レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2002年7月23日
- 登録日時
- 2013/07/30 18:13
- 更新日時
- 2021/01/10 00:30
- 管理番号
- PML20020723-01
- 質問
-
未解決
書物に付けるページ番号を「ノンブル」と言うが、何故フランス語を使うのか?
- 回答
-
由来は分からない。
・「ノンブル」を丁付けの意味で使用している国はなく、フランスでもpaginationまたはfoliotage
・幕末から明治にかけて西洋活版印刷術を日本人に教えた外国人は、最初がオランダ人(ドイツ人?)、
次がアメリカ人であるので、従って、この二人の影響とは考えられない。
・正式な用語として影響力のありそうな内閣印刷局等の歴史とお雇い外国人も調べてみたが、関係のありそうな
記述は見られず。
・現在出ている辞書類の半数くらいにはノンブルという言葉の意味と、フランス語である旨が書かれているが、由来の
記述はない。
・印刷・出版関係雑誌のコラム等も所蔵している分については記事なども探したが、見付からず。
**2014年2月23日追記**
植原路郎『実用 本の事典』(出版ニュース社 1964年)には
p.146 〔ノンブル〕には「ナンバー(Number)の訛り。印刷所でも出版社でも、ページ付の意味に使っている。また、丁付と同じ意味に用いられることもある。」とありました。
- 回答プロセス
-
○当館での調査
・日本では少なくとも江戸時代には「丁付け」と呼ばれていた。
・少なくとも弊社内でも理由まで知っている者はいない。
・『印刷事典』・『印刷用語事典』・『製本用語事典』など、印刷・編集・製本・書誌学関連の辞書・事典類は、どれも意味のみ掲載
・『日本国語大辞典 第二版』(小学館)
舶来語便覧(1912) 棚橋一郎・鈴木誠一
ノンブル:フランスnombre 番号の意
・室伏哲郎『事典プリンツ21』(プリンツ21 1997年)に以下の記述あり。
・ノンブル〔nombre(仏)((印))〕
(前略)日本の出版印刷関係者は、英語同様、数と番号を区別せず、フランス語のノンブルと言う言葉を習慣的に使う。
・『Elsevier's Dictionary of the Printing and Allied Industries 2nd ed. English/French/German/Dutch/Spanish/Italian』
nombre(numberほか)を、ページ番号、またはページ付け(丁付け)の意で仕様している国はない
→当館の資料で分かるのはここまで
・現在につながる西洋印刷術は幕末に長崎・出島を通じて伝えられたものが中心となっているが、最初に本木昌造が教わったヤーパン号乗組員のG.インデルマウルはオランダ人(ドイツ系)、その後のウィリアム・ガンブルはアメリカ人とのことで、その二人ならば、オランダ語かドイツ語か英語になると思われる。
・大蔵省印刷局のお雇い外国人の影響があるかも、と思い『大蔵省印刷局百年史』等を調べたが、フランス人は一人いたものの、あまり影響力はなかった模様。
・オランダの印刷術はフランスから伝わっているようなので、フランス語の可能性もあるか、と思いオランダの王立図書館に問い合わせたところ、オランダ語での用語があり、昔からそれが使われていたらしいことが調査の結果判明している。
・『Elsevier's Dictionary 』 で確認したところ、フランスでもそのような使い方はしないので、誤解から使い始めたのではないか、と推察するがいつから登場してくるかも分からず。
・『近代用語の辞書集成』(大空社 1995年) 記述なし。
・『世界大百科事典』の活版印刷の項目に、「(前略)ノンブル(ページ数)などもすべてこの段階で組み入れる。」との記述。
⇒以上のことを踏まえ、都立中央図書館にレファレンス依頼。
○都立中央図書館からの回答
⇒結論から言うと、由来は分からない。
言葉の意味以上の記述があったものは以下の通り。
<印刷関係>
・矢作勝美『活字=表現・記録・伝達する』(出版ニュース社 1986年)
P.69に「ノンブルは、書籍や雑誌などのページの順序を示す数字のこと。語源はフランス語のnombre」とある。
・日本印刷学会『英和印刷書誌百科辞典』(春陽堂 初版1938年・都立中央図書館所蔵は1949年版)
索引でノンブルを見ると、drop folioとpagingに案内。しかし、drop foliの項目に「下ノンブル」と説明があるが、説明の部分はここでしか「ノンブル」を使用していない。
・『印刷百科辞典』(印刷時報社 1952年)
「印刷用語辞典」の項目に、「ノンブル」と「丁付け」の項目がともにある。
・この他、、その後発行されている印刷関係の用語辞典では、意味しか載ってない。
<出版関係>
・『出版辞典』(出版ニュース社 1971年)
p.353に「各ページの順序を示す数字すなわちページ番号のことでフランス語nombreから出たことば。」とあり、活字の大きさ・位置等の細々とした解説があるが、由来についての記述はない。
