レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2016/10/20
- 登録日時
- 2017/01/12 00:30
- 更新日時
- 2017/01/12 00:30
- 管理番号
- 6001020137
- 質問
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解決
歴史上の「~の乱」「~の役」「~の変」がどのようにして使い分けられたのか知りたい。
- 回答
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使い分けについて調査したところ、ある程度の使い分けはなされているものの厳密な使い分けはされていないようです。例えば一つの歴史事象に対して「承久の乱」あるいは「承久の変」と二種類の表記がされている場合などがあります。
【図書】
『武士世界の序幕』(安田元久/著 吉川弘文館 1982.10)
「歴史事象の呼称」(p.298-304)と題する一文が収録されており、「乱」と「変」についての記述があります。
「乱と変の意味について」は「乱とは、「世の乱れ」「戦乱」「大規模な政治的混乱=内乱」などをいう。そして変とは、「凶変」「変化」「小規模な政治変革」、あるいは倫理的・道徳的批判の上にたったところの「あり得べからざる変事」などを意味する」と書かれています。
また「日本史上の諸事象に対する適用例」として4件に分けての記述があります。
1.「政治権力に対する武力による犯行―とくに鎮圧場合が多い―」として薬子の乱や保元・平治の乱、大塩の乱などが挙げられています。
2.「一つの内乱状態が生まれた状況として、壬申の乱、南北朝の(内)乱、応仁・文明の乱などが挙げられています。
3.「政治権力者たる天皇・皇族、将軍などが討たれたり配流されたり、(一つの立場から見て)不当な立場に置かれた事件」として、正中の変、元弘の変、嘉吉の変が挙げられています。
4.「政治上の対立者間に起こった陰謀事件」として、応天門の変、承和の変などが挙げられています。
これらの例について「以上のように、1,2を乱、3,4を変と呼ぶのが一般的であるが、無論例外はあるし、嘉吉の事件のように、乱とも変とも用いる場合がある」として呼称についての解説が述べられていきます。
『戦乱』(安田元久/編 近藤出版社 1984.6)
編者による「乱・変・合戦・役・戦などの用語について」という一文が3頁に渡って収録されています。
「古来、戦乱や戦闘を呼称するとき、さまざまな用語が用いられている。それは、それぞれの事件・事象によって区別され、固有の呼称が行われるという場合もあるが、それも必ずしも一定せず、ある一つの戦乱あるいは戦闘の呼称についても二つ以上の呼称が行われている例もある。かつての国定教科書によって教育され、また現今の検定教科書によって得た歴史知識の範囲内では、比較的統一された呼称が習慣として固定している傾向がある。しかし、そこでも例えば「承久の乱」か「承久の変」かの疑問があり、また「元弘の変」「元弘の乱」、「嘉吉の変」「嘉吉の乱」の相異についての解釈、あるいは「西南の役」「西南戦争」といった呼称の差の解明についての不明確さが残っている」とし、「時代によって、その「言い慣わし」に変化があったことは明らかで、それはそれぞれの時代の思想傾向や、歴史を記述する人の歴史観と密接な関係をもつという側面もある」と記されています。(p.242)
次に用語の解釈が記され、「乱」と「変」については上記と同様の記述がなされています。(p.242,270,302)
「役」ついては「賦役などと用いられるように、「人民を公役に使うこと」、「公用の勤」を意味する。そして戦争のために人民を徴発し、人々が軍事的に徴用されるところから、「戦」の意味での「役」という呼称が生まれた。「前九年・後三年の役」「文永・弘安の役」「文禄・慶長の役」などと用いるときの「役」には、軍役義務行為といった意味合いが残されている」と書かれています。(p.302)
【雑誌論文】
安田元久「歴史事象の呼称について : 「承久の乱」「承久の変」を中心に 」『研究年報』 30(学習院大学 1983)p.145-167(2016.10.20現在)
http://glim-re.glim.gakushuin.ac.jp/bitstream/10959/2405/1/kenkyunenpo_30_145_167.pdf
呼称については「合戦・戦・軍・役・陣などは、一般に武力集団の衝突、あるいは武力・軍事力を行使しての闘争を意味する呼称であり、その間にそれぞれの語の本来的意味の差はあるとしても、古くからの慣習的用例からすれば、その呼称・表現の差はあまり問題とならない。実際に古くからの歴史的叙述の諸例をみても、その呼称は著者の好みによって自由に選択されてきたように思われる。そして、歴史的に見ても、やはり重要なことは、乱及び変という用語・呼称の選択の相異であると考えられる」と記されています。
