「どのくらいの種類」という問いから、種類がたくさん載っている話型索引(タイプインデックス)が必要となる。話型を構成する要素にモティーフがあるが、1つのモティーフで成立する昔話もあるので、参考としてモティーフインデックスも調べる。
<モチーフとタイプについて>
モチーフは、昔話を構成する最小の要素です。昔話は、複数のモチーフが一定の順序でつながって、1つのタイプ(話型)を形成します。 このつながり方によって、「これは○○○の話である」と判断します。 笑話のような短い話は、単一のモチーフで1つのタイプが成立することもあります。
○日本の昔話のタイプインデックス
戦後すぐに、目的も分類システムも異なるわが国の2大カタログが刊行された。
①『日本昔話名彙』 柳田國男監修 日本放送協会編 日本放送出版協会 1948
わが国初の本格的なタイプインデックス。柳田は、およそ3000の昔話資料を、「完形昔話」「派生昔話」に大別し、後者は前者よりわかれたものとし、現状の伝承より、その昔話の祖型の持つ意味を考えての分類となっている。完形昔話の下位区分に誕生と奇端、兄弟の優劣など10グループ183話型、派生昔話のもとに笑話、化物話など6グループ146話型、その他に12話型を指摘。
各タイプの始めに典型的な例話の概略を載せ、類話を北から南に配列している。これより前、柳田は1936に民間伝承の会から、昔話の採集のための『採集手帖』(成城大学民俗学研究所で閲覧可能)を出している。この小さな手帖は見開きの右頁に昔話のあらすじを記し、左頁は白紙になっており、日本の主要昔話100の実例(1.桃太郎~100.果なし話)を載せている。(※以後は『名彙』と略す)
②『日本昔話集成』 全6巻 関敬吾著 角川書店 1950~1958
関は、明治末~第二次大戦の前までに採集された昔話約8000を、動物昔話、本格昔話、笑話の三部に分類し、およそ650話型を設定。著書の中で、昔話の国際比較に資すべく編纂したと述べているとおり、国際的分類基準といわれているアールネートンプソン(AT)と同様の分類を採用。各話型ごとに話型番号を付し、各話型の最初によく整った事例を完全な形で記載し、その後にすべての類話のあらすじを北から南に配列する。ただし、3部分類はATとおなじだが、その下位区分は、関独自(日本的な特徴のある)の分類になっている。
第6巻の巻末に掲載してある「昔話の型」こそ、本来の意味でのタイプインデックスといえる。(※以後は『集成』と略す)
③『日本昔話大成』 全12巻 関敬吾・野村純一・大島広志編 角川書店 1979~1980
明治末~昭和51年までに直接昔話の語り手から採集されたおよそ35,000の事例を『集成』に基づいて動物昔話、本格昔話、笑話の3部に分類、集成の話型番号を適用し、諸外国との比較研究のためにAT番号を付す。集成の約650話型に約90の新話型を追加している。整った昔話を優先して代表例にあげ、類話は要約し、南から北へ配列。『集成』と配列を逆にしたのは、わが国の昔話が朝鮮、中国、南方からより多く移入されたという仮定による。
11巻の資料篇がタイプインデックスにあたり、「昔話の型」、『大成』とATを対照させた50音順の「話型索引」、「主人公索引」などがある。(※以後は『大成』と略す)
④『日本昔話通観』 全31巻 稲田浩二・小澤俊夫編 同朋舎出版 1977~1990
伝承の地方的、風土的特性を重視し、その把握の積み重ねの上にわが国の昔話伝承の実相が明らかにされるという観点から、資料を伝承圏別(便宜的に県別)に編集し、話型や主要モティーフで昔話と重なる伝説・世間話も収録している。分類は、「むかし語り」「笑い話」「動物昔話」「形式話」の4部分類をとり、その下の話型群を29設け、1211話型を抽出している。配列は、話数の多い話型順。
『通観』の最大の特色の1つは、AT番号との対応のほかに、スティス.トンプソンの『民間文芸のモティーフ索引』との対応がなされている点であり、わが国のモティーフインデックスとして利用できる。
巻末に「タイプインデックスの比較・対照表」「S.トムソン『民間文芸のモチーフ・インデックス』対応関係索引」「AT対応関係タイプ索引」「タイプ名・サブタイプな索引」がある。(※以後、『通観』と略す)
○その他
タイプインデックスではないが、日本の昔話がわかるもの
『日本昔話事典』 稲田浩二ほか編 弘文堂 1977
昔話に関係のある全項目を15の分野に分類その中の1つに「話型」を設ける。巻頭の項目分類目次に本格昔話、笑話、動物昔話の順で6600話型を紹介している。巻末には、日本昔話事典・日本昔話名彙・日本昔話集成・韓国・中国・ATの話型対照表を付けている。
(※韓国は崔仁鶴著『韓国昔話の研究』弘文堂1976、中国は、W.エーバーハルト『Typen Chinesischer Volksmarchen』Helsinki 1937 を使用)
○世界のタイプインデックス
①『The types of the folktale : a classification and bibliography 』 Antti Aarnes Verzeichnis der Marchentypen (FF communications NO.3); translatedand enlarged by Stith Thompson. Hellsinki 1961
(FFcommunications no.184)
フィンラントのアンティ.A.アールネが、1910に世界で初めて作成した昔話の国際的な分類基準が『昔話の型目録』(FFC 3)で、後にアメリカのスティス・トンプソンが1927に改定増補したものが本書で、1961に更に改定。分類は、動物昔話、本格昔話、笑話、形式譚、未分類に大別、すべての話型に分類番号(AT番号)を付している。資料がインド・ヨーロッパに偏っている指摘はあるが、世界で最も信頼され利用されるタイプインデックスにかわりはない。
②『The types of internation folktales : a classification and bibliography : based on the system of antti Aarne and Stith Thompson 』Hans-Jorg Uther part 1~3 Suomalainen Tiedeakatemia, (FFcommunications no. 284~286)
本書は前褐のアールネ=トンプソンの『昔話の型』をベースにしており、そこでATにウターを加えて、ATUと略している。
ウターはATで採用していた5部分類を、動物昔話、魔法物語、宗教的物語、現実的物語、愚かな鬼の物語、逸話と笑話、形式譚に変更し話型に1~2399の番号をつけている。ウターは、前褐書で指摘されていた新しい資料が追加されていない、研究文献に関する情報が少ない等多くの点を改善した。わが国の新しい研究成果については、あまり取り上げられていない。
参考図書
『A Type and Motif Index of Japanese Folk-Literture』 Ikeda Hiroko Helsinki 1971 (FFcommunications. no . 209)
『Motif-index of folk-literature; a classification of narrative elements in folktales, ballads, myths, fables,mediaeval romances, exempla, fabliaux, jest-books, and local Legends』by Stith Thompson. IndianaUniversty Press
1975 Vol.1~6