レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2011年10月19日
- 登録日時
- 2011/10/19 18:31
- 更新日時
- 2015/10/01 14:35
- 管理番号
- 福井県図-20111019
- 質問
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未解決
鉛筆の筆は「ぴつ」と読むのに、万年筆の筆は「ひつ」なのはなぜか。
留学生が「まんねんぴつ」と言っていたので「まんねんひつ」だよと指摘したら、上のような疑問を口にした、とのこと。
- 回答
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書籍から正確な理由を見つけることはできませんでした。
1.『国語学大辞典』国語学会・編 1982.5 東京堂出版 には、「連濁と同様の現象で、ハ行音がパ行音にかわるものがある。「ぶっぱなす」「まっぴるま」。漢語では前要素が「ツ」「チ」「ン」で終わるとき、かなり規則的に起こる。「発表」「一片」「文法」。」との記述があります。
「えんぴつ」「まんねんひつ」どちらも「ん」に続いているため、質問の現象を解明するものではありません。
なお、『国語学大辞典』には、「新しい外来語は連濁を起こさないようだから、その力は衰えていると見られる。」との記述もあり、これが関係しそうではありますが、解明には至りませんでした。
2.『日本語の世界』7 小松英雄・著 1981.1 中央公論社 第九章 ハ行音の変遷
p.275 には、「漢語の[p]「人品」「折半」「分配」「突風」・・・のように、現代語では鼻音や入声音のあとに続く漢字音形態素が、[p]の形をとってあらわれる。」と書かれています。
3.『現代言語学入門2』日本語の音声 窪薗晴夫・著 1999.4 岩波書店 ISBN:4-00-006692-7に、「一つの音が前後の音から音声特性を受け継ぐという同化の過程は、音声学的に見てきわめて自然な現象である。自然というのは、「発音が楽」という意味である。」とあります。「ねん」と発音するときには舌が口につくのに対し、「えん」と発音するときにはつかないことが理由となりそうという推測ができます。しかしこのことが明記されている文献を探すことはできませんでした。
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2015年9月29日、レファ協事務局経由で個人の方から2件情報提供いただきました。ありがとうございました。
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情報提供(1)
・@crd_tweet この件に興味を覚え、資料探索と同時に、私見をツイートいたしました。
解決済みかもしれませんが、ご参考までに。
https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/648398368335527936
https://twitter.com/IIMA_Hiroaki/status/648398394512158720
・浅田健太朗さんによれば http://bit.ly/1Vl9y2j
たとえば「善根奉福」の略の「根奉」は、「コンプ」でなく「コンフ」だったそう。
〈熟語としての結合性を考慮に入れると、撥音後の半濁音符・濁音符を有さない
ハ行字の例は熟語とは見なし難い〉。難しいけど十分な説明です。
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情報提供(2)
・@crd_tweet こちらも日本語の発音について考える良いきっかけになりました
ついでにこの問題について NHKの放送文化研究所にてたいへん参考になる記事が
書かれておりましたので参考になればと思います
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/term/120.html
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- 回答プロセス
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1.質問と合致するか不明だが、複合語の後続の語頭の清音が濁音に変化することを「連濁」と呼ぶことから、下記の辞典の連濁の箇所を見る。
(ア)『日本語百科大事典』縮刷版 金田一春彦・林大・柴田武・編集責任 1995.5 大修館書店 ISBN:4-469-01244-0(請求記号:810.3/ニ 資料コード:1012846885)→有効な情報を見つけられず。
(イ)『国語学大辞典』国語学会・編 1982.5 東京堂出版 (請求記号:810.1/コ 資料コード:1011527429)
p.415 1段目
(3)連濁。後要素の第一音節が清音から濁音にかわるもので、その本来の成立にあたってどのような音声的条件が働いていたとしても、現在では語構成の一手段であって、純粋の音声現象ではない。(中略)連濁は類推によって近代になってから生じた要素にも起こっている(「親会社」「赤ゲット」)が、新しい外来語は連濁を起こさないようだから、その力は衰えていると見られる。
2段目
(4)連濁と同様の現象で、ハ行音がパ行音にかわるものがある。「ぶっぱなす」「まっぴるま」。漢語では前要素が「ツ」「チ」「ン」で終わるとき、かなり規則的に起こる。「発表」「一片」「文法」。
2.質問の発端が、留学生の疑問だったため、外国人向け日本語教育の本を見る。
『日本語の発音教室』理論と練習 田中真一・窪薗晴夫・著 1999.10 くろしお出版 ISBN:4-87424-176-X (請求記号:811.1/タナカ 資料コード:1013497530)
p.23 1.3.3 半濁音 パ行音は外来語の他にも、漢語複合語や助数詞の発音によく現れます。
3.国語学の本の中から、音韻に関するものを見る。
(ア)『朝倉日本語講座』3 音声・音韻 2003.6 朝倉書店 ISBN:4-254-51513-8 (請求記号:810.8/アサク/3 資料コード:1014203820)
p.41「連濁に関しては概説書、事典類をはじめ数多くの解説、論文があるが、そのメカニズムを詳しく、わかりやすく説明したものに小松英雄(1981:101-107)、窪薗晴夫(1999:107-142)がある。」とあり、それぞれ下記の文献を示している。
・小松「第三章 濁音の印象」「第四章 清濁のしくみ」『日本語の世界7 日本語の音韻』中央公論社:pp.74-130
・窪薗「5 清濁と音の交替」『現代言語学入門2 日本語の音声』岩波書店:pp.107-142
(イ)『現代言語学入門2』日本語の音声 窪薗晴夫・著 1999.4 岩波書店 ISBN:4-00-006692-7(請求記号:801/ケンタ/2 資料コード:1013262447)
p.60 p音考
p.91- 4 音の成分
「一つの音が前後の音から音声特性を受け継ぐという同化の過程は、音声学的に見てきわめて自然な現象である。自然というのは、「発音が楽」という意味である。」
p.108 5.1 形態音素交替 の章の中で、/h/音が/p/音に変化することについてふれられている。「母音の交替が和語に見られるのに対し、次にあげる/h/と/p/の間の交替はおもに漢語に現れる。母音の交替か子音の交替かという違いはあるものの、一つの形態素(たとえば「髪」)が語によって異なる音素(/h/と/p/)に具現するという点では同じである。」
(ウ)『日本語の世界』7 小松英雄・著 1981.1 中央公論社 第九章 ハ行音の変遷
p.275 「漢語の[p]「人品」「折半」「分配」「突風」・・・のように、現代語では鼻音や入声音のあとに続く漢字音形態素が、[p]の形をとってあらわれる。」
入声音とは・・p.43「古い中国語には入声音(にっしょうおん)といって、p・t・kで終わる音節があった」
4.コメントにより、近畿大学図書館様から以下の情報をいただきました。
『日本国語大辞典』第二版(小学館)に次の情報がありました。
まんねん‐ひつ 【万年筆】 (「まんねんぴつ」とも)
*恋慕ながし〔1898〕〈小栗風葉〉一一「相宿の夫婦者が、精々(せっせ)と万年筆(マンネンピツ)を拵へてゐる」
*黄昏に〔1912〕〈土岐哀果〉女「日ぐれどき、万年筆(マンネンピツ)の銀の帯、指のあひだに、光るはかなさ」
【語誌】
(1) 近代的な万年筆は、Stylographic pen (ペン先が鉄筆状のもの)またはfountain pen (ペン先がわれているもの)の訳語とされている。明治一七年(一八八四)、Stylographic pen が「針付泉筆」という名前で輸入され、これが万年筆と呼ばれたが、明治二八年ウォーターマンの考案したペンが輸入されると、前者を「針万年筆」、後者を「ペン付き万年筆」と呼び分けた。やがて後者が普及して「万年ペン」「万年筆」と呼ばれるようになった。「東京横浜新聞‐明治一八年一〇月一三日」に「一種の筆を発明し名づけて万年筆と云ふ。形、普通の鉛筆の如く、其軸中に洋墨を詰め、螺旋緩急の作用にて或は太く或は細く自在に書くことを得、一回墨汁を詰め数日使用して尽きざるの便ある者なり」とあるが、読みはマンネンヒツかマンネンフデか不明である。
(2) 「万年筆」の読みとしては、明治末期まではマンネンフデがひろく行なわれていたが、時期が下るにつれ、しだいにマンネンヒツが優勢となった。
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本語 (810 8版)
- 参考資料
- キーワード
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- 形態音素交替
- 音声
- 音韻
- 国語学
- 日本語学
- 照会先
- 寄与者
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- 近畿大学図書館
- 備考
- 有益な情報をお持ちの方は、福井県立図書館までお知らせください。
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000093398