レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2018年07月31日
- 登録日時
- 2018/12/18 10:37
- 更新日時
- 2018/12/18 11:12
- 管理番号
- 千県中千葉-2018-06
- 質問
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解決
千葉県大網白里市池田に残る伝統行事「犬の供養」について調べています。
民俗学的書籍もしくは県内での聞き取り調査の結果や研究をまとめた資料はありますか。
- 回答
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千葉県内の犬供養の概要について、民俗学関係の雑誌に記事が見つかりました。
【資料1】丸谷仁美「利根川下流域の犬供養 塔婆送りの習俗に注目して」(『民俗学論叢』14号 1999.4)p39-56
国立国会図書館のデジタルコレクション参加館で閲覧できます。(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/7952347 21-30コマ)「はじめに」で犬供養に関しての研究を簡潔にまとめています。具体的な調査地は大網白里ではなく、茨城県稲敷郡や千葉県成田市です。
また、県内での調査記録として、印旛郡栄町の記録がありました。
【資料2】『布鎌の民俗と歴史』(井上正敏著 崙書房 1975)
p43-56 昭和47年11月に布鎌(現在の印旛郡栄町)の「学校の児童の家庭を対象」にした犬供養についての調査が記載されています。
調査項目は「1犬供養、犬の塔婆はどこに立てますか」「2犬供養の由来について知っていたら、教えて下さい」
の2項目で、回答結果の情報から布鎌地域の犬供養を考察しています。
調査の過程で見つかった、県内の犬供養について記述のある資料を列記します。
【資料3】『千葉県の歴史 別編民俗1 県史シリーズ 34 総論』(千葉県史料研究財団編集 千葉県 1999)
巻頭の口絵「34犬供養」写真があり、「印旛・香取地域では、子安講の女性たちが安産を願って、Y字型の塔婆を立てる。この犬塔婆のことをザカマタ、ザッカともいう。」とあります。
p421-423「(一)子安講と女人講」犬供養と犬塔婆の項目に記述があります。
【資料4】『千葉県の歴史 別編民俗2 県史シリーズ 35 各論』(千葉県史料研究財団編集 千葉県 2002)
p358「犬供養」八千代市の犬供養について記述されています。
【資料5】『房総の民俗 千葉県民俗総合調査報告 昭和38年度』(千葉県教育委員会 [千葉] 1964序)
p125-162「年中行事」の項目うち、犬供養と記載のあったのは2件で解説などはありません。
p132成田市馬場に「2月下旬 犬供養」
p143九十九里町西野の「2月4日 子安講と犬供養 ビシャの宿で女たちの飲食。」
【資料6】『大網白里町史』(大網白里町史編さん委員会編集 大網白里町 1986)
p1192「表1 町内の年中行事一覧」に「8月8日 犬の供養」とあります。
【資料7】『印西町史 民俗編』(印西町史編さん委員会編集 印西町 1996)
p587-589「子安講と犬供養」印西町の子安講の一つとして犬供養が紹介されています。
【資料8】『成田市史 民俗編』(成田市史編さん委員会編集 成田市 1982)
p452-460「(2)犬供養」成田市内各地区の犬供養の概要が書かれています。
【資料9】『母の祈り 利根川下流域の女人信仰』(千葉県立中央博物館大利根分館編集 千葉県立中央博物館大利根分館 2015)
p22-24「安産祈願の犬供養」博物館の企画展の図録です。犬卒塔婆の写真が多く掲載されています。
【資料10】『図説ちば民俗誌 2 ときめく人びと』(平野馨編著 崙書房出版 1997)
p13「犬供養の鉦・太鼓」「犬供養の拝み」の2枚の写真があります。
p111-140に「千葉県民俗関係図書目録」があり、犬供養の載っている「社会伝承」の項目がありますが、大網白里町(当時)についての資料は見当たりませんでした。
【資料11】柳田國男「子安神の話」『定本 柳田国男集 第11巻』(筑摩書房 1969)
p515-519「子安神の話」 千葉・茨城・栃木・福島の広域に関して記述があります。
【資料12】鎌田久子「利根川下流域の産神信仰」『利根川 自然・文化・社会』(九学会連合利根川流域調査委員会編 弘文堂 1971)
p306-314「利根川下流域の産神信仰」佐原市香取、佐原市山田、大栄町柴田、下総町中里地域の犬供養の記述があります。
【資料13】『現代供養論考 ヒト・モノ・動植物の慰霊 考古民俗叢書』(松崎憲三著 慶友社 2004)
p211-216「犬・猫供養の研究小史」に千葉県香取郡山田町長岡の事例が記載されています。
【資料14】『人と動物の日本史 4 信仰のなかの動物たち』(吉川弘文館 2009)
p225「イヌは東北南部から北関東に犬供養がある。これは死んだイヌを供養したもので、千葉、茨城、栃木県では安産祈願の意味合いがある。」とあります。
【資料15】『柳田国男と利根川 柳田学発生の周辺を歩く』(守屋健輔著 崙書房 1975)
