レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022/11/23
- 登録日時
- 2023/01/25 00:30
- 更新日時
- 2023/01/25 00:30
- 提供館
- 宮城県図書館 (2110032)
- 管理番号
- MYG-REF-220181
- 質問
-
解決
フルボ酸鉄について知りたい。
- 回答
-
1 当館所蔵資料の調査
当館所蔵の資料をお調べしたところ,以下の資料に記載がありましたので御案内します。
多くは,フルボ酸鉄の働きについての解説であり,それを応用した技術等の紹介は多くありませんでした。
資料1は,全編を通して森林と海の生態学的連関を解説した資料です。
「腐植土形成過程とその役割」「海と森をつなぐ河川」「森の腐植土と鉄の密接な関係」などの項があり,フルボ酸鉄についての記載と森林が河川,湖,沿岸海域の生物生産にはたす役割,有機農業と漁業の関係などの記載があります。
pp.62-63「海を豊かにする湿地」の項に,「湿地は数百メートル程度の幅で広がり,アシが育成し,その中を河川が流れている。光合成生物に不可欠なフルボ酸鉄は,湿地の底土中の水に含まれ,その濃度は0.5ミリグラム/リットル程度と極めて高い。さらに,この底土水(間隙水)が河川に流入することにより,河川水中のフルボ酸鉄濃度は上流のそれよりも数倍から10倍も高い。つまり,森林も重要であるが,湿地も森林同様,海の生物を育てるには極めて重要であることを意味している。」との記載があります。
pp.75-76「腐植土が生み出す鉄イオン」の項に,「腐植物質は,水に溶けるフルボ酸と,水に溶けないフミン酸に分けられる。(中略)森林の腐植土中で,フルボ酸やフミン酸と強い絆で結ばれた鉄は,河川を通して,あるいは海岸まで森林が迫っている場合には,森林地帯から直接,海に流れ込んでいるのである。」と記載がありました
また,同項内に「フルボ酸鉄は水に溶解した形態ではなく,0.4マイクロメートルと0.02マイクロメートルの大きさ,つまりコロイドで存在していることがわかってきた。(中略)フルボ酸鉄はコロイドではあるが,細胞まで到達すると鉄だけを細胞に渡し,フルボ酸そのものは細胞に取り込まれないことがわかった。(中略)つまり,フルボ酸は細胞膜まで鉄を運ぶ役割をしているのだ。フルボ酸鉄は光合成生物に利用される鉄の供給源であるとみなしてよいということである。」と記載があります。
pp.77-79「コンブに不可欠なフルボ酸鉄」の項に,鉄と関連しているコンブの養殖についての記載があります。この中で,「広葉樹と針葉樹の葉1グラム当たりの鉄の含有量」と「分解で生じた鉄の一部がフルボ酸やフミン酸と結合する」との記載があります。
また,フルボ酸と同様の機能を有する合成試薬と鉄を加えた成長実験の記載があります。
資料2, pp.153-200の畠山重篤「「森は海の恋人」は海を越えて」の中で,自身の体験も含めてフルボ酸鉄についての記載があります。特にpp.173-174「腐植土が生むフルボ酸鉄」の項に,以下の記載があります。
「外洋に比べ光合成生物が多い沿岸部では,外洋以上の鉄が必要です。基本的に鉄は,陸上の土や岩石に含まれています。雨によって溶け出し,河川水や地下水となって海に運ばれますが,水中では粒子鉄という状態になってしまい,そのままでは植物には吸収できないのです。(中略)ところが,木の葉が落ち堆積して腐植が進むと,腐植土層内に有機物質が残ります。それらは有機酸と呼ばれ,カルボキシル基,カルボニル基,アミノ基,フェノール性水酸基などがあり,鉄など多くの種類の金属を結びつけるキレートの機能があります。(中略)その中で特に,おおくのカルボキシル基をもったフルボ酸と鉄が結びついたものを,フルボ酸鉄と呼びます。フルボ酸鉄は,水に溶けた状態ではなく,コロイドとして存在します。コロイドはイオンと同様に挙動する粒子のことです。このフルボ酸鉄が光合成生物に利用されるのです。どのように利用されるかというと,フルボ酸鉄は細胞まで到達すると鉄だけを細胞に渡し,フルボ酸は取り込まれない事が分かったのです。フルボ酸は細胞膜まで鉄を運ぶ”運び屋”だったのです。(中略)(*なお現在ではフルボ酸の研究は進み,人体においてもキレート作用で必要なミネラルを運び入れ,不要なものを体外に運び出す役目をすることが分かってきている。)」
