レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2005年09月29日
- 登録日時
- 2022/12/24 16:14
- 更新日時
- 2023/01/24 09:51
- 管理番号
- 遠野-2005-18
- 質問
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解決
遠野地方の伝承歌「おっつう御ひとつ」と「千福山」の唄の意味を教えてほしい。
- 回答
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おっつう御ひとつは、「人を育てる唄」p224~p229に、歌詞と唄の解説が書かれている。「遠野のわらべ唄」p3にも、おっつう御ひとつの唄の意味が書かれている。
千福山は、「遠野のわらべ唄」p75~p82に歌詞と会話文による唄の解説が書かれている。
- 回答プロセス
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<所蔵資料からの調査>
【おっつう御ひとつ】
「人を育てる唄」p210~p229の「お手玉の唄」の中の「おっつう御ひとつ」p224~p229より
<歌詞>
「おっつう 御ひとつ 御一つ 御一つ 御一つ 御二つ 御二つ 御二つ 御三つ 御三つ 御三つ 御四つ 御四つ 御四つ 御五つ 御五つ 御五つ おおみんな おおみんな お枕返して おってんばらり 賊えな 賊えな 賊は敵なり 敵なり 敵なり 敵はうんだえ うんだえ うんだえ うんだえすこびっき びっきい びっきい びきびっきも おっさえ おっさえられつ おっさえられつ お晒す お願えす お願えす お願えす おおねもほかえき ほかえき ほっかえき ほかえき ほっかえき ほっかも籾どす 籾どすばったん 籾どすばったん 籾も掛けどす 掛けどすばだばだ 掛けどすばだばだ 掛けも一俵 一俵 お二俵 納めさ置えでこ(来) 一俵 お二俵 納めさ置えでこ(来) えっぺえ(一杯)盗って にへぇ(二杯)盗って 転んだって ままよ(儘よ 飯よ) 一俵 二俵 三俵 四俵 五俵のたわら 一俵 二俵 三俵 四俵 五俵のたわら えっぺぇとって まま返し えっぺぇとって まま返し まま(飯)も 一朝 一朝 一朝限り 二朝 二朝限り 三朝 三朝限り 四朝 四朝限り 五朝 五朝限り 五朝 一緒にたんたん滝水 明日は蓮華の花盛り 友来い ただ道来い ただ道来い あれあれえ 向こうの御山に 雨降り花が 咲えだか咲かねえか 今咲き揃わんぞ ほら みなさんさ 一丁貸し申した」
<唄の意味>
「人を育てる唄」のp227~p229に以下のように書かれている。
遠野は北上の山々に幾重にも囲まれた盆地です。昔は四年に一回、凶作とか飢饉になったと伝えられていて、冬はとても寒いところです。宝暦とか天明の飢饉はひどかったそうです。 (中略)
この唄はそうした飢饉のときのことを教えているといわれてました。
唄は、「年貢を納めないと夜、いきなり役人が襲って来て、逃げても蛙のように地面にたたきつけられ、仰向けにひっくりかえって捕まってしまう。捕まれば、さらし者にされ、いくらお願いしてもよそにやられてしまう。捕まってしまっては連れて行かれて一生働かされるのか、殺されるのか戻ってこない。だから、百姓は精一杯米をつくるしかない。だが、年貢米の中から、かさっこ一杯か二杯ずつ盗んで貯めておけとうたっています。
「一杯とって二杯とって転んだって儘よ」とは (中略) その小皿くらいのかさっこっで年貢米の俵の中から米を盗んで貯めておけ。盗んだ米が一俵になり、泥棒と同じになるとしても、ええっ儘よ(飯よ)。生きるためだ。やってやれということ。これは、早池峰の神様が許してくださることととります。五回の繰り返しには意味があるそうです。年貢米を納める時も五人一組で、組の誰かが納めかねれば、組のみんなが罪になったという話を、隣家のおじいさんたちはしていました。
「いつ朝一緒に たんたん滝水 明日は蓮華の花盛り 友来い ただ道来い ただ道来い あれあれ 向こうの御山に」とうたっているのは、「それでも生きられないときは、早池峰の御山の神様が迎えてくださるからみんなで行こう。滝へ入れば明日は極楽浄土だ。」といっているといわれていました。
「遠野のわらべ唄」p3にも「おっつう御ひとつ」の意味が書かれている。
「百姓は汗水たらして米を作っても役人に年貢として盗られてしまう。飢饉のときでさえ盗られる。役人は百姓の敵だ。飢饉に備えて年貢米の俵から米をほんのわずか掠めて蓄えておけ。そして飢饉が来たらその米で生きのびよ。けれどもすべてを食いつくし、餓死しかないと悟ったときは、滝へ身をなげて死ぬがよい。そのときはハヤチネサマが極楽へ迎えてくださる。」
【千福山】
<歌詞>
千福山の中の沢で 縞の財布をみぃーつけた みぃーつけた おっ取り上げて 中を見たれば 黄金の玉が九つ 九つ 一つの玉をば お上にあーげて 八つの長者よと 呼んばれた 呼んばれた 呼ぶも呼んだし 呼んばれもしたし あさひ長者よと 呼んばれた 呼んばれた 長者どのは 京へ おのぼり 瀬田の唐橋 架けやる 架けやる 瀬田の反り橋ゃ 踏めば鳴るが 大工柄か 木柄か 木柄か 大工柄より木柄よりも 手斧と鉋の掛け柄 掛け柄
<唄の意味>
