レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2015/03/27
- 登録日時
- 2015/07/25 00:30
- 更新日時
- 2015/07/25 09:01
- 管理番号
- 千県中参考-2015-22
- 質問
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解決
(1)江戸時代、(2)明治初期、(3)植民地下朝鮮におけるそれぞれの識字率を知りたい。参考文献を教えてほしい。
- 回答
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(1)県立図書館の蔵書から江戸時代の識字率を推定している資料を紹介します。
【資料1】『日本人のリテラシー』「署名・符牒・印鑑 江戸初期」p.82-129
江戸初期の署名資料等から、都市部(京都)、地方都市(長崎平戸町)、農村(友岡村)の各地域に暮らす人々の読み書き能力を推定しています。
【資料2】木村政伸「前近代日本における識字率推定をめぐる方法論的検討」『識字と学びの社会史 日本におけるリテラシーの諸相』p.25-46
論題のとおり、『吾妻鏡』やゴロヴニン『日本幽囚記』等文献資料からの推定、『日本教育史資料』や入門簿に基づく寺子屋への就学率からの推定、署名による識字率の推定といった方法が、各研究者の著作を引用しつつ説明されています。
【資料3】『教育から見る日本の社会と歴史』p.40-41
人別帳の各自の氏名の下に記された印(花押)をもとに、長崎平戸町(1634年)と京都・六角町(1635年)の家持層の識字率を推定しています。
【資料4】『江戸の教育力』「江戸時代の識字力は本当に高かったか」p.28-33
駿河国御宿村の名主の入札(1856年)と百姓代の入札(1857年)から識字率を推定しています。入札は、相役の名主を選ぶにあたって、ふさわしいと思う人物の名を用紙に書いて投票することです。詳しくは、高橋敏「村の識字と『民主主義』」『新しい史料学を求めて』(国立歴史民俗博物館/編 吉川弘文館 1997 歴博大学院セミナー)を参照するよう案内されています。
(2)県立図書館の蔵書、並びにインターネット公開されている文献から明治初期の識字率を推定しているものを紹介します。
【資料5】八鍬友広「明治期日本における識字と学校」『識字と読書 リテラシーの比較社会史』p.69-95
識字力に関する比較可能な数少ない指標の一つとして「自署率」(自己の姓名を記しうる能力を測ったもの)を取り上げ、その調査結果について分析しています。『文部省年報』に掲載された、滋賀県、岡山県、鹿児島県、群馬県、青森県の自署率調査については、性別や地域によって大きな変動があるとした上で、詳細を先行研究(脚注3)に譲っています。本論では、山口県玖珂郡における学区毎自署率調査(1879年)と、岡山県における郡毎自署率調査(1894年)について、それぞれの結果を示して分析しています。
また、同様の調査として、滋賀県伊香郡における村毎自署率調査(1898年)を挙げています。関連文献が紹介されていますが、当館では所蔵していません。
八鍬友広「滋賀県伊香郡における1898年の識字率」『新潟大学教育学部紀要 人文・社会科学編』34巻1号(1992)p.47-61
【資料6】『日本人のリテラシー』「エピローグ 壮丁教育調査資料 明治期」p.252-302
文部省の自署率調査(「文部省年報」)による識字率の推計と、陸軍省の壮丁教育程度調査(「陸軍省統計年報」)による読み書き能力の推計を行っています。
【資料2】川村肇「明治初年の識字状況」『識字と学びの社会史 日本におけるリテラシーの諸相』(大戸安弘編 思文閣出版 2014)p.309-345
八鍬友広による研究を参照して、滋賀県・群馬県・青森県・鹿児島県・岡山県の各県における自署率調査、山口県玖珂郡における自署率調査、長野県北安曇郡常盤村の識字調査、陸軍の壮丁教育調査の結果を表にまとめています。また、明治初年における和歌山県51村の識字調査の結果を、図表を交えて考察しています。
【資料8】八鍬友広「近世社会と識字」『論集現代日本の教育史 7 身体・メディアと教育』p.85-108
徴兵検査の一環として行われた壮丁教育調査、「文部省年報」に掲載された自署率調査、山口県玖珂郡における自署率調査それぞれの結果を分析しています。
なお、本論の初出は『教育学研究』70巻4号で、その本文がインターネット公開されています。
八鍬友広「近世社会と識字」『教育学研究』70巻4号(日本教育学会 2003年12月)p.524-535
(http://jairo.nii.ac.jp/0018/00006566)
【資料7】斉藤泰雄「識字能力・識字率の歴史的推移 日本の経験」『国際教育協力論集』15巻1号
(http://home.hiroshima-u.ac.jp/cice/wp-content/uploads/2014/02/15-1-04.pdf)
