レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021/12/28
- 登録日時
- 2022/01/16 00:30
- 更新日時
- 2022/02/21 15:47
- 管理番号
- 6000062801
- 質問
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解決
ギリシャ神話のパンドラの箱について、「箱ではなく壺だった」「壺は2個あった(確か一つは禍いで一つは幸福)」という話が載っている本を探している。
- 回答
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「箱ではなく壺だった」
『仕事と日』(岩波文庫)
pp.16-24に「パンドーレーの物語」があり、pp.22-23に、「ところが女はその手で甕の大蓋をあけて、甕の中身をまき散らし、人間に様々な苦難を招いてしまった。」との記述あり。
ヘーシオドスによる『仕事と日』はパンドラについて書かれた最古の物語と言われており、「箱ではなく元々は甕(壺)であった」と言える。
『時間を忘れるほど面白い「世界の神話」』(三笠書房)pp.30-31
『世界神話伝説大事典』(勉誠出版)p.803
上記2つの資料にも「箱ではなく壺であった」ことや「箱は壺の誤訳」であることの記載あり。
「壺は2個あった(確か一つは禍いで一つは幸福)」
『イーリアス』(富山房)p.1137
「パンドラの箱」の観念のもとになったとされる一説があり、その箇所では壺は福を充たしたものと難を充たしたものの2つあると書かれている。
以上の資料を提供した。
- 回答プロセス
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「パンドラ」をキーワードに自館所蔵資料を検索し、ギリシャ神話について書かれている本を取り寄せて内容確認。
『時間を忘れるほど面白い「世界の神話」』(三笠書房)pp.30-31によると、「パンドラの箱」とは、「この世に誕生した最初の人間の女性であるともいう(中略)パンドラは『開けてはいけない』と言われていた箱を、好奇心に負けて開けてしまった。すると、そのとたん、箱のなかから疫病や悲嘆、欠乏、犯罪など、あらゆる災厄が飛び出して地上に広がっていた。その結果、世界には災厄が満ちあふれ、人々は苦しむことになったという。/ただ、パンドラの箱の底には、ひとつだけ飛び出さなかったものがあった。それは、『希望』である。そのため、人間は希望を失わずに生きていけるのだともいわれている。」というギリシャ神話である。
同じく『時間を忘れるほど面白い「世界の神話」』(三笠書房)p.31に「本来パンドラがゼウスからもたされたのは、『箱』ではなく『壺』であったという。それがいつしか箱ということになったようだ。」という記述あり。
他の資料も調べるため、レファレンス協同データベースにて「パンドラ」を検索。
熊本県立図書館の事例「パンドラの箱についての概要を知りたい。」の中に「「箱」は「壺、甕(かめ)」の誤訳とされている。」との記載があり該当の『世界神話伝説大事典』(勉誠出版)を確認、p.803に「パンドーラー」の項目あり。
パンドーラーがふたを開けたものは「持参金として持ってきた壺」との記述に加えて「『パンドーラーの箱』は開けてはいけないものを意味する慣用句ともなったが、『箱』は『壺、甕』の誤訳(あるいはプシュケーターの箱との混合)に過ぎない。」との解説があった。
『世界神話伝説大事典』で参考文献として挙げられていたヘーシオドスの『仕事と日』(岩波文庫)を確認。
pp.16-24に「パンドーレーの物語」があり、pp.22-23に、「ところが女はその手で甕の大蓋をあけて、甕の中身をまき散らし、人間に様々な苦難を招いてしまった。」との記述あり。
ヘーシオドスの『仕事と日』について調べるため、「ヘーシオドス」「仕事と日」をキーワードにインターネット検索。
ヒットした、東京大学社会科学研究所希望学プロジェクトのページ内の「『希望』を考える」ページに「ギリシア神話『パンドラの箱』から」(河野仙一)というコラムの中に「ヘシオドスの手による物語が最古のものである。」という記述あり。
https://project.iss.u-tokyo.ac.jp/hope-archive/think/060119_kono.html
これらから「パンドラの箱」はヘーシオドスの『仕事と日』で書かれている「パンドーレーの物語」がもとになっていることがわかり、『仕事と日』では箱ではなく「甕(壺)」と書かれていることがわかった。
以下の資料にはギリシャ神話「パンドラ」のエピソードの掲載があるが、いずれもパンドラが開けたのは「箱」となっている。
『ギリシア神話』(のら書店)pp.25-31
『名作を1冊で楽しむ ギリシア神話』(講談社)pp.4-21、p.14に箱のイラストあり
『ギリシア神話』(講談社青い鳥文庫)pp.26-28
『ギリシア神話 ふしぎな世界の神様たち』(集英社みらい文庫)pp.17-22
『ギリシア神話物語事典』(原書房)pp.188-189
『大人のための残酷「ギリシア神話」』(日本文芸社)pp.64-73
「壺は2つあった」ことについて調べるため、「パンドラ」「壺」「2つ」をキーワードにインターネット検索したところ、AlegsaOnline.comというオンライン上の百科事典「パンドーラー」の項目に、「ゼウスの宮殿の床には2つの骨壷があり、1つは悪の贈り物で満たされ、もう1つは善の贈り物で満たされている」との引用があり、これはホメロスの「イリアド(イーリアス)」に記されている内容と記述あり。
https://ja.alegsaonline.com/art/74347
自館資料を検索し、『イーリアス』(富山房)を確認したところp.1137に「二つの壺はクロニオーン、ヂュウスの門におかれあり、一つは福を他は難を充たす」とあり、続いて「ヂュウスが人間に与ふるところ、--雷霆の神こを混じ与ふれば、人は時には禍に時には福に出で合はむ。禍のみを受くる者ただ凌辱に暴されむ、つらき「飢饉」は神聖の大地の上に彼遂はむ、神と人とに侮られ彼は四方に彷徨はむ。」
この一説に対する解説として「後の詩人が歌へるパンドーラの箱の観念はここらより来るならむ」との記述があった。
以上のことから、
『時間を忘れるほど面白い「世界の神話」』(三笠書房)pp.30-31
『世界神話伝説大事典』(勉誠出版)p.803
『仕事と日』(岩波文庫)pp.22-23
『イーリアス』(富山房)p.1137
を利用者に紹介した。
また、先に参照した『仕事と日』(岩波文庫)のpp.109-144に「ホメーロスとヘーシオドスの歌競べ」という短編が収録されており、pp.177-200の解説を合わせると、ホメーロスとヘーシオドスは古代ギリシアで同時期に活躍した詩人であることもわかった。
(ウェブサイトの最終アクセス日:2022/1/16)
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
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- 『仕事と日』 ヘーシオドス/[著] 岩波書店 (pp.16-24)
- 『イーリアス』 ホメーロス/[著] 富山房 (p.1137)
- 『時間を忘れるほど面白い「世界の神話」』 博学面白倶楽部/著 三笠書房 (pp.30-31)
- 『世界神話伝説大事典』 篠田 知和基/編 勉誠出版 (p.803)
- キーワード
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- ギリシャ神話(ギリシャシンワ)
- ギリシア神話(ギリシアシンワ)
- パンドラの箱(パンドラノハコ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 一般
- 登録番号
- 1000310786