レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019/06/07
- 登録日時
- 2019/07/02 00:30
- 更新日時
- 2020/02/20 18:50
- 管理番号
- 4751262
- 質問
-
未解決
渋川版御伽草子の鬼が逃げ出す場面の文章(『御伽草子の精神史』pp.266~267参照)で「打出の小槌」「杖」「しもつ(鞭)」と表記されているが、その場面の絵には「打出の小槌」「隠れ蓑」「隠れ笠」が描かれている。なぜ文章と絵に違いがあるのか知りたい。
奈良絵本に一寸法師の絵があるなら上記のものと比較したい。
- 回答
-
ご照会の渋川版御伽草子「一寸法師」の鬼が逃げ出す場面について、[1]文章(打出の小槌、杖、しもつ)と絵(打出の小槌、隠れ蓑、隠れ笠)の違いに触れた文献、[2]奈良絵本「一寸法師」の(該当の場面の)絵の有無、の2点を調査しました。
【 】内は当館請求記号です。
[1]渋川版の本文と挿絵の違いに触れた文献
貴館調査済文献以外では、資料①~③がありました。
①浅見徹 著. 玉手箱と打出の小槌 . 中央公論社, 1983【KG745-163】
第4章-3.打出の小槌(pp.175-184)、4.一寸法師の死(pp.185-194)の打出の小槌に関する考察の中で、pp.181~182、194で触れています。前後の考察も合わせて詳細は本書をご覧ください。
なお、以下の「改稿」が刊行されていますが、当該箇所(pp.238-239,251)について、①との異同はみあたりません。
浅見徹 著. 玉手箱と打出の小槌 : 改稿. 和泉書院, 2006【KG745-H95】
②黒田日出男 [ほか]編. 御伽草子: 物語・思想・絵画 . ぺりかん社, 1990【KG175-E9】
pp.138-158 鳥居明雄「祝言の視界 - 『一寸法師』の世界 - 」
“(前略)鬼を退散させている一寸法師の周辺には、打出の小槌だけではなく、蓑と笠が描かれている。(中略)おそらく打出の小槌と一体のものとして描きこまれているにちがいないのである。すなわち、打出の小槌と蓑と笠とは三位一体の呪具として一寸法師の手に帰したものと思われる。本文中で蓑と笠について何ら言及されていないうらみは残るのだけれども、しかし、当時の読者が挿絵の図柄をごく自然なものとして受容したであろうことは想像にかたくないところである(後略)”(記載箇所pp.149-150)
③西村久美子. 『一寸法師』(御伽草子)について.語学と文学./ 九州女子大学国語国文学会[編].. (17)1987.03. pp.22~33 【Z13-3057】
”一寸法師の活躍によって(中略)打出の小槌、杖、むちなど、何もかも捨てて逃げていった。挿絵に描かれている打出の小槌以外の物は隠れ笠と隠れ蓑であろう。これらの名前は本文に書かれていないが、絵と本文を相互に補い合うことによって、本文の「何に至るまでうち捨てて」に含まれていると思われる。(後略)”(記載箇所p.27)
この他、次の④~⑩等を調査しましたが、①~③及び貴館で調査済の文献以外で、「一寸法師」の本文と挿絵の違いに触れた文献は確認できませんでした。
④徳田和夫 編. お伽草子百花繚乱 . 笠間書院, 2008【KG175-J8】
a. pp.422-439 三浦俊介「民間説話と御伽草子 『一寸法師』をめぐって」
“(前略)『一寸法師』は室町時代に遡る伝本を持たない作品である。(中略)現在のところ丹緑本としての伝本が見出せず、(中略)『一寸法師』は寛文期に初めて板行されたと考えられている”(記載箇所p.428)
b. pp.499-510 石川透「叢書御伽文庫をめぐって」
“丹緑奈良絵と呼ばれる、間似合紙を使用した御伽文庫に彩色を施した作品が、少なくとも十種類は現存している。(後略)”(記載箇所p.501)として十作品名を挙げていますが「一寸法師」はありません。
c.(巻末)pp.023-059 伊藤潤 編「お伽草子研究情報 1985年(昭和60年)1月~2008年(平成20年)3月まで」
通覧する限りでは論文タイトルに「一寸法師」が見えるものは[2]①のみです。
⑤特集=御伽草子を読み解く. 国文学 :解釈と鑑賞 / 至文堂 編. 61(5) 1996.05. pp.5~165【Z13-333】
a. pp.132~138 藤掛 和美. 御伽草子研究図書室.
本文名中で『御伽草子の精神史』の他に⑥⑦等紹介しており、通覧しましたが、ご照会に関する記述は確認できませんでした。
b. pp.147~163 林 雅彦. 御伽草子研究文献目録抄 昭和60年以降.
