レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2009年01月09日
- 登録日時
- 2009/01/09 16:14
- 更新日時
- 2020/06/17 12:28
- 管理番号
- 0110301142
- 質問
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解決
安房直子の『きつねの窓』の、指で窓を作るエピソードは、もともと柳田国男の文章が元になっているらしい。
柳田国男の子どもの遊びの伝承などの話がまとまっていたら、そこに掲載されていると思うのだが、そのようなものはあるか。柳田国男の作品の何に掲載されているかは不明である。
- 回答
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『きつねの窓』とは児童文学作家である安房直子の代表作であり、教科書にも掲載されていました。質問のエピソードとは、桔梗の花の汁で指を染め、指で窓を作ってそこから覗くと懐かしい風景や人が見えるというものです。
このエピソードが具体的に何に掲載されているか不明であったため全集を中心に確認し、『柳田国男全集 12』所収「こども風土記」のなかの“狐あそび”の項(p.408-410)に次の記述を発見しました。
“~今も田舎に残ってゐる狐遊び、大阪でもと「大和の源九郎はん」などといつた鬼ごとである。百年以前の嬉遊笑覧にも
鬼ごとの一種に、鬼になりたるを山のおこんと名づけて、引きつれて下に屈み、ともともつばな抜こゝと言ひつつ、 芽花(つばな)抜くまねびをしてはてに鬼に向かひ、人さし指と大指とにて輪をつくり、その内より覗き見て、是なにと問へばほうしの玉といふと、皆逃げ去るを鬼追ひかけて捕ふる也
と見えてゐる。今日の「御山の御山のおこんさん」遊びの筋書きは~”
質問者に確認、おそらくこれであろうとのことでした。
後日『現代日本文学全集 12 柳田國男集』所収の“狐飛脚の話”に、次の記述を発見しました(p.68)。
“~私たちは小さい頃に~(略)~又は指を組んで狐窓といふものをこしらへ、其方角を穴から覗くと、狐がかみしもを着て行くのが見えると言つたりしたが、固よりさういふことを信ずる者は小児の中にすらも無かつた。~”
また『こころが織りなすファンタジー 安房直子の領域』のなかに
“~ききょうで青く染めた子ぎつねの指、―『遠野物語』から持ってきたと作者の語る―”
との一文を発見しました(p.20)。出典は『教科通信』5巻9号(教育出版、1978年)掲載の「メルヘン童話の世界・作者と語る」とのことですが当館未所蔵のため確認することはできませんでした。
『遠野物語』を確認したところ、狐に関する説話はありますが狐の窓、もしくは物語を彷彿とさせる記述を発見することはできませんでした。
なお『安房直子コレクション 3』所収のエッセイ「読むことと書くこと」には
“~机の上に置く本は、そのときによっていろいろですが、ここ数か月きまって持ってくるのが、『遠野物語』と「宮沢賢治童話集」です。~(略)~『遠野物語』を読むのは二度目ですが、十年前に読んだときに感じたたいくつさが、今は少しもなく~”
との記述も見られます(p.302)。
このエッセイは1983年掲載であり、前出『こころが織りなすファンタジー 安房直子の領域』の作品初出年代順リストによると「きつねの窓」の雑誌掲載は1971年、前出の
“~ききょうで青く染めた子ぎつねの指、―『遠野物語』から持ってきたと作者の語る―”
との齟齬が見られます。
なお、柳田が「こども風土記」中で引用した『嬉遊笑覧』(『日本随筆大成』9巻)は“つばなぬこゝ”の項(p.149)ですが、元の『嬉遊笑覧』の引用部分の続きには、この遊びの名称が狐の窓である旨の記述があります。
さらに『嬉遊笑覧』(『日本随筆大成』10巻)には子どもの指遊びとしての“狐の窓”(p.248)の項があり、篠田の狐の説話などの記述もありました。(篠田の狐とは、安部保名と契りを結んだが正体が知れて姿を消した狐の葛の葉のこと。安部保名と葛の葉の子どもが陰陽師として高名な安部晴明とされる)
さらに、柳田国男とは直接の関係は見つけられませんでしたが、質問内容との関連がうかがわれる資料がありました。
特定の形で指を組み、そこから覗き見ることで狐の嫁入りを見たり、狐からの難を避けることができるという伝承がかつては広く知られていたようです。このときの指の形を“狐の窓”“狐の穴”“狐格子”などと呼びあらわすようです。この伝承については『しぐさの民俗学』(p.111-116)『昔話伝説研究の展開』(p.404-405)のなかで触れられており、両資料とも狐の窓の作り方の図解が掲載されています。また『南方熊楠全集 4』(p.298)『狐をめぐる世間話』(p.48)にも若干の記述がありました。
また、 子どもの指遊びとしての“狐のお窓”について『江戸の子供遊び事典』では“お山のお山のおこんさん”の項(p.282-284)で、この遊びは江戸時代後期に流行した狐の窓という遊びから生まれたとあり、特定の形で組んだ指から覗くというしぐさの呪術的な側面についても記述があります。この遊びから“ことしのぼたん”などの遊びが派生したとの記述もありました。同書の“つばなつばな”の項(p.285-287)にも狐の窓と関連する記述があります。
『日本こどものあそび図鑑』の“狐のお窓”の項(p.70-71)にも記述と狐の窓の作り方の図解が掲載されていました。
- 回答プロセス
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日外アソシエーツ「個人全集・内容綜覧」の柳田国男全集の内容部分をチェック、当館所蔵の柳田国男の全集類を直接確認。
筑摩書房「定本柳田国男集 31」収録「おとら狐の話」も提供したが、これは違うようであるとのことだった。
レファレンス共同データベース事務局より、Twitter経由の情報『しぐさの民俗学』をご紹介いただき、内容を確認する。同じ著者の「異界を覗く呪的なしぐさ」が収録されている『昔話伝説研究の展開』についても確認。この両作品のなかで南方熊楠に触れられていたことから、南方熊楠の資料にあたる。
また狐に関する伝承及び近世の子どもの遊び、安房直子からもアプローチをおこなう。
