畠山重忠は、鎌倉幕府草創期の有力な御家人で、知勇兼備にして人格清廉な武将
であったといわれています。しかし幕府内の権力争いに巻き込まれ、
最後は「二俣川の合戦」(現在の旭区鶴ケ峰付近)で討ち死にしました。
旭区内にも重忠にまつわる名跡がいくつも残っています。
畠山重忠やその家族が登場する文芸作品を、横浜市立図書館の所蔵資料から
ご紹介します。
1 畠山重忠(または家族)が主人公
(1) 『重忠忌 ある父子の一日』 中山良太/著 文芸社 2010
二俣川の合戦の一日を、重忠の末子重慶の目から見た、父としての重忠を中心に
描きます。作者は二俣川出身、大学在学中に本書を執筆しました。
(2) 『小説畠山重忠 傲慢の誘惑に打ち勝った鎌倉武将』 釈小空/著 鶴峰旭 2016
地図・系図・年表・注釈など膨大な資料を折り込みながら、
重忠の一生を小説風に描きます。発行者は旭区在住です。
(3) 『青龍・天に昇る 畠山重忠の苦悩と生涯』 釈小空/著 鶴峰旭 2016
『小説畠山重忠』『物語畠山重忠』と同じ著者によるものです。
資料的な部分は割愛され、より小説風に描かれています。
(4) 『名は惜しめども 畠山重忠の父』 北澤繁樹/著 さきたま出版会 2014
畠山重忠の父重能の、時流に逆らわず、政治の闘争から身を引いて誠実に生きた
生涯を描きます。
(5) 『畠山重忠 1』 菊池道人/著 一人社 2017
幼少期から頼朝に臣従するまでを、革新的な三浦一族と保守的な秩父一族、
都での静御前や忍びの傀儡子左近との交流などを交えて描きます。
作者は横浜在住。
(6) 『畠山重忠 2』 菊池道人/著 一人社 2017
富士川の戦いから一ノ谷の戦いまでを、平家への臣従を貫き源氏に組しない
父との相克とともに描きます。
(7) 『畠山重忠 3』 菊池道人/著 一人社 2017
平家追討から奥州合戦までを、畠山重忠と忍びの傀儡子左近の目から描きます。
(8) 『畠山重忠 4』 菊池道人/著 一人社 2017
実朝を廃し、婿の平賀朝雅を将軍にと画策する北条時政。邪魔な畠山父子を
謀殺します。左近は琵琶で重忠の物語を語りながら、左近山(現在の地名)
辺りで生涯を終えます。
(9) 『畠山重忠 武者の世を創った漢』 田口悠次郎 郁朋社 2021
奸計に巻き込まれ非業の死をとげながらも、さわやかに明るく生きた好漢、
畠山重忠の生き方を、小説で語ります。
(10) 『物語畠山重忠 傲慢の誘惑に打ち勝った鎌倉武将』 釈小空/著 鶴峰旭 2016
地図・系図・年表・注釈など膨大な資料を折り込みながら、
重忠の一生を小説風に描きます。発行者は旭区在住です。
『小説畠山重忠』とほぼ同じ内容。
(11) 『雄鷹たちの日々 畠山重忠と東国もののふ群伝』 斉東野人/著 海象社 2017
重忠の、ふるさと武蔵の国ですごした少年時代から二俣川で亡くなるまでの一生を、
周りの武士たちとともに描きます。作者は埼玉県生まれ。
(12) 『世になし者たちの祝祭 畠山重忠と曽我兄弟』 酒神敬/著 文芸社 2002
伊東一族の内紛で父を殺された曽我兄弟と、彼らに心を寄せる重忠との交流を、
時流の外に身を置く「世になし者」をキーワードに描きます。
2 畠山重忠(または家族)が一部登場
(1) 『尼将軍』 三田誠広 作品社 2021
尼将軍と呼ばれた北条政子の生涯を、万寿と呼ばれた少女時代から描きます。
【重忠関連部分・内容】重忠は直接登場しませんが、畠山重忠の乱の真相も、
北条氏の立場から描きます。