資料3, pp.130-131の益田玲爾「山に木を植えた漁師さんの話」の中で, 畠山重篤氏の著作『森は海の恋人』を取り上げており,畠山氏の活動とフルボ酸鉄についての記載があります。
資料4は,上掲資料2と同じく,自身の体験やフルボ酸鉄について子ども向けに分かりやすく記載されています。
資料5, pp.166-169「森と海の絆(きずな)-フルボ酸鉄」の項に,漁業とフルボ酸鉄の関係についての記載があります。
資料6, pp.126-128「腐葉土が海を活性化する」の項に,腐葉土が海を豊かにする仕組みについて解説されています。
<調査資料一覧> ※【 】内は当館請求記号です。
資料1 松永勝彦 著『森が消えれば海も死ぬ』(ブルーバックス B-1670), 第2版. 講談社, 2010【519.8/2010.2】
資料2 田中克 編『いのちのふるさと海と生きる』(森里海を結ぶ ; 1), 花乱社, 2017【519.8/2017.6/1】
資料3 京都大学総合博物館 編『森と里と海のつながり』大伸社, 2004【468/2004.8】
資料4 畠山重篤 著 ; スギヤマカナヨ 絵『鉄は魔法つかい』小学館, 2011【JK452】
資料5 畠山重篤 著『森は海の恋人』文藝春秋, 2006【662.12/2006.9/Bフンシ】
資料6 長沼毅 著『鉄といのちの物語:謎とき風土サイエンス』ウェッジ, 2014【436.81/2014.1】
2 インターネット等で公開されているデータベースの調査
当館所蔵資料ではありませんが,インターネットで閲覧できるデータベースで調査した結果を御案内します。
(1)「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/ 最終アクセス日:2022/11/23)
「フルボ酸鉄」のキーワードを調査したところ,「特許・実用新案」39件,「商標」7件が該当しました。
※「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」とは,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営している特許・実用新案,意匠,商標,審決に関する公報情報が検索できるデータベースです。
「特許・実用新案」の中から,以下を参考までに御案内します。
・【公報種別】公開特許公報(A)
【公開番号】特開2020-80691(P2020-80691A)
【公開日】令和2年6月4日(2020.6.4)
【発明の名称】プランクトンの増殖方法並びにその増殖方法に用いるプランクトン増殖材およびプランクトン増殖装置
プランクトン増殖に必要なフルボ酸鉄を安定して,持続的に長期間,環境水に供給する方法に関するもののようです。
・【公報種別】登録実用新案公報(U)
【登録番号】実用新案登録第3222255号(U3222255)
【登録日】令和1年7月3日(2019.7.3)
【発行日】令和1年7月25日(2019.7.25)
【考案の名称】藻場育成システム
沿岸部の藻場の再生及び育成のために,長期間に亘り継続的にフルボ酸鉄を海中に溶出できる藻場育成システムに関するもののようです。
(2)「KAKEN 科学研究費助成事業データベース」(https://kaken.nii.ac.jp/ja/ 最終アクセス日:2022/11/23)
「フルボ酸鉄」のキーワードを調査したところ,2件該当しました。
※「KAKEN 科学研究費助成事業データベース」は,文部科学省および日本学術振興会が実施する科学研究費助成事業により行われた研究の研究概要や,研究結果報告書を収録しているデータベースです。
以下を参考までに御案内します。
・【研究課題】「有明海再生を可能にするフルボ酸鉄シリカ資材による干潟浄化実証研究」
【研究課題/領域番号】16K06557
【研究期間 (年度)】2016-04-01 ? 2019-03-31
研究成果の概要として次のような記載がありました。
「本研究ではヘドロ化した干潟へフルボ酸鉄シリカを人工的に供給し,フルボ酸鉄による酸化作用と合わせて,珪藻類の増殖が起こることで干潟が従来の機能を取り戻すことを期待して実証研究を進めてきた。期間内の研究では,資材の有効性を確認するために,熊本県長洲干潟において実証研究を開始し,現場における干潟再生効果の定量的な把握を目指して研究を行った。」
