『源氏物語図典』(秋山虔/[ほか]編 小学館 1997.7)は源氏物語が書かれた頃の平安時代の建物について詳しく書かれており、図版も豊富です。
同書は源氏物語の世界の人々が生きた風俗・習慣の物心万般について、「これまでの研究成果にもとづいて信頼すべき史料に取材した図版を体系的に集成したもの」です(はしがき)。
24頁より「建築物」の項目があり執筆は倉田実氏、池浩三氏が担当されています。
光源氏が六条御息所の故地を取り入れて完成させた六条院の平面図(考証作図が池浩三氏のものと玉上琢彌氏のもの)や全景模型(考証池浩三氏)が掲載されています。
また、平安期の建物に関する語句の説明が絵とともに記載されています。「室内建具」についても記述されています。
寝殿の室礼の模型を俯瞰した図からは御帳台、茵、廂がよくわかります(36-37頁)。
この本は、他に「調度」「衣服」「年中行事」「通過儀礼」「貴族生活の諸相」などについても書かれています。
『源氏物語の鑑賞と基礎知識 №17空蝉(国文学「解釈と鑑賞」別冊)』(鈴木一雄/監修 至文堂 2001.6)には、89頁から池浩三氏編による「特集源氏物語における『建築』:平安貴族のすまいと生活」が載っています。『源氏物語図典』同様に模型や平面図、調度などについて図とともに解説が付されています。
221-240頁には「源氏物語の邸宅」という節があり、「光源氏の二条院・東院」「光源氏の六条院」「上流貴族の住宅」「紀伊守の邸宅-中川のわたりなる家」「夕顔の宿」「洛外の住宅」「地方の住宅」について記述されています。
図版はあまりありませんが、『王朝文学と建築・庭園(平安文学と隣接諸学1)』(倉田実/編 竹林舎 2007.5)という論文集には、源氏物語の時代の建築について詳しく記述されています。
例えば、
・平山育男「寝殿造の内部空間」(27-37頁)
寝殿造の建物内部の床、柱間装置、天井について考察したものです。
・倉田実「『源氏物語』の建築語彙:寝殿造の構造」(38-59頁)
当時の建築用語と『源氏物語』のものとに相違があることを認めた上で、寝殿造の史料としての『源氏物語』の見直しを必要とし、平安期の建築語彙を整理する一端として書かれた論文です。
なお、最後の部分で倉田氏は「『源氏物語』が寝殿造を考えるうえでの貴重な史料であったことである」と書いています(59頁)。
・浅尾広良「『源氏物語』の邸宅と六条院復元の論争点」(201-226頁)
『源氏物語』の中心的な舞台である光源氏の邸宅、六条院の想定復元図の研究史の整理を通して、この物語における邸宅研究の一助とした論文です。207頁より建物としての六条院を巡る研究文献23点が挙げられています。
六条院以外の邸宅については、『源氏物語の鑑賞と基礎知識 №17空蝉(国文学「解釈と鑑賞」別冊)』(上記紹介資料)を紹介しています。
『源氏物語:その住まいの世界』(池浩三/著 中央公論美術出版 1989.9)も図版は多くありませんが、第五章「寝殿造の構成」、第六章「寝殿と対の性格」、第八章「寝殿造の隔て」、第九章「寝殿造の室礼」といった建物に関する章が含まれており、平安時代の建築について参考になると思われます。
『源氏物語の背景:研究と資料(古代文学論叢第十五輯)』(紫式部学会/編 武蔵野書院 2001.11)の227-255頁は建具や建屋ではありませんが、「六条院の調度」とあり、調度品の図面集となっています(井筒輿兵衛氏の著)。
垣間見の図示(あるいは解説)については、以下の通りです。
『源氏物語と宮廷文化へのあこがれ』(徳島県立徳島城博物館 2009.2)は2009年2月10日から3月15日まで徳島県立徳島城博物館で開かれた「源氏物語と宮廷文化へのあこがれ」展の図録です。
その86頁に「匂宮と、御簾より這い出る若君。その様子を垣間見る浮舟の母(中将の君)」と「婿夫婦となった左近少将の様子を覗く中将の君」の二画面の絵があります(3×4.5センチ)。これは江戸時代に書かれた本です。
図録によると初代山本春正(1610-1682)という蒔絵師の筆による『絵入源氏物語』(慶安3(1650)年)で、万治3(1660)年刊の横本の挿絵が紹介されています(77頁)。
承応版『絵入源氏物語』でこの二画面をホームページで見ることが可能です。
http://shinku.nichibun.ac.jp/genji/about_genji.html国宝「源氏物語絵巻」において、「東屋」は「宇治の中君が浮舟に絵物語を見せているところ」と「薫が三条の隠れ家に住む浮舟を訪ねるところ」が描かれており、中将の君が匂宮や薫を垣間見る場面はありません。
よって、『源氏物語絵巻』(奥平英雄/著 保育社 1973.5)、『もうひとつのみやび 木版本 源氏物語絵巻』(源氏物語絵巻刊行会 2007.10)には図示したものはありませんでした。
土佐光吉画・後陽成天皇他書の「源氏物語画帖」は宇治十帖の後半の絵・詞書とも欠いており、よって「東屋」を描いたものはありません(『源氏物語画帖 詞書翻字・図様解説』(今西祐一郎/編 勉誠社 1997.4))。
その他源氏物語を描いた『源氏物語扇面画帖:九曜文庫蔵』(中野幸一/編 勉誠出版 2007.10)にも記載されていませんでした。
なお、源氏物語の垣間見をテーマとした本に『「垣間見」る源氏物語:紫式部の手法を解析する』(吉海直人/著 笠間書院 2008.7)があります。付録に「『垣間見』関係研究文献目録」(296-303頁)があるので参考になると思われます。
また、『源氏物語の鑑賞と基礎知識 №6東屋(国文学「解釈と鑑賞」別冊)』(鈴木一雄/監修 至文堂 1999.6)の90-91頁に「垣間見る女性-中将の君の垣間見をめぐって」という一文があり、源氏物語における中将の君の垣間見の意義について中嶋朋恵氏が書かれています。