(2) 『尼将軍北条政子 2 頼家篇(角川文庫)』
桜田晋也/〔著〕 角川書店 1993
“尼将軍”と呼ばれた北条政子と北条家が、権力を掌握する様子が描かれます。
【重忠関連部分・内容】北条一族が、梶原景時、畠山重忠、比企能員ら頼家の
腹心を次々に葬り、権力を手中にする様が描かれます。
(3) 『戦をせんとや生まれけむ』 若木未生/著 祥伝社 2022
梶原景時の目から見た源頼朝と鎌倉幕府創成を描きます。
【重忠関連部分・内容】重忠について、宇治川の先陣争いに絡んだ馬を愛する
武将としてのエピソードなどが描かれています。
(4) 『炎環 新装版(文春文庫)』 永井路子/著 文藝春秋 2012
源頼朝、阿野禅師、梶原景時、北条時政、北条四郎(義時)・・・、鎌倉幕府
創世期に、権力者へと登ろうとした人々がひしめき合い、傷つけ合う姿を
描き出します。直木賞受賞作。
【重忠関連部分・内容】
「黒雪腑」:重忠は、武辺一辺倒で乱暴者の坂東武者の代表として
描かれています。伊勢の荘園をめぐる争いで謀反の疑いをかけられましたが、
一本気な忠義を認められ頼朝に許される事件に触れています。
「覇樹」:北条義時を主人公に、北条氏が権力を掌握していく様を描きます。
二俣川合戦の顛末と、その結果、北条氏が武蔵の国を手中に収めていく駆け引きも
描かれます。
(5) 『鎌倉殿争乱 珠玉の歴史小説選(光文社文庫)』 菊池仁/編 光文社 2021
鎌倉幕府創世期の権力をめぐる争いを題材とした歴史小説6篇を収録。
【重忠関連部分・内容】「時政失脚」桜田普也:北条一族の武蔵の国への野望の
やり玉に挙げられたのが、畠山一族だった。
重忠の乱と二俣川の合戦についても描かれている。
(『尼将軍北条政子 頼家編』桜田普也 より抜粋)
(6) 『鎌倉燃ゆ 歴史小説傑作選(PHP文芸文庫)』
谷津矢車/ほか PHP研究所 2021
鎌倉幕府草創期から三代将軍実朝の暗殺までの時代を舞台にした、実力派作家
7人によるアンソロジー。
【重忠関連部分・内容】
「水草の言い条」 谷津矢車/著 p.5-74:
父の言うままに生きてきた北条義時が、畠山重忠謀殺に心ならずも
加担させられたことから、父に反抗し己の道を生きます。
「重忠なり」 矢野隆/著 p.308-351:
畠山重忠の人となりと坂東武者の誇りを、二俣川の合戦を中心に、北条義時の
目から描きます。
(7) 『ギケイキ 2 奈落への飛翔』 町田康/著 河出書房新社 2018
「義経記」を大胆に現代の若者の言葉で翻案、源義経が現代人に語る、
義経の一代記。文庫版(2021年)もあります。
【重忠関連部分・内容】義経を誅殺しようと命じた頼朝に対し、
重忠が理路整然と反論します。重忠は「アホほど正直な男」とされています。
(8) 『傑作!名手たちが描いた小説・鎌倉殿の世界(宝島社文庫)』 宝島社 2021
鎌倉幕府樹立時の葛藤を時代小説の名手たちによる傑作を集めたアンソロジー。
【重忠関連部分・内容】「覇樹」永井路子:北条義時を主人公に、
北条氏が権力を掌握していく様を描きます。二俣川合戦の顛末と、その結果、
北条氏が武蔵の国を手中に収めていく駆け引きも描かれます。
(9) 『言の葉は、残りて』 佐藤雫/著 集英社 2020.2
三代将軍実朝に嫁いだ坊門信子の目を通して、武ではなく言葉の力での統治を
目指した実朝の生涯と二人の愛を描きます。第32回小説すばる新人賞受賞作。
文庫版(2022年)もあります。
【重忠関連部分・内容】嫁ぐ信子に声をかけたさわやかな警護の侍畠山重保