【資料9】島村直己「壮丁の道府県別リテラシー 陸軍省『徴兵事務摘要』を主な資料として」『日本教育社会学会大会発表要旨集録』45号p.140-141
(http://ci.nii.ac.jp/naid/110001890838)
【資料10】徳川宗賢「日本人のリテラシー 明治14年の「識字調」から」『国語学』158号p.31-33
(http://db3.ninjal.ac.jp/SJL/view.php?h_id=1580310330)
(3)朝鮮人の日本語に関する識字率、または識字する人数について、下記資料が参考になります。
【資料11】板垣竜太「植民地期朝鮮における識字調査」『アジア・アフリカ言語文化研究』58号(http://jairo.nii.ac.jp/0041/00000343)p.277-316
「1930年朝鮮国勢調査にみる識字技能の普及状況」(p.289)
カナのみ識字、ハングルのみ識字、その両方を識字する人数を、年齢階層別・男女別に一覧できます。
【資料12】魯在化「識字運動の教育史的研究 1920-30年代の韓・日比較」
(国立国会図書館デジタルコレクション図書館送信限定サービスinfo:ndljp/pid/3061551)
「1920~30年代の朝鮮人の就学率・識字率とその性格」56-66コマ目
1934年の『朝鮮日報』の記事を引用して、朝鮮文のみわかる人、日本文のみわかる人、その両方がわかる人を合わせて454万9千人、識字率約20%としています(64コマ目)。
なお、「識字率」の文字は見られませんが、下記資料も参考になります。
【資料13】『韓国における国語・国史教育 朝鮮王朝期・日本統治期・解放後』「国語(日本語)教育 国語を解する朝鮮人の統計」p.127-130
「朝鮮総督府施政年報」(1921~1941年版)及び「朝鮮事情」(1940~1944年版)を典拠として、1913~1942年の各年における、国語を「稍解し得るもの」と「普通会話の差し支えなきもの」それぞれの人数を一覧できます。
- 回答プロセス
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(1)
リサーチ・ナビで「江戸 識字率」を検索して次の事例を参照しました。
レファレンス協同データベース「次のことについて書かれた資料を探しています。1 江戸時代の識字能力」(横浜市中央図書館)
(https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000105343)
この事例で挙げられている資料2点を確認しました。
【資料1】『日本人のリテラシー』
『江戸時代の教育』(R.P.ドーア著 岩波書店 1970)
「読み書き」(p.222-229)や「読み書き能力とその利益」(p.268-272)といった章立てがありますが、具体的な数値は見当たりません。
続いて、自館の蔵書検索で件名「日本‐教育」「教育-歴史」や全項目「江戸」「近世」「識字」を組み合わせて検索、【資料2】~【4】にあたりました。
なお、当館未所蔵のものを含め下記の書誌で関連文献を一覧できます。
『近世・近代初期書籍研究文献目録』(鈴木俊幸編 勉誠出版 2014)「識字」p.12-14
(2)
下記辞典類の索引で「識字率」「読み書き」「リテラシー」等のキーワードを引きましたが、識字率に関する情報は得られませんでした。
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典 第2版』(平凡社)
『日本教育史事典 トピックス1868-2010』(日外アソシエーツ 2011)
『日本近代教育史事典』(日本近代教育史事典編集委員会編 平凡社 1971)
『現代教育史事典』(久保義三[ほか]編著 東京書籍 2001)
リサーチ・ナビで「明治 識字」をキーワードに検索して次の調べ方を参照しました。
調べ方案内「識字率の調べ方」(国立国会図書館)
(http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/post-397.php)
レファレンス協同データベース「明治時代の女性の識字率の内、特に東京都の識字率を知りたい」(神奈川大学図書館)
(https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000140443)
同「昭和8年~15年ごろの日本の識字率はどの程度であったか」(岡山県立図書館)
(https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000032191)
同「明治初期の識字率が知りたい」(東京都立図書館)
(https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000013402)
上記の調べ方で挙げられている資料から、県立図書館で所蔵している、またはインターネット公開されている【資料5】~【7】を確認しました。
