レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2017年4月6日
- 登録日時
- 2017/05/03 14:44
- 更新日時
- 2017/12/06 14:56
- 管理番号
- 長野市立長野-17-001
- 質問
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解決
「仏教とは供養するもので、お願いをするものではない」というような内容の記事を雑誌でみた。
初詣などでお願いをすることを全否定されているようで気になるのだが、実際のところどうなのか。
- 回答
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世界の平穏から個人的なお願いまでを「お頼み」すること、世俗的な恵みを「現世利益」といいます。
「現世利益は死者供養とともに、日本仏教の基層をなす」
「現世利益というと、とかく次元が低いとけなされがちですが、仏教が人々の間に広まるうえで、絶大な力となった点は否定できません。」
と書いてある資料がありました。
ほとんどの宗派では現世利益を目的として「ご祈祷」が行われています。
日本仏教の各宗派は、程度の差こそあれ、現世利益を認めているようです。
- 回答プロセス
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仏教の棚をブラウジングしながら、仏教の入門書を中心に探す。
『やさしい仏教入門』p86-87 仏壇の誕生
「多くの日本人にとって仏壇は、先祖供養をするためのものだと思われているが、本来、供養とは仏法僧の三宝に対して祭祀を行うことをいう。」
「日本では仏教伝来以前から家の中に先祖神を祀る場所を設ける風習があった。」
「仏教と先祖信仰や葬式が強く結びつくようになったのは、江戸幕府の宗教政策である檀家制度の影響が強いと言われている。」
などとあり。
『仏教なんでも相談室』
p135-137「初詣に参りますが、神仏にどのように祈れば、ご利益がいただけるのでしょうか。」
(一部抜粋)
「ご利益というと、とかく自分が神仏から“いただく”ことのように思われがちですが、それだけではないのです。
他人に対して自分は何をなすべきか。そして仏の教えに従うという前提に基づくことが、真のご利益だということになります。
つまり、自利と利他の思いが融合したところに、ご利益は成り立つ、と解釈すべきです。その意味で、世間的な利益(りえき)と仏教の利益(りやく)は、区別されなければなりません。たとえば、<どうぞ儲かりますように>とか、<うまい話が舞いこみますように>。こうした楽して得をするような、虫のいい我欲の祈りでは、いかな神仏でもそっぽを向くに違いありません。
要するに祈りの姿勢が問題です。仏教の説く「祈願」からすれば、「空念仏」であってはならないということです。ただ神仏にすがりつくのではなく、自分自身が願いを「成し遂げる」ために、力をお借りする。言葉を換えれば「誓願」であり、「行願」であるべきでしょう。」
などと回答があり。
p179-181「現世利益(げんぜりやく)をさかんに説く宗教がありますが、仏教ではご利益をどう見ますか。」
(一部抜粋)
「仏教の現世利益は、どう説かれているのでしょう。中村元著『仏教語大辞典』によれば、
「この現在の世で受ける仏・菩薩の恵み」で、「経典を信じ、これを読誦したり、身にたもったり、仏名や真言を唱えたりすることで得られる」。そして「このために祈願するのを現世祈祷といって密教では種々の修法を行」い、「浄土教でも念仏行者の受ける種々の利益をいう」とされます。」
「ただし、仏・菩薩は人の苦悩に耳を傾けはするでしょうが、「誓願」なき者の願いには、手を染めることはしない、と思うべきでしょう。
真のご利益とは、仏法僧の三宝に帰依することが前提で、その功徳によって「感応道交(仏と人の念い(おもい)が相通じ融合)」する時、成就すると、『修証義』には説かれています。」
などと回答あり。
「現世利益」というキーワードを得る。
『仏教』
p278-279 現世利益の信仰
「現世利益は死者供養とともに、日本仏教の基層をなす。それは災厄を取り払い、福を招く呪術によって実現されると信じられた。」
とあり。
国家の安泰、政治の安定などのための祈祷、雨乞い・五穀豊穣の祈り、病気平癒・安産などの呪術儀礼などが行われたとあり、
「このような現世利益の信仰は、近代から現代にまで消え去ることなく、民衆に根づいている。現代の世相では、家内安全・商売繁盛・交通安全・学業成就などの祈祷が盛んに行われている。」
とあり。
『今日から役立つ仏教』
p196-197 仏教マンガ お寺のことをもっと知りたい!