・『書物語辞典』(古典社 1936年・都立中央図書館所蔵は1939年の3版)
p.113には、「ナンバーの印刷屋専門の訛。頁附(組版の)又は丁附(原稿又はゲラ刷の)のこと。」とあるのみ。
<新語・外来語関係>
・『角川外来語辞典』(角川書店 初版1967年・都立中央図書館所蔵は1977年 第2版)
p.920には、「【(ラテン>)フランスnombre《英 number》】ナンバーnumberの略字をNo,とするのは、このnombreのページを示す文字。」とあり、出典が示されている。
・この出典のうち、『新しい言葉の字引』(実業の日本社 1918年)の復刻版を都立中央図書館で所蔵している(①1919年版と②1925年版、『近代用語の辞典集成2,3』 大空社1944年)ので引いてみたところ、①、②とも、同じ記述で「ページ附の意味。印刷屋・書籍業者などがいふ。ナンバー(Number)の転化である。広くはページ附ばかりではなく、見出しの小活字(書籍の名、または章の名を六号活字などで入れるの)をいふ。」とある。
・質問の中で触れられている『日本国語大辞典』に上がっている『舶来語便覧』も、復刻版で所蔵(『近代用語の辞典集成24』大空社 1995年)しているのだが、何故か五十音の「な」行の所にこの語は見当たらなかった。
・『外来語辞典』(東京堂出版 1966年)にも印刷関係の用語で「ページづけ.」としか記載がないが、使用年代として「昭」の文字があり、使用されはじめた年代は昭和であると推定されている。
・『新時代の尖端語辞典』(文武書院 1930年)に「……ナンバー(Number)の転訛」とある。
○当館で、フランスの印刷術はオランダ経由であることから、「オランダを通じて移入されたフランス文化」(緒方富雄編『蘭学と日本文化』東京大学出版会 1971年)に当たるも記述なし。
○都立中央図書館のレファレンスを受けて、当館で都立中央図書館の蔵書から関係しそうなものを選び、再度都立中央図書館へ調査依頼。
・村上英俊『仏語明要』(カルチャ出版社 1868年)
・好樹堂訳『官許仏和辞典』(Mission Presbytérienne Américaine 1871年)
・高橋泰山『仏和辞典』(有則軒 1886年)
これらの「ノンブル」のページ・ナンバーの意味が記されているかどうか?
・佐藤亨『幕末・明治初期語彙の研究』(桜楓社 1986年)
・槌田満文『明治大正の新語・流行語』(角川書店 1983年)
これらにノンブルについての記述が出てくるかどうか?
→都立中央図書館からの回答
下記の資料について「ノンブル」の項目を調べたが、「ページ・ナンバー」の意味は記されていない。
・『仏語明要』:3巻に記述あり。意味は「数」のみ
・『官許仏和辞典』:p.282にあり。意味は「数。許多」のみ。
・『仏和辞典』:p.409にあり。意味は「数、許多」のみ。
・『幕末・明治初期語彙の研究』、『明治大正の新語・流行語』:「ノンブル」についての記述なし。
- 事前調査事項
- NDC
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- 印刷 (749 9版)
- 参考資料
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植原路郎 著. 実用本の辞典. 出版ニュ-ス社, 1964.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I001466195-00
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植原路郎 著. 実用本の辞典. 出版ニュ-ス社, 1964.
- キーワード
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- ノンブル
- 印刷―用語
- 印刷―言葉
- 照会先
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- 都立中央図書館
- 寄与者
- 備考
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** 2015年3月追記 **
当社が1960年代(発行年不明)に作成した『印刷言葉のはなし』という小冊子の p.18 に
「ノンブルはフランス語からきた言葉で、ページナンバーをあらわす数字のことです。もちろん page という英語も使われてはおりますが、印刷業者はこれをペーシと呼ぶため、スペーシ(ス)などと混同しやすいので、自然ノンブルというフランス語が一般化されたものと考えられます。」
という記載があり。
英語を避けた理由の推察であり、なぜフランス語か、フランス語にしても paquet ではなく nombre か、という回答ではないが、参考まで。
- 調査種別
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 来館者
- 登録番号
- 1000134800