なお、【資料5】所収の「明治期日本における識字と学校」(八鍬友広著)において、自署率調査の先行研究として挙げられている文献(脚注3)は次のとおりです。
『明治前期教育政策史の研究』(土屋忠雄著 講談社 1962)
『日本の教育史学 第7集』(教育史学会紀要編集委員会編 文生書院 1977 教育史学会紀要)「義務教育就学の史的分析」(安川寿之輔著)
『日本近代化と教育』(ハーバート・パッシン著 サイマル出版会 1969 日本双書)
八鍬友広「19世紀末日本における識字率調査 滋賀・岡山・鹿児島県の調査を中心として」『新潟大学教育学部紀要 人文・社会科学編』32巻1号(新潟大学教育学部 1990)
『近代日本社会調査史 2』(川合隆男編 慶応通信 1991)「リテラシー教育の普及と「壮丁教育調査」」(清川郁子著)
『研究報告集14 国立国語研究所報告105』(国立国語研究所 1993)「近代日本のリテラシー研究序説」(島村直巳著)
『近代公教育の成立と社会構造 比較社会論的視点からの考察』(清川郁子著 世織書房 2007)
『日本人のリテラシー』(リチャード・ルビンジャー著 柏書房 2008)
同じくリサーチ・ナビの検索結果から【資料2】にあたりました。
また、(1)について調査する過程で【資料8】を見つけました。
さらに、国立国会図書館サーチやGoogle Scholarで「近代 識字」「明治 識字」を検索した結果から【資料9】【10】にあたりました。
なお、当館未所蔵のものを含め下記の書誌で関連文献を一覧できます。
『近世・近代初期書籍研究文献目録』(鈴木俊幸編 勉誠出版 2014)「識字 近代」p.14-15
(3)
自館の蔵書検索で、件名「朝鮮-教育」「植民地教育」「教育-歴史」、全項目「韓国」「朝鮮」「戦前」「植民地」「識字」「就学」、分類「372.2」等のキーワードを組み合わせて検索、関連資料にあたりました。また、国立国会図書館サーチやGoogle Scholarで「朝鮮」「植民地」「識字」「就学」等のキーワードを検索して、インターネット公開の文献や国立国会図書館デジタルコレクションの図書館送信限定サービスで閲覧できる文献も確認しました。
(インターネット最終アクセス:2015年7月14日)
- 事前調査事項
- NDC
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- 教育史.事情 (372 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】『日本人のリテラシー』(リチャード・ルビンジャー著 柏書房 2008)(2102145630)
- 【資料2】『識字と学びの社会史 日本におけるリテラシーの諸相』(大戸安弘編 思文閣出版 2014)(0106479933)
- 【資料3】『教育から見る日本の社会と歴史』(片桐芳雄編著 八千代出版 2008)(1102145137)
- 【資料4】『江戸の教育力』(高橋敏著 筑摩書房 2007 ちくま新書)(2102100718)
- 【資料5】『識字と読書 リテラシーの比較社会史』(松塚俊三・八鍬友広編 昭和堂 2010 叢書・比較教育社会史)(2102321906)
- 【資料6】『日本人のリテラシー』(リチャード・ルビンジャー著 柏書房 2008)(2102145630)
- 【資料7】『国際教育協力論集』15巻1号(広島大学教育開発国際協力研究センター編 2012年4月)
- 【資料8】『論集現代日本の教育史 7 身体・メディアと教育』(辻本雅史監修 日本図書センター 2014)(2102653479)
- 【資料9】『日本教育社会学会大会発表要旨集録』45号(日本教育社会学会 1993年10月)
- 【資料10】『国語学』158号(日本語学会 1989年9月)
- 【資料11】『アジア・アフリカ言語文化研究』58号(1999年9月)
- 【資料2】『識字と学びの社会史 日本におけるリテラシーの諸相』(大戸安弘編 思文閣出版 2014)(0106479933)
- 【資料13】『韓国における国語・国史教育 朝鮮王朝期・日本統治期・解放後』(森田芳夫著 原書房 1987 明治百年史叢書)(9101970320)
- キーワード
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- 識字率(シキジリツ)
- 自署率(ジショリツ)
- 読み書き能力(ヨミカキノウリョク)
- リテラシー(リテラシー)
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- 江戸時代(エドジダイ)
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- 教育史(キョウイクシ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 一般
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000177663