レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020年06月30日
- 登録日時
- 2021/10/13 15:42
- 更新日時
- 2021/10/13 15:47
- 管理番号
- 横浜市中央2628
- 質問
-
解決
悪口で「タコ」と言うのはなぜか。
- 回答
-
諸説あるようです。
江戸時代、将軍に謁見できない「御目見(おめみえ)以下」である御家人のことをからかって、
旗本の子が「以下」と言ったことに対して、御家人の子が「タコ」と言い返したことからきた、
という説などが確認できました。
1 「以下」に対して「タコ」と言い返したことからきたという説について
下記(1)の図書に詳しく書かれていました。
「タコ」と言い返した話の出典は(2)のようです。
また(4)にも類似したエピソードが載っています。
(1)『知って合点江戸ことば 文春新書』 大野敏明/著 文藝春秋 2000.12
p.32~35 似ていなくても「タコ」
「旗本の子どもたちは御家人の子どもたちをからかって「以下」という。」
「御家人の子どもたちも」(中略)「旗本の子どもを「このタコ」と言い返す」
「それが転じて、身分の上の人をあざけって「タコ」「タコ野郎」というようになり、
江戸一般の罵倒語になっていった」
続けて『半七捕物帳』の「朝顔屋敷」が紹介されていたため、(2)を確認しました。
(2)『半七捕物帳 巻の1』 岡本綺堂/著 筑摩書房 1998.06
「朝顔屋敷」p.325
「大身の子は御目見以下の「以下」をもじって「烏賊」と罵ると、
小身の方では負けずに「章魚」と云いかえす。」
(3)『武士語でござる』 八幡和郎/監修 ベストセラーズ 2008.6
p.166に(1)とほぼ同内容の記述があります。
巻末の参考文献一覧に(1)も掲載されており、(1)を参考にしたものと思われます。
(4)「故郷七十年」『柳田国男全集 第21巻』 柳田国男/著 筑摩書房 1997.11
p.217に、養家の祖母から聞いた話として、類似のエピソードが紹介されています。
「養家の祖母の話に、身分のある侍の奥方たちが、以下の細君が来たのを見て
「以下だ、以下だ」と蔑んだところ、相手は「タコとは申しません」といって
逆襲したということであった。」
2 坊主の蔑称という説について
参考図書コーナーの辞典類を確認したところ、
悪口としては、坊主の蔑称という意味が複数の辞典に載っていました。
(1)『日本国語大辞典 第8巻(せりか-ちゆうは)』
日本国語大辞典第二版編集委員会/編 小学館 2001.08
p.883 たこ 【蛸・章魚・鮹】
(剃りあげた頭が蛸のようであるところから)「坊主をさげすんでいう語」
古いものでは1776-1801年の用例が掲載されています。
(2)『江戸語大辞典』 前田勇/編 講談社 1974.11
p.598 たこ(蛸)「坊主の蔑称」
(3)『大阪ことば事典』 牧村史陽/編 講談社 1979.7
p.405 タコ(蛸) 「蛸坊主の略。坊主の卑称。」
3 その他の説について
今回の調査では、ほかに下記の(1)(2)が見つかりました。
信憑性についてはどちらもただし書きがついています。
辞典類では、2で挙げたもののほか、下記の(3)(4)などに悪口としての
意味が載っていましたが、理由については書かれていませんでした。
(1)『ことばの動物苑 日本語になった動物たち』
ことば発掘探検隊/編 実務教育出版 1997.09
p.156 タコ
「相手を蔑む言葉。タコが空腹になったときに、自分の足を食べてしまうという俗説
から(中略)あるいは単純なシカケ=漁具(蛸壷)などで捕らえられてしまうからな
のか。」
※「ほんとうのところはよく分かっていない。」とも書かれています。
(2)『20世紀死語辞典』 20世紀死語辞典編集委員会/編 太陽出版 2000.12
p.88 タコ
「人を罵倒する時に使う。「このタコ!」。もとは「下手くそ」の意味で、ゴルフから
きた。ゴルフで1ホールで8打もする人間を「タコ」、10打も叩く人間を「イカ」と
呼ぶ。」
※冒頭に「使用上の注意」として「主観のままに書き連ねてあります」と書かれて
います。
(3)『日本俗語大辞典』 米川明彦/編 東京堂出版 2003.11
p.339 たこ(蛸)
「嫌な男性、不細工な男性などを罵って言うことば。関西のことば。」
(4)『淡路ことば辞典 じょろりでいこか!』
岩本孝之/著 神戸新聞総合出版センター 2013.10
p.216 たこ
「足手まといになって厄介者扱いされる者。変わった奴。」
4 タコという言葉について
下記の2冊には、悪口として使われる理由は載っていませんが、
タコと言葉に関する記載がありましたので、参考としてご紹介します。
(1)『タコと日本人 獲る・食べる・祀る』 平川敬治/著 弦書房 2012.5
p.135~144「タコと言葉」
蛸足、蛸配、蛸部屋など、タコにまつわる言葉について書かれています。
(2)『タコは、なぜ元気なのか タコの生態と民俗』 奥谷喬司/編著 草思社 1994.02
p.44~46「タコを冠する ことばとことわざ」
タコ坊主、タコ入道をはじめ、
野球用語のタコ(「骨抜きにされた状態をタコにたとえたとするのが妥当であろ
う」)など、タコに関する言葉やことわざについて書かれています。
はじめに p.11
「愛嬌よりもとんまの面が強調されると、「このタコ!」と相なる。」
あとがき p.138
「タコという言葉、タコのイメージは豊かで同類のイカではこうはいかない。」
「「このタコ!」とやられはするが、何やら落ち込み方がいまひとつだ。」
5 その他の主な確認資料
(1)『罵詈雑言辞典』 奥山益朗/編 東京堂出版 1996.06
p.162 (「ずくにゅう」の項)
たこ入道 「坊主頭で太った人を嘲って言う言葉。「たこ入」とも言う。」
(2)『全国アホ・バカ分布考 新潮文庫』 松本修/著 新潮社 1996.12
p.219 「タコ(蛸)」が使われる地域として、長野・三重が掲載されています。
(3)『悪口冗談じてん』 山名正太郎/著 蒼洋社 1987.6
(4)『日本語は悪態・罵倒語が面白い 光文社知恵の森文庫』 長野伸江/著 光文社
2018.3
(5)『方言俗語語源辞典』 山中襄太/著 校倉書房 1970.4
(6)『かがやく日本語の悪態』 川崎洋/著 草思社 1997.05
(7)『悪態採録控 ちくま文庫』 川崎洋/著 筑摩書房 2012.11
(8)『賞賛語(ほめことば)・罵倒語(けなしことば)辞典』 長野伸江/著 小学館 2005.7
(9)『蛸 ものと人間の文化史』 刀禰勇太郎/著 法政大学出版局 1994.02
(10)『タコは海のスーパーインテリジェンス DOJIN選書』 池田譲/著 化学同人
2020.12
(11)『タコの知性 朝日新書』 池田譲/著 朝日新聞出版 2020.4
(12)『日本のタコ学』 奥谷喬司/編著 東海大学出版会 2013.6
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 日本語 (810 8版)
- 軟体動物.貝類学 (484 8版)
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000306036