その他,2016年,2017年の実施状況報告書や,2018年の実績報告書,研究成果報告等が閲覧できます。
・【研究課題】フルボ酸鉄による沿岸性植物プランクトン鉄摂取増殖機構
【研究課題/領域番号】22510001
【研究期間 (年度)】2010 ? 2012
研究成果の概要として次のような記載がありました。
「溶存有機物が多く含む河川水中の各鉄化学種濃度は高く,特にフミン物質蛍光強度と真の溶存鉄濃度との関係が見られ,河川水中のフルボ酸が3価鉄と溶存有機錯体鉄を形成していることが明らかになった。また,河川起源溶存フルボ酸鉄錯体は海水と混合しても比較的安定に存在していることを示し,河口域から沿岸域への溶存鉄を運ぶ重要な役割を果たしている。フルボ酸鉄錯体を多く含む河川由来溶存鉄を添加した沿岸性植物プランクトン-栄養塩培地では,細胞密度及びクロロフィルa濃度が急激に増加した。これは,河川水中のフルボ酸鉄錯体が海水と混合すると,フルボ酸鉄錯体から生物利用可能な溶存無機3価鉄イオンが徐々に解離し,それが植物プランクトンに摂取されたためと考えられ,河川の影響ある沿岸域の高い基礎生産を維持していると考えられる。」
その他,2010年,2011年の実績報告書や2012年の実績報告書,研究成果報告書等が閲覧できます。
(3)「CiNii」(https://ci.nii.ac.jp/ 最終アクセス日:2022/11/23)
「フルボ酸鉄」のキーワードを調査したところ,25件該当し,関連のありそうな文献を御案内します。いずれも,本文はインターネット上で入手可能です。
※「CiNii」は,専門誌,大学紀要,学術雑誌等に掲載されている論文などの学術情報でを検索できるデータベースです。
・渡辺亮一, 浜田晃規, 伊豫岡宏樹 [他]「フルボ酸鉄資材を用いた底泥浄化に関する現地実験 : 伊万里湾における浄化の試み」『環境システム研究論文発表会講演集』41号, pp.183-188, 2013, 土木学会
https://www.jsce.or.jp/library/open/proc/maglist2/00571/2013/mg01.htm (最終アスセス日:2022/11/23)
・渡辺亮一, 浜田晃規, 山崎惟義 [他]「長洲町干潟におけるフルボ酸鉄シリカ資材投入による環境修復効果の実証研究」『環境システム研究論文発表会講演集』44号, pp.193-198, 2016, 土木学会
https://jsce.or.jp/library/open/proc/maglist2/00571/2016/mg01.htm (最終アスセス日:2022/11/23)
・桑原淳, 横濱充宏, 鎌田洋志「北海道の北部および南西部における陸域から河川への栄養塩の流出特性について」『寒地土木技術研究』762号, 2016, 寒地土木研究所
https://thesis.ceri.go.jp/db/documents/public_detail/60808/(最終アスセス日:2022/11/23)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 有機化学 (437 9版)
- 農業基礎学 (613 9版)
- 参考資料
-
- 松永/勝彦?著. 森が消えれば海も死ぬ. 講談社, 2010.2【519.8/2010.2】:
- 田中/克?編. いのちのふるさと海と生きる. 花乱社, 2017.6【519.8/2017.6/1】:
- 京都大学フィールド科学教育研究センター∥編集 京都大学総合博物館∥編集. 森と里と海のつながり. 大伸社, 2004.8【468/2004.8】:
- 畠山/重篤?著 スギヤマ/カナヨ?絵. 鉄は魔法つかい. 小学館, 2011.6【JK452】:
- 畠山/重篤∥著 熊谷/竜子∥短歌. 森は海の恋人. 文芸春秋, 2006.9【662.12/2006.9/Bフンシ】:
- 長沼/毅?著. 鉄といのちの物語. ウェッジ, 2014.1【436.81/2014.1】:
- キーワード
-
- 有機化学
- 土壌学
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000327842