⑥徳田和夫 著. お伽草子研究. 三弥井書店, 1988【KG175-E7】
pp.659-740「作品別研究文献目録」(昭和63年3月現在)(「一寸法師」pp.673-674 上記②が掲載されていました。)
⑦藤掛和美 著. 室町期物語の近世的展開. 和泉書院, 1987【KG175-E1】
⑧浅見 和彦. 都市人の夢と遊楽--「義経記」と「一寸法師」. 國文學 : 解釈と教材の研究 / 學燈社 [編]. 39(1) 1994.01. pp.54~60 【Z13-334】
⑨部矢 祥子. 「『一寸法師』は針を主軸にした物語」説に対する疑問. ぐんしょ / 続群書類従完成会 vol.14,no.3(再刊第53号) 2001.夏 pp.17~22 【Z8-3099】
“『一寸法師』の伝本は渋川版とその系統本以外にはなく、同版が『一寸法師』の最古本であり、近世を通じて本文の異動もみられない”(p.22 註(7))と記載していますが、挿絵の違いについては触れていません。
⑩安達 佳子. 『御伽草子』一寸法師の謎--一寸法師とその道具について. 大宰府国文 / 福岡女子短期大学国語国文学会 編. (通号 18) 1999.3. pp.15~21【Z13-2529】
上記の資料④-c の「はじめに」(p.024)には、御伽草子に関する主要な研究文献目録として⑤-b、⑥の他に以下⑪~⑭を紹介していますのでご参考までにお知らせします。この他、御伽草子周辺の研究文献は多く、ご照会について触れている可能性はありますが、合理的な検索手段はありません。
⑪奈良絵本国際研究会議 編. 御伽草子の世界. 三省堂, 1982【KG175-14】
pp.137~206 徳田和夫. お伽草子・絵入り本等文献目録(昭和57年春現在) ※1901~1985年をカバーする広範かつ網羅的なもの
⑫日本文学研究資料刊行会 編. お伽草子. 有精堂出版, 1985【KG175-25】
p324~329 お伽草子研究主要参考文献 ※⑪から根幹的文献を抜粋したもの
⑬林 雅彦. 他編. 昭和50年以降御伽草子研究文献目録抄. 国文学 : 解釈と鑑賞 / 至文堂 編. 50(11) 1985.10. pp.164~182【Z13-333】
⑭徳田和夫. 追補 お伽草子 作品別研究文献目録. 国語国文論集 / 学習院女子短期大学 21, 1992 pp.25~49【Z13-1257】 (「一寸法師」pp.29)
[2] 奈良絵本「一寸法師」について
ご照会の場面のある奈良絵本の存在は不明です。
①石川透「『一寸法師』奈良絵 解題・影印」(『三田国文』(45) 2007.9 pp.112-113【Z13-2654】)
慶応義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)で全文の閲覧が可能です。
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00296083-20070900-0112
上記文献には『一寸法師』の奈良絵本の断簡(2枚)が 掲載されています。これらは、『入門奈良絵本・絵巻』に掲載の図版と同じものと思われ、お探しの場面ではありません。また本論文には、『一寸法師』は、奈良絵本、絵巻とも存在を確認できないことで有名である旨の記載があります。最新の情報として、著者の石川透は、2019年開催された講演会でも『一寸法師』の奈良絵本の断簡が2枚のみであると述べており、ご照会の場面のある奈良絵本、或いは断簡に関する情報は得られませんでした。詳細は以下のWebサイトをご覧ください。
週刊読書人ウエブ 読書人紙面掲載特集 - 奈良絵本は面白い! 戦国~江戸期の暮らし・風俗・文化を読み解く 石川透・齋藤真麻理 講演載録
第3回 奈良絵本とは何か 石川 透(慶應義塾大学文学部教授)
https://dokushojin.com/article.html?i=5336&p=4
更新日:2019年4月19日 / 新聞掲載日:2019年4月19日(第3286号)
(インターネット最終確認:令和元年6月7日)
----------(2020年2月20日 追記)-----------
当該事例にコメントをいただきましたので、情報を追記します。
高松大学・高松短期大学リポジトリで公開されている下記論文において、「蓑笠」の特別な重要性が指摘されています。
平島 成夫「日本古代文芸のリアリズム --枕草子『鳴くみの虫』考--」(『高松 短期大学研究紀要』(19) 1989.1 pp.49-82)
http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/tuir/metadata/178
特に、p.66に次のような記述があります。
「「一寸法師」の鬼は、「打出の小槌、杖、しもつ(苔)、何にいたるまでうち捨て」て逃げるのであるが、その「何にいたるまで」のなかには、蓑笠が大きい比重で意識されていたらしいふしがある。というのは、『御伽草子』のさし絵には逃げて行く鬼と、それを追う「一寸法師」が描かれているが、その間に、もっとも目立つ、大きさと位置に、蓑笠が配してあることからも、想像できる。蓑笠は、鬼の、かくことのできない小道具であったのである。」
(参考)
『御伽草子. 第19冊 (一寸法師)』【196-23】
※ 12コマ目に「うちでのこづちつえしもつ。なににいたるまでうち捨て。」の文と絵があります。
国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されています。
該当箇所のURL:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2537587/12
- 回答プロセス
- 事前調査事項
-
・「歴史としての御伽草紙」ISBN:4-8315-0725-3
・「一寸法師のメッセージ」ISBN:4-305-60037-4
・「御伽草子の精神史」島内景二/著
・「御伽草子事典」ISBN:4-490-10609-2
・「広がる奈良絵本・絵巻」ISBN:978-4-8382-3176-8
・「奈良絵本絵巻集 1~12」早稲田大学出版部
・「入門奈良絵本・絵巻」ISBN:978-4-7842-1531-7
- NDC
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 人文(レファレンス)
- 調査種別
- 文献紹介 所蔵調査 所蔵機関調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000258085