レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20100909
- 登録日時
- 2010/10/21 02:00
- 更新日時
- 2010/10/21 09:19
- 管理番号
- B100819092933
- 質問
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解決
嫌気性のカビがあるそうだが、このカビは本には全く無害なのか。そういった統計や解説が載っている本はないか。
- 回答
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ご照会の事項について以下のとおり回答します(【 】内は当館請求記号です)。
当館所蔵資料からご照会の事項に関係すると思われる資料を調査しました。嫌気性のカビが本に与える害について解説した図書資料は見当たりませんでしたが、カビの分類と、カビが本に与える害について、以下の記述がありましたのでご参考までにご紹介いたします。
1.カビの分類について
(1) 『防菌防黴ハンドブック』(日本防菌防黴学会 技報堂出版, 1986.5 【RA2-82】)
カビの分類について、「カビ類(mould, mold)であるが、これは学術的用語というよりは通俗的なことばと考える方がよい。もともとは、物の表面に生育した微生物の集落を示す語として用いられていた。現在でもこれを使うことがあるが、主として糸状菌を指すものと理解しておけばよいであろう。表-8.1中の真菌類がそれに該当しよう。」(p.1116)との記述があります。また、嫌気性のカビの存在に関連して、「糸状菌はほとんどが好気性で生育には酸素を必要とする。」(p.1160)との記述があります。
(2) 『微生物学』(青木健次 化学同人 2007.4 【RA611-H41】)
カビの分類について、「今まで真菌類として取り扱われてきた生物群はすべて真核生物である。ただし、分子系統解析の結果から、真菌類として取り扱われてきたもののなかには、“真”の真菌と、真菌類似の形態または生態的特性をもつほかの真核生物群とが含まれていることが明らかとなっている。」(p.36)として、「分子系統学的知見の導入により、現在、大幅に見直されつつある。」(p.37)との記述があります。
(3) 『菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統(バイオディバーシティ・シリーズ 4)』(裳華房, 2005.11 【RA611-H25】)
嫌気性のカビの存在に関連して、「ATP(アデノシン三リン酸の略号、生体内のエネルギー通貨と呼ばれる)の生成反応から、微生物を3群に分けることができる。」として、「第2群は、呼吸によってエネルギーを生成する絶対好気性微生物(一部の細菌、大部分のカビ、キノコ、微細藻類、原生動物)と嫌気呼吸する微生物(一部の細菌)」(p.12)との記述があります。
2.カビが本に与える害について
(4) 『資料の保存に関する調査研究(総会資料 ; no.40-3)』(国立大学図書館協議会 資料の保存に関する調査研究班, 1993.5 【UL755-E12】)
カビが本に害を与える条件に関連して、「生物による紙の劣化要因の主なものは、紙を蝕害して繁殖する虫と、僅かな栄養源と湿度があればどこでも発生するカビである。」(p.9)、「カビ菌の胞子は塵・埃に付着して風に吹かれて飛んでくる。あるいは人の衣服について書庫内のどこにでも侵入することが出来る。さらに胞子はどんな乾燥にも耐えうる。そして高温多湿の条件が満たされると発芽して活動を開始する。」(p.13)との記述があります。
また、カビの防除について、「あらゆる過程で侵入してくるカビの胞子を排除・死滅させることはほぼ不可能であり、カビの発育に適した環境をつくらないように書庫内の温度・湿度の管理を厳重にすることが第一に必要なことである。乾燥を維持することがカビの生育を阻む重要な方法であるが、過度の乾燥は紙の強度や品質を低下させ、また、資料の劣化の原因ともなる。資料の素材にかなった管理が必要となる。」(p.13)との記述もあります。
【調査済資料】
・『環境微生物図鑑』(小島貞男 講談社, 1995.12 【RA4-G1】)
・『菌類図鑑. 上』(宇田川俊一 講談社, 1978.3 【RA621-10】)
・『菌類図鑑. 下』(宇田川俊一 講談社, 1978.4 【RA621-10】)
・『原生動物図鑑』(講談社, 1981.8 【RA6-19】)
・『かび検査マニュアルカラー図譜』(高鳥浩介 テクノシステム, 2002.3 【RA621-G41】)
・『微生物の事典』(渡邉信,西村和子,内山裕夫,奥田徹,加来久敏,広木幹也 朝倉書店, 2008.9 【RA2-J11】)
・『微生物学辞典』(日本微生物学協会 技報堂出版, 1989.8 【RA2-E22】)