「遠野のわらべ唄」p4より阿部ヤエさん(注:わらべ唄の伝承者)が小学5年生のころ、自宅の向かいに住んでいた菊池カメさんから口承によって唄を伝えられた。 (中略) 本書は阿部ヤエさんの記憶をたよりに、カメさんからヤエさんへわらべ唄の伝承がおこなわれた前後の二年間をできる限り忠実に再現した。
とあるので、p77~p82の菊池カメさんとの会話部分をまとめると
千福山は大槌の金沢にあった金山で、千福山の沢を歩いていた男が落ちていた縞の財布を拾った。財布の中には九つの金の玉が入っていた。九つあった玉のうち一つをお上に差し出して残りの八つを自分のものにして長者になった。
財布の持ち主は、源義経を平泉の藤原秀衡の所へ連れて行った商人の金売吉次から依頼されて大槌のあたりの金山を探していた山師の物だった。わらべ唄には財布の持ち主が山師の物であるとは唄われていないが、わらべ唄と山師の伝承が一緒に伝わってきた。
また拾い物は、見つけた者の物というハヤズネサマにもとづく考え方で、金の玉を拾った男は”八つの長者”と呼ばれた。さらに、八つの長者は京へ上り瀬田の唐橋をかけたから、”あさひ長者”と呼ばれた。
八つの長者が綾織にかけた反り橋があるという話を聞いたことがあるが、小さな橋を建てた長者ならばたいしたことがなくて面白くない話なので、遠野の長者が京へ上り瀬田の唐橋をかけたという話になった。遠野の長者が京へ上って日本一の橋を架けたという話は信じられないが、日本一の橋をかけた話のほうが夢があり気持ちがいい。瀬田の唐橋や金売吉次の話など、わらべ唄が百姓に歴史を語るための糸口だったのではないかと菊池カメさんは考えている。
<会話部分>「遠野のわらべ唄」p77~p82より抜粋
「千福山はむかしの有名な金山さ。大槌(現在、岩手県大槌町)の金沢ってとこにあった。っておら聞いだども」
「で、この唄は、千福山の沢を歩いてた男が縞の財布をみつけるところから始まっている。男が山さ登っていたら道に財布が落づでだ。なかをのぞいてみたら何と、金の玉が九つ入ってた」
「んだ。財布の落とし主、つまり金の玉をこしえだ者は金を探してあるく山師だったのさ。山師は、金売吉次・・・ほら義経を平泉の秀衡のとこさつれでった商人・・・その吉次に頼まれて、金沢のあたりに金が出るってことで金を探した。山師は千福山の沢で砂金を見つけた。そこで砂金を掘って金を溶かし、玉にこさえて持ちあるくうちに落としてしまったのさ」
「これは語り伝えであって、唄とは別さ。だども語り伝えとわらべ唄はいっしょに伝わってきだ」
「さて・・・財布を拾った男は、九つある玉のうち一つはお上へ差しだし、残った八つを自分のものにして長者になった。男はやがて村人から”八つの長者”と呼ばれるようになる。八つの長者は京へ上り瀬田の唐橋をかけたから、こんどは”あさひ長者”と呼ばれた。唄はそう、うたってる」
「拾い物は、八つの長者の金の玉と同じ。見つけた者の物って意味なんだ」
「千福山の金の玉はいったん土へ帰り、山のものになった。土に帰ったものはもう誰のものでもねえ。これがハヤズネサマに付いだ考え方さ」
「ここの人がわざわざ琵琶湖さ行って橋かけた、っていうのは、ちょっと信じられねえけど。まんず瀬田の唐橋っていえば日本一の橋だから・・・そういう橋をここの人がかけたっていえば、気持ちええべ」
「ずーと前にきいた話だども・・・綾織(現在、遠野市綾織町)にむかし”反り橋”って橋がかかっていたって・・・八つの長者がかけたのは、その橋じゃないかって、おら聞いだども。そんな小っちゃな橋かけるぐれえの長者なら大した長者じゃねぇし、話としても面白くねえもんな。やっぱす京さ、わざわざ上って日本一の橋をかけたっていったほうが、夢があるもな」
「おらの考えじゃぁ、この話にでてくる”瀬田の唐橋”ってのも、百姓に歴史をおしえるための糸口じゃなかったのかな、と思う。”砂金”とか”八輪”とかも、金売吉次や義経の時代を語るために考えたにちげえねえって思ってる」
- 事前調査事項
- NDC
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- 伝説.民話[昔話] (388 8版)
- 声楽 (767 8版)
- 参考資料
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阿部ヤヱ 著 , 阿部, ヤヱ, 1934-. 人を育てる唄 : 遠野のわらべ唄の語り伝え. エイデル研究所, 1998.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002695923-00 , ISBN 4871682625 -
伊丹政太郎 著 , 伊丹, 政太郎, 1935-. 遠野のわらべ唄 : 聞き書き菊池カメの伝えたこと. 岩波書店, 1992.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002251754-00 , ISBN 4000015117
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阿部ヤヱ 著 , 阿部, ヤヱ, 1934-. 人を育てる唄 : 遠野のわらべ唄の語り伝え. エイデル研究所, 1998.
- キーワード
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- 昔話
- 童謡
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000326393