p152-156「犬そとば」 【資料2】の布鎌での調査などが記載されています。
【資料16】『日本の地名 続 岩波新書 新赤版 559 動物地名をたずねて』(谷川健一著 岩波書店 1998)
p134-136「[イヌ]犬卒塔婆」犬供養の風習が「こうした風習は千葉県の香取・印旛両郡や茨城県の各地でも見られた。」とあります。
当館で所蔵していないため内容未確認ですが、記述がありそうな資料も見つかりました。
菊池健策「犬供養に関する一考察」(『常民文化研究』2号 1977.5)
菊池健策「犬供養の研究(1)」(『民俗学評論』17号 1979.6)
菊池健策「利根川下流域の犬供養」(『日本仏教』50・51号 1980.3 p78-95)
榎戸貞次郎「犬供養」『民間伝承』(4-6号 1939)p7
嶋田尚「木の股考」『茨城の民俗』(21号 1982)p15-26
鎌田久子「産育習俗」(『人類科学』20号 1968)p84-89
鎌田久子「利根川流域の産神について」(『人類科学』22号 1970)p199-208
内野久美子「七里法華と子安講~その習俗と振興~」(『日本佛教』日本佛教研究会 45号 1978)p26-38
- 回答プロセス
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(1)当館蔵書検索システムで、全項目「犬供養」、「通過儀礼」、「年中行事」、「風俗」と資料種別「千葉県資料」のキーワードを掛け合わせて検索する。【資料5】【資料10】などがヒット。以下の資料には千葉県内の犬供養に関する記述はなかった。
『日本の民俗 12 千葉』(第一法規 1974)
『生きている民俗探訪 千葉』(高橋在久編著 第一法規 1978)
『生活の年輪 房総文化誌ノート 現代の教養 59』(高橋在久著 桜楓社 1966)
『山武の楽しい年中行事』(東京電力株式会社東金営業所 1988)
p2「子安講」はあるが犬供養はなし
『人生儀礼の世界 平成21年度企画展』(松戸市立博物館編 松戸市立博物館 2009)
(2)千葉県に関する資料のデータベース「菜の花ライブラリー(http://www.library.pref.chiba.lg.jp/nanohana/index.html)」で「犬 供養」と検索。
事前調査事項と同じ、菊池健策「犬供養と産死供養 その関わりについての一つの視点」『成田市史研究』(7号 1980.3)p41-48がヒットする。参考文献欄より、同著者の
菊池健策「犬供養に関する一考察」(『常民文化研究』2号 1977.5)
菊池健策「犬供養の研究(1)」(『民俗学評論』17号 1979.6)の情報を得るが未所蔵であった。
(3)事前調査事項や(2)より、菊池健策氏が犬供養に関しての論文を多く出していることがわかったので、当館蔵書検索システムで著者名「菊池健策」と検索する。確認した3冊とも県内の犬供養に関しての記述はなかった。
『仏教民俗学大系 8 俗信と仏教』(名著出版 1992)p347-362「大師と犬と農耕」
『民俗学の進展と課題』(竹田旦編 国書刊行会 1990)p529-543「「イヌ」をめぐる民俗」
『知っておきたい日本の年中行事事典』(福田アジオ著 吉川弘文館 2012)
(4)県史や市町村史から探す。
【資料3】【資料4】【資料6】に犬供養の記述があった。
事前調査事項に『成田市史研究』があることから、【資料8】を確認した。
(5)国立国会図書館サーチで「犬供養」と検索する。
【資料1】【資料2】と菊池健策「利根川下流域の犬供養」(『日本仏教』50・51号 1980.3 p78-95)がヒットする。『日本仏教』50・51号は当館に所蔵なし。
(6)【資料1】の注から注5、10-1、10-2、11-1の資料を確認した。
論文内容から、注3、5、9~12、14~17に記述がありそうだと見当を付け、所蔵確認した。そのうち千葉県立図書館に所蔵のあった注5、10-1、10-2、11-1の内容を確認した。注14は利用者の事前調査済み資料、注17は調査中に確認済みの資料で、他は未所蔵であった。
注3 榎戸貞次郎「犬供養」『民間伝承』(4-6号 1939)p7
注5 柳田國男「月曜通信 犬そとばの件」『定本 柳田国男集 第13巻』(筑摩書房 1963)p330-334千葉県の記述はなし。
注9 嶋田尚「木の股考」『茨城の民俗』(21号 1982)p15-26
注10-1 【資料11】
注10-2 柳田國男「関東の民間信仰 犬卒塔婆と子安講」『定本 柳田国男集 第31巻』(筑摩書房1970)p187-188「犬卒都婆と子安講」千葉県の記述はなし。
注11-1 【資料12】
注11-2 鎌田久子「産育習俗」(『人類科学』20号 1968)p84-89
注11-3 鎌田久子「利根川流域の産神について」(『人類科学』22号 1970)p199-208
注12 内野久美子「七里法華と子安講~その習俗と振興~」(『日本佛教』日本佛教研究会 45号 1978)p26-38
注14 菊池健策「犬供養と産死 その関わりについての一つの視点」(『成田市史研究』 成田市教育委員会 第7号 1980.3)p 41-48
注15 菊池健策「犬供養の研究(1)」(『民俗学評論』17号 1979.6)
