レファレンス事例詳細

確認出来る限り初出の資料は【資料１】『千葉県の植物方言　第3報上』（川名興　1971）p.145-146。
「87. オオイヌノフグリ　1. ホシノヒトミ　柏　土　斉藤　吉永」と記載があり，オオイヌノフグリの旧土村（現在の柏市）地域の方言として斉藤吉永氏がホシノヒトミを報告したとされている。
また，その＜方言の由来＞として『カラー野に咲く花１』『路傍の草花』の２文献と，その根拠となる部分が引用されているが，各々「瞳」「星」との単語のみで「ホシノヒトミ」「星の瞳」等の名称は記載されておらず，この報告時に「ホシノヒトミ」としている他文献の参照はない。

報告者の斎藤吉永氏(故人。以降「さいとう」の「さい」は「斎」と記載)は，旧土村最後の村長や柏市中央公民館長を務めた方で，柏市の自然に精通した人物。自費出版図書も数点存在する。
【資料２】『千葉県柏市帰化植物目録』(斎藤吉永　1970)p26に「145　オオイヌノフグリ」の項があるが，ホシノヒトミの記載はない。
その他，柏市の郷土地域資料の中にホシノヒトミの記載のある資料は見つからない。
斎藤吉永氏のご子息にも問い合わせたが関連資料の心当たりは無いとのこと。なお，斎藤吉永氏は「オオイヌノフグリ」の命名者とされる牧野富太郎氏とも交流があったとのこと。

次に「ホシノヒトミ」を確認出来る資料は【資料３】『日本植物方言集　草本類篇』（日本植物友の会　八坂書房　1972）で，p21「いぬのふぐり」の項に「ホシノヒトミ　千葉（柏）」とあり，「オオイヌノフグリ」の項はなし。参考文献は『全国植物方言集』「その他　方言誌、雑誌類」とされている。
ただし，【資料４】『全国植物方言集』（橘正一　1939）には「オオイヌノフグリ，ホシノヒトミ」の記載は無し。

以降【資料５】『植物名の由来　東書選書』（中村浩　東京書籍　1980）P19に，オオイヌノフグリを「千葉県の柏あたりではホシノヒトミ（星の瞳）とよぶ方言がある」との記載が有り，
【資料６】『日本植物方言集成』（八坂書房　2001）p59「イヌノフグリ」の項にも「ほしのひとみ　千葉（柏）」と記載されている。

以上から，命名者は柏市で使用されていた名称を報告した斎藤吉永氏と思われるものの，当時の状況を記録している資料は見つかっていない。