性・アジール性について述べています。
さらに過去に遡ると森栗(1990)によれば、鎌倉時代には農村などの“ムラ”からはみ出した者が持ち主のいない日常外にあたる河川や道に“マチ”が創り出され、さらに江戸時代になると氾濫を繰り返す河川を治水した事でムラとマチが隔離され、河原の“マチ”が展開されたようです。
その他参考情報としまして
・一般社団法人あじいる(https://agile.or.jp/)【最終アクセス日:以下すべて2024/07/15】
社会と切り離された人々が生きる場所を作っていこうと立ち上げた団体。「フードバンク」や「医療相談」「共同作業」など路上生活者を中心に様々な支援を行っています。この団体が出版する冊子「あじいる」には、路上生活経験者の声が掲載されており、河川敷の「アジール」含め歴史や役割が分かるかもしれませんので紹介しておきます。こちらの冊子は図書館には所蔵がありませんが、webサイトより購入できるようです。
・なかのまきこ『野宿に生きる、人と動物』, 2010(配置場所:2F開架閲覧室、請求記号:K*368.2*ナ、資料ID: 102812675)
こちら上記法人の前身である「隅田川医療相談会」のメンバーによる著書です。
また、質問内容と関係性は低いです厚生労働省作成の以下のような調査結果がありましたので参考までにご確認ください。
・厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)結果について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12003000/000932240.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12003000/000932241.pdf
・ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査):結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/63-15b.html
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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河川敷は戦時戦後においては不法に建てられたバラック小屋が並び、現代においては不法滞在の外国人や路上生活者が生活の場にしたりと、近代から現代まで権力に保護されない、あるいは迫害されている社会的弱者が生活を営むことのできる「アジール」として使われてきたようだ。
- NDC
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- 近畿地方 (216)
- 社会病理 (368)
- 風俗史.民俗誌.民族誌 (382)
- 参考資料
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- 村田らむ. ホームレス消滅. 幻冬舎, 2020. , ISBN 9784344985933 (自館請求記号 K*368.2*ム, 自館資料番号 103997202)
- 中沢新一. 大阪アースダイバー. 講談社, 2012. , ISBN 9784062178129 (自館請求記号 K*216.3*ナ, 自館資料番号 103209379)
- 本岡拓哉. 「不法」なる空間にいきる : 占拠と立ち退きをめぐる戦後都市史. 大月書店, 2019. , ISBN 9784272521128 (自館請求記号 N8*361.78*330, 自館資料番号 212118722)
- 森栗茂一. 河原町の民俗地理論. 弘文堂, 1990. , ISBN 4335570430 (自館請求記号 *382.1*M19*1, 自館資料番号 204251338)
- 現代都市の命運 都市民俗学序説. 旺文社, 1986. 日本の原風景 4 都市鼓動 まち , ISBN 4010713240 (自館請求記号 *382.1*N15*4, 自館資料番号 302719938)
- 辛淑玉. 山椒のひとつぶ 淀川アジール. 日本マスコミ市民会議, 2021. マスコミ市民 : ジャーナリストと市民を結ぶ情報誌 629 p. p.81-p.83 (自館請求記号 M*070.5*M1, 自館資料番号 411080814)
- 渡部実. 文化映画紹介 『淀川アジール さどヤンの生活と意見』. キネマ旬報社, 2021. キネマ旬報 1865(通巻2679) p. p.146-p.147 (自館請求記号 M*778.05*K1, 自館資料番号 411087339)
- 村松賢ほか. 福祉的観点にもとづく逸脱行為としての河川敷での勝手耕作の実態解明. 日本都市計画学会, 2020. 都市計画論文集 55(3) p. p.721-p.728, ISSN 1348284X
- 本岡拓哉. 戦後都市の河川敷居住の生成・消滅過程 : 行政対応に注目して. 立正地理学会, 2018. 地域研究 58 p. p.44-p.55, ISSN 03896641
- キーワード
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- 河川敷
- アジール
- ホームレス
- 路上生活者
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 学部生
- 登録番号
- 1000353297