注16 菊池健策「利根川下流域の犬供養」(『日本仏教』50・51号 1980.3 p78-95)
注17 「「イヌ」をめぐる民俗」『民俗学の進展と課題』(竹田旦編 国書刊行会 1990)p529-543
(7)国立国会図書館リサーチ・ナビの目次データベースで「犬供養」と検索する。
【資料7】がヒットする。
(8)キーワードの範囲を広げて、当館蔵書検索システムで全項目「動植物 供養」「動物 供養」「犬 供養」と検索し、以下の資料を確認した。
【資料13】、【資料14】には記載あり。以下の資料には県内の記載なし。
『仏教民俗学大系 4 祖先祭祀と葬墓』(名著出版 1988)p377-378「犬猫供養」
『民俗的世界の探求 かみ・ほとけ・むら』(鎌田久子先生古稀記念論集編纂委員会編 慶友社 1996)p162-185松崎憲三「動植物の供養覚書 供養碑建立習俗をめぐって」
『祭祀と供犠 日本人の自然観・動物観』(中村生雄著 法蔵館 2001)p228-247「動物供養と草木供養」
『動植物供養と現世利益の信仰論 考古民俗叢書』(高木大祐著 慶友社 2014)p275-308「動物飼育と供養」
(9)Webcat Plusの一致検索で「犬卒塔婆」「犬そとば」と検索し、以下の資料を確認。
【資料15】、【資料16】には記載あり。
『ヒトから人へ “一人前”への民俗学』(佐野賢治著 春風社 2011)p42-45「犬卒塔婆」にはなし。
- 事前調査事項
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以下の資料より、犬供養は千葉県で動物供養と安産祈願の両方の性格をもち、出産適齢期の女性によって行われていることや、成田市では少なくとも1970年代までは行われ、産死供養の側面があったことなどがわかっています。さらに現地にて参加者から直接お話も伺っています。
『日本民俗大辞典 上 あ~そ』(福田アジオ[ほか]編 吉川弘文館 1999)
菊池健策「犬供養と産死 その関わりについての一つの視点」(『成田市史研究』 成田市教育委員会 第7号 1980.3)p 41-48
- NDC
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- 労働経済.労働問題 (366 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】丸谷仁美「利根川下流域の犬供養 塔婆送りの習俗に注目して」(『民俗学論叢』14号 1999.4)p39~56 (国立国会図書館デジタルコレクション)
- 【資料2】『布鎌の民俗と歴史』(井上正敏著 崙書房 1975)(9200176329)
- 【資料3】『千葉県の歴史 別編民俗1 県史シリーズ 34 総論』(千葉県史料研究財団編集 千葉県 1999)(0200721971)
- 【資料4】『千葉県の歴史 別編民俗2 県史シリーズ 35 各論』(千葉県史料研究財団編集 千葉県 2002)(0200782055)
- 【資料5】『房総の民俗 千葉県民俗総合調査報告 昭和38年度』(千葉県教育委員会 [千葉] 1964序)(9200292650)
- 【資料6】『大網白里町史』(大網白里町史編さん委員会編集 大網白里町 1986)(9200326201)
- 【資料7】『印西町史 民俗編』(印西町史編さん委員会編集 印西町 1996)(0200673435)
- 【資料8】『成田市史 民俗編』(成田市史編さん委員会編集 成田市 1982)(9200284120)
- 【資料9】『母の祈り 利根川下流域の女人信仰』(千葉県立中央博物館大利根分館編集 千葉県立中央博物館大利根分館 2015)(0201024094)
- 【資料10】『図説ちば民俗誌 2 ときめく人びと』(平野馨編著 崙書房出版 1997)(0200676849)
- 【資料11】柳田國男「子安神の話」『定本 柳田国男集 第11巻』(筑摩書房 1969)(9101581734)
- 【資料12】鎌田久子「利根川下流域の産神信仰」『利根川 自然・文化・社会』(九学会連合利根川流域調査委員会編 弘文堂 1971)(9200275238)
- 【資料13】『現代供養論考 ヒト・モノ・動植物の慰霊 考古民俗叢書』(松崎憲三著 慶友社 2004)(0105805928)
- 【資料14】『人と動物の日本史 4 信仰のなかの動物たち』(吉川弘文館 2009)(2102231809)
- 【資料15】『柳田国男と利根川 柳田学発生の周辺を歩く』(守屋健輔著 崙書房 1975)(9200110087)
- 【資料16】『日本の地名 続 岩波新書 新赤版 559 動物地名をたずねて』(谷川健一著 岩波書店 1998)(0105390224)
- キーワード
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- 犬供養(イヌクヨウ)
- 子安講(コヤスコウ)
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- 千葉県―大網白里市(チバケン-オオアミシラサトシ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000248694