「願い事も徳の高いお坊様にお布施を積めばいろいろな福徳が得られるという発想から来ているのです」
とあり。
p198-199 なぜ日本人はお寺にお参りするのか?
「厳しい戒律をまもり過酷な修行に精進するお坊さんには特別な力があるので、お寺に行き、お会いして説法を聞いたり、お布施したりすると来世でよい境遇に生まれ変われるとか、現世でも病気が治るとか、いろいろな福徳が得られるという発想は、仏教のごく初期からありました。」
「願望成就をお願いできる場として、お寺に期待する方も少なくありません。実際にほとんどの宗派では「ご祈祷」がおこなわれています。その目的は、いわゆる現世利益です。現世利益というと、仏教の本筋から外れていると批判する人もいますが、現世利益の意義は『法華経』などにも認められています。」
p202-203 仏教が与える「功徳」とは?
「仏教ではなんらかの善い行為をしたときに、その報いとして得られる恵みを功徳といいます。果報、福徳、利益などともいいます。恵みの内容は、なにも宗教的な領域に限らず、世俗的な領域にも及びます。世俗的な領域の恵みを別の言葉で表現すると、現世利益です。(中略)加持祈祷はおおむね、この現世利益と密接な関係にあります。
現世利益というと、とかく次元が低いとけなされがちですが、仏教が人々の間に広まるうえで、絶大な力となった点は否定できません。もし仏教が現世利益をまったく否定したとすれば、まちがいなく歴史のかなたに消え去っていたことでしょう。日本仏教の各宗派も、程度の差こそあれ、現世利益を認め、時と場合によっては積極的に利用することで、歴史の荒波を乗りこえてきたのです。」
とあり。
コラムには現世利益の具体例として、
「世界の平穏から個人的な願いまでを「お頼み」することです。お賽銭をあげて、「受験合格しますように…」と願うのはこれにあたります。」
とあり。
宗教的な功徳の具体例は、
「さとりに近づくためのお布施や修行などの善行をおこなって得られる果報です、念仏をあげたり先祖を供養することが、これにあたります。」
とあり。
以上を利用者にかいつまんでご説明したところ、納得していただいた。
「法華経」の現世利益の意義に関する項を調べてみたところ、観世音菩薩普門品第二十五の部分ではないかと思われる。
『三田誠広の法華経入門』
p222-230 「信仰は現世に利益をもたらす<観世音菩薩普門品第二十五>」
がわかりやすく解説してあったので紹介する。
- 事前調査事項
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どの雑誌だったのかなどは覚えていない。
- NDC
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- 仏教 (180)
- 参考資料
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- 『やさしい仏教入門』インデックス編集部/編著 インデックス 2004.09 <180ヤ> , ISBN 4-87257-488-5 (p86-87 仏壇の誕生)
- 『仏教なんでも相談室』鈴木 永城/著 大法輪閣 2013.11 <180ス> , ISBN 978-4-8046-1355-0 (p135-137、179-181)
- 『仏教』広沢 隆之/著 ナツメ社 2002.02 <180ヒ> , ISBN 4-8163-3152-2 (p278-279、284-285)
- 『今日から役立つ仏教』正木 晃/著 ナツメ社 2014.10 <180マ> , ISBN 978-4-8163-5695-7 (p196-199、202-203)
- 『三田誠広の法華経入門』三田 誠広/著 佼成出版社 2001.04 <183ミ> , ISBN 4-333-01922-2 (p222-230)
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000215603