「通和元宝」は「統和元宝」の漢字変換時のミスと考えられる。
【以下は調査の経過】
1 当館所蔵の貨幣関係の資料には「通和元宝」についての記述はない。
2 1999年3月8日読売新聞、同日朝日新聞の記事に大英博物館の朽木コレクションの記事があり「非常に希少とされる中国の『通和元宝』もある』(表現は両紙とも同じ)とあり。
3 中国語の辞書『辞海』(DRC0320/25/2)によれば、「元宝」とは、中国古銭幣の一種の名称で「元宝」二字の前には常に年号、朝代等をかぶせ、貨幣の面に鋳するという。
4 大英博物館の記事の情報源は英文であると思われるので、「通和元宝」のピンイン表記
で[Google]を検索すると、2件ヒットする。ただしいずれも漢字表記がない。
(1) 1件目はeBAY(http://coins.search.ebay.com/)というオンライン・マーケットのサイトである。eBayのサイトにはAD983Liao(遼)のコインとあり。遼の元号を資料1で調べると、AD983-1011まで「統和」という年号がある。「統和」はピンインで表記すれば「tong he」となり「通和」と同じ表記になる。そこで「統和元宝」というコインはないか[Google]で検索したところ、約10件あり、うち「中国歴代銭評価」というサイトには「極めて稀」という注記がある。
(http://sodo.cool.ne.jp/data/senka.htm)
なおGoogle中国語簡体字で検索すると1500件を超える。
(2) 検索結果のもう1件はDing Fubao のコイン・カタログの索引である。
(http://chinesecoins.lyq.dk/Legend_index.html)
このカタログは他のコイン関係の図書に関するサイトによれば『Fisher’s Ding』とよばれているもので、Ding Fubaoの著作をFisherが英訳注記したもの。1940年刊行、中国貨幣に関するスタンダードなカタログとある。
同カタログの所蔵はないが、この原本である丁福保の『歴代古銭図説』(C3372/24/86)は所蔵している。同書p.132に「統和元宝」の図版がある。ただし、同書には索引がなく「通和元宝」という貨幣があるかどうかの確認はできない。そこで同じ著者の『古銭大辞典』(RC3372/18/1~2 中華書局 原著1938年)を調べたが、索引中に「通和元宝」はない。「統和元宝」については、「董橘曰、統和元宝、宋太平興国8年耶律隆序(他資料によれば緒)鋳』(p.1994)とあり。「太平興国」は宋の年号で8年は983年にあたる。同書は貨幣の図だけではなく、歴史的資料の引用が多い。。丁福保は同書の前書きによれば、著名な古銭収集家とあるが、また有名な中国古典研究者である。(『中国学芸大事典』参照)
なお資料1の元号索引に「通和」という元号はない。
以上から「通和元宝」は「統和元宝」の漢字変換時のミスではないかと推定される。
(最終検索日:2007.2.1)