(重忠の息子)。重保との交流を通して、鎌倉に嫁いで間もなくの事件として、
畠山重忠の乱の顛末が描かれます。
(10) 『修羅の都』 伊藤潤/著 文藝春秋 2018
頼朝と政子を中心に、鎌倉幕府創世期を描きます。文庫版(2021年)もあります。
【重忠関連部分・内容】権力者頼朝に対しても、誠心誠意仕え苦言も辞さない
重忠の姿が描かれています。
(11) 『北条義時 小説集』 海音寺潮五郎/ほか 作品社 2021
北条義時をめぐる小説を、海音寺潮五郎・岡本綺堂・永井路子ら5人の
小説家の作品6篇を収録。
【重忠関連部分・内容】「梶原景時」海音寺潮五郎:重忠が拝領した荘園を
めぐる訴訟事件について、梶原景時が頼朝に讒言しましたが、他の御家人が
重忠を擁護し、重忠も「言葉と本心をたがえないことを本領としている」と
誠心を見せたことが物語られます。
(12) 『北条義時 「武士の世」を創った男(PHP文庫)』
嶋津義忠/著 PHP研究所 2021
伊豆の田舎武士の若者が、次第に権力者となるまでの葛藤と成長を描きます。
文庫オリジナル。
【重忠関連部分・内容】畠山重忠の乱と二俣川の合戦を、目の前で親友重忠を
見殺しにした義時の葛藤とともに描きます。
(13) 『北条義時 我、鎌倉にて天運を待つ(潮文庫)』
髙橋直樹/著 潮出版社 2021
うすぼんやりといわれながら、天性の運の良さと頭の切れで、権力者に
なっていく義時を描きます。
【重忠関連部分・内容】重忠誅殺も、義時が裏で糸を引いていたとして
描かれています。
(14) 『真山青果全集 第2巻』 真山青果 講談社 1975
新派の史劇で第一人者といわれた真山青果(1878―1948)の戯曲集。
【重忠関連部分・内容】「頼朝の死」:重忠の息子・畠山重保が、
女の元に忍ぶ頼朝を不審者と誤って斬り、それが頼朝の死の原因と
されています。秘密に苦しむ重保と、将軍でありながら
何も知らされない源頼家の苦悩を描きます。
(15) 『三浦半島記(街道をゆく42)』 司馬遼太郎/著 朝日新聞社 1996
幕末、鎌倉幕府開幕と終焉・・・。三浦半島と鎌倉をめぐる歴史紀行。
の1章があります。文庫版(2009年)もあります。
【重忠関連部分・内容】「横浜・二俣川」:鎌倉武士の鑑といわれていた
好漢が、なぜ滅ぼされたか。鎌倉幕府のあり様と重忠の生涯を紹介します。
(16) 『夜叉の都』 伊東潤/著 文藝春秋 2021
頼朝亡き後、夜叉ともなって、鎌倉を守り抜いた北条政子を描きます。
【重忠関連部分・内容】二俣川合戦の顛末を、政子と時政・牧の方との対立を
背景に描きます。
(17) 『義経と郷姫』 篠綾子/〔著〕 角川学芸出版 2005
頼朝の命で源義経の許に嫁いだ川越重頼の娘、郷姫(さとひめ)。
奥州で義経とともに最期を遂げた郷姫の生涯を描きます。
文庫版(加筆修正 2022年)もあります。
【重忠関連部分・内容】重忠(郷姫のいとこ)が郷姫の初恋の人として
描かれます。また、重忠が、義経を追って都落ちする郷姫を助ける
シーンもあります。
(18) 『義時運命の輪(集英社文庫)』 奥山景布子/著 集英社 2021
父時政や姉政子、義兄頼朝に翻弄される無力な青年が、運命の環をつかんで
執権となる半生を描きます。
【重忠関連部分・内容】「畠山重忠」:奥州攻めの際の重忠の活躍を見て、
自分とさほど齢の変わらぬ重忠を、義時が「さすが知恵者」と感心する
シーンがあります。二俣川の戦いを義時の目から描きます。