- 事前調査事項
- NDC
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- 社会.家庭生活の習俗 (384 9版)
- 参考資料
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柳田国男 著 , 柳田, 国男, 1875-1962. 柳田國男全集 第12巻. 筑摩書房, 1998.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002688745-00 , ISBN 448075072X (当館資料番号 112597059) -
柳田 国男/著 , 柳田‖国男. 定本 柳田国男集 第31巻. 筑摩書房, 1979.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005607670-00 (当館資料番号 110295441) -
常光徹 著 , 常光, 徹, 1948-. しぐさの民俗学 : 呪術的世界と心性. ミネルヴァ書房, 2006.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008304843-00 , ISBN 4623046095 (当館資料番号 113913750) -
野村純一 編著 , 野村, 純一, 1935-2007. 昔話伝説研究の展開. 三弥井書店, 1995.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002448858-00 , ISBN 4838280297 (当館資料番号 114607344) -
南方, 熊楠, 1867-1941. 南方熊楠全集 4 (雑誌論考 2). 平凡社, 1972.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001232325-00 (当館資料番号 111547428) -
松谷みよ子 編 , 松谷, みよ子, 1926-2015. 狐をめぐる世間話. 青弓社, 1993. (シリーズ・日本の世間話 ; 5)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002282338-00 , ISBN 4787290827 (当館資料番号 111782298) -
笹間良彦 著画 , 笹間, 良彦, 1916-2005. 日本こどものあそび図鑑. 遊子館, 2010. (遊子館歴史図像シリーズ ; 3)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010970454-00 , ISBN 9784863610101 (当館資料番号 114404031) -
中田幸平 著 , 中田, 幸平, 1926-. 江戸の子供遊び事典. 八坂書房, 2009.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010331271-00 , ISBN 9784896949360 (当館資料番号 114233968) -
日本随筆大成編輯部 編. 日本随筆大成 別巻 9. 吉川弘文館, 1979.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001410702-00 (当館資料番号 111404422) -
日本随筆大成編輯部 編. 日本随筆大成 別巻 10. 吉川弘文館, 1979.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001411451-00 (当館資料番号 111404430) -
現代日本文学全集 第12 (柳田国男集). 筑摩書房, 1955.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000981540-00 (当館資料番号 116105891) -
藤澤成光 著 , 藤澤, 成光, 1946-. こころが織りなすファンタジー : 安房直子の領域. てらいんく, 2004. (てらいんくの評論)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007426417-00 , ISBN 4925108573 (当館資料番号 113573570) -
安房直子 作 , 北見葉胡 画 , 安房, 直子, 1943-1993 , 北見, 葉胡, 1957- , 安房, 直子, 1943-1993. ものいう動物たちのすみか. 偕成社, 2004. (安房直子コレクション ; 3)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007318817-00 , ISBN 4035409308 (当館資料番号 120853668)
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柳田国男 著 , 柳田, 国男, 1875-1962. 柳田國男全集 第12巻. 筑摩書房, 1998.
- キーワード
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- きつねの窓
- 柳田国男
- 安房直子
- 遊び
- 遊戯
- 異界
- 狐の窓
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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2016.3.4:『しぐさの民俗学』、『昔話伝説研究の展開』、『南方熊楠全集 4』を追加し、回答および回答プロセスに追記。
2020.6.17:『狐をめぐる世間話』『日本こどものあそび図鑑』『江戸の子供遊び事典』『日本随筆大成 別巻9・10』『現代日本文学全集12 柳田國男集』『こころが織りなすファンタジー』『安房直子コレクション 3』を回答に追加し、修正。
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000050545