・『微生物学 (ベーシックマスター)』(掘越弘毅[他] オーム社, 2006.11 【RA611-H31】)
・『Brock微生物学』(Michael T.Madigan,John M. Martinko,Jack Parker[他] オーム社 2003.4【RA611-H9】)
・『細菌の栄養科学』(石田昭夫,永田進一,大島朗伸,新谷良雄,佐々木秀明 共立出版, 2006.11 【RA624-H2】)
・『微生物の分離法』(山里一英〔ほか〕編 R&Dプランニング 2001.7 【RA611-G35】)
・『防菌防黴剤事典』(日本防菌防黴学会事典編集委員会 日本防菌防黴学会, 1986.8 【PA2-E28】)
・『防菌・防黴剤の開発と展望』(西原力,高麗寛紀 シーエムシー出版, 2005.3 【PA31-H56】)
・『防菌防黴剤の技術と市場』(井上嘉幸 シーエムシー, 1989.5 【PA31-E5】)
・『防菌防黴剤と快適環境』(井上嘉幸 シーエムシー, 1992.10 【PA31-E16】)
・ 『抗菌・抗カビの最新技術とDDSの実際』(上田重晴,西野敦 エヌ・ティー・エス, 2005.4 【PA31-H57】)
・『抗菌・防カビ技術(TRC R & D library)』(東レリサーチセンター調査研究部門 東レリサーチセンター, 2004.5 【PA31-H40】)
・『殺菌・除菌実用便覧』(横山理雄,田中芳一 サイエンスフォーラム 1996.6 【SC186-G29】)
・『本の寿命』(日本ファイリング, 1994.11 【UL755-E14】)
・『防ぐ技術・治す技術』(「防ぐ技術・治す技術-紙資料保存マニュアル-」編集ワーキング・グループ 日本図書館協会, 2005.3 【UL755-H7】)
・『博物館・美術館の生物学』(川上裕司,杉山真紀子 雄山閣, 2009.8 【K275-J198】)
・『文化財害虫事典 2004年改訂版』(文化財研究所東京文化財研究所 クバプロ, 2004.4【K275-H83】)
・『文化財の生物被害防除手法アンケート2005』(文化財研究所東京文化財研究所, 2006.3【K275-H178】)
・『資料保存のための代替』(日本図書館協会資料保存委員会[他] 日本図書館協会, 2010.3 【UL755-J15】)
・『紙と本の保存科学』(園田直子 岩田書院, 2009.10【UL755-J13】)
・『臭化メチル燻蒸代替法に関する研究』(文化財研究所東京文化財研究所保存科学部 文化財研究所東京文化財研究所, 2004.3 【K275-H94】)
・『臭化メチル燻蒸代替法に関する研究』(文化財研究所東京文化財研究所保存科学部 文化財研究所東京文化財研究所, 2006.3 【K275-H175】)
・『茨城県内における図書館資料の保存に関する調査報告 (茨城県図書館協会調査研究委員会報告書 ; 1)』(茨城県図書館協会, 2008.3 【UL751-J1】)
・『図書館と資料保存(雄松堂ライブラリー・リサーチ・シリーズ ; 1)』(安江明夫 雄松堂出版, 1995.1【UL755-E16】)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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『カビ対策マニュアル』 文部科学省大臣官房政策課 2008.10
『博物館・美術館の生物学』 雄山閣 2009.8
『書籍・古文書等のむし・かび害保存の知識』 文化財虫害研究所 1983.7
『文化財の生物被害防止ガイドブック』 東京文化財研究所 2003.3
『文化財の生物被害防止に関する日常管理の手引』 文化庁文化財部 2001.3
『文化財保存環境学』 朝倉書店 2004.12
『文化財害虫事典』 クバプロ 2004.4
『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』 日本図書館協会 2003.7
『菌類・細菌・ウィルスの多様性と系統』 裳華房 2005.11
『抗菌・抗カビ技術』 シーエムシー出版 2005.6
<Web> 最終確認日:2010.8.17
・「書籍・資料のカビとその対策」木川りか
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/24500/1/2_kigawa.pdf
・「図書資料のカビ対策」佐野千絵[ほか]
http://www.tobunken.go.jp/~hozon/hozon_pdf.html
・NDL>資料の保存>お知らせ>カビが発生した資料のクリーニング
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data_preserve20.html
・J-GLOBAL、CiNii
以下のキーワードを掛け合わせて検索しましたが、「嫌気性のカビが書籍に与える害について」