そして上記紹介しました「歴史事象の呼称」に対して訂正の必要はないとしながらも、歴史的経緯についての考証や論旨を支えるための論証にも不十分であったとして、再考察した内容となっています。
武田忠利「歴史用語と歴史教育:高校日本史教科書にみる呼称を中心に」『歴史学研究』628(青木書店 1992.1)p.34-46,64
教科書中の一般用語の使われかた特徴について
「変・乱・役・戦・合戦などの用語は明治初期(西南戦争=西南の役)までで、それ以後は使われていないこと」、
「大規模な内乱の中の一局地戦(戦・合戦とつくもの)や、対外戦争の中の一局地戦や事件には、全て人名や地名がつけられているのに対して、変の多くと大規模な内乱や政治権力をめぐる抗争事件とは、年号(元号)で表記されていること」などをはじめ4点挙げられています。
また、表1「教科書中の歴史用語の中で呼称の異なる主なもの(古代~現代)」の出版社別の一覧表や表2「教科書に使われている歴史呼称」の用語別の一覧表(「乱」「変」「役」「陣」など)が掲載されています。
次にそれぞれの用語について解説されています。
「乱と変」の項目には「乱は「治に対する乱」、「反逆」、「秩序を失うこと」などの意味で使われている。「乱れる」という意味の奥にあるのは、世の中の安寧、秩序が失われるような戦乱が、不可避的におこったということであろう。それに対して変には、「変わる」という意味の他に「突然おこった現象」、「不時の出来事」、「社会的に大きな影響を与えるような事件が不意におこること」という意味が含まれており、陰謀事件とか不意に襲撃された事件に該当することは明らかである」として、上記の安田元久の論点を紹介しつつ詳細な記述がなされています。
役については「征伐(征討・討伐)・役」の項に「役は『大漢和辞典』では、最初に「さきもり」や「辺境の守備」という意味が出てくる。この語源から見ると、「辺境」との戦いが役と認識されていることがわかる。歴史用語としては、辺境との戦争や反乱にあてられていき、その後対外戦争にも用いられて役という呼称が定着したことは確実であろう。その他辺境でおこった軍事的反乱に対して用いられている用語としては、「・・・の反乱」という呼称が使われており、征伐とは反対語的に使われている。政府周辺や政権をめぐる軍事的反乱などが「・・・の乱」と使われているのとは区別されている」と記されています。
この他「戦と合戦」「寇」「一揆・蜂起」「騒動」「出兵・進駐・進出など」「事件」「事変」「戦争」の呼称についても解説されています。
木村茂光「乱と変と役」『歴史評論』457(校倉書房 1988.5)p.22-28
「言葉から歴史を考える」という特集号に掲載された論文です。
まず「乱」と「変」の使い分けについては、上記の安田元久の論を元に記述されています。
役については、「明治期の教科書と現行の教科書を比較してみると、「役」という呼称がつく歴史事象がほぼ固定されていることが判明する。そのうち、前九年の役、後三年の役、文永の役、弘安の役は共通し、明治期では、西南の役(現行教科書は西南戦争)がはいる。そして現行では、以前の「朝鮮征伐」という皇国史観そのものの呼称に代わって、文禄の役、慶長の役が使用されるようになった。文禄の役、慶長の役が使用されるようになった理由を知ることはできないが、このように並べてみると、単に戦争という言葉と同義に使用されたとは言えない。偶然かも知れないが、対外関係の戦争に使用例が多いのである」と記述されています。
また、教科書の「乱」・「変」・「役」をもつ歴史事象を集めた表2「明治初期~昭和20年以前の教科書にみえる「乱」・「変」・「役」の呼称」が掲載されています。
[事例作成日:2016年10月20日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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日本歴史地理用語辞典 藤岡健二郎 柏書房 国史大辞典
- NDC
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- 日本史 (210 8版)
- 参考資料
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- 武士世界の序幕 安田/元久∥著 吉川弘文館 1982 (298-304)
- 戦乱 安田/元久∥編 近藤出版社 1984.6 (242,270,302)
- 歴史學研究 歴史學研究會 青木書店 628-633 (34-46,64)
- 歴史評論 民主主義科學者協會 校倉書房 453-458 453号:昭和62年総目次 (22-28)
- http://glim-re.glim.gakushuin.ac.jp/bitstream/10959/2405/1/kenkyunenpo_30_145_167.pdf (安田元久「歴史事象の呼称について : 「承久の乱」「承久の変」を中心に 」(2016.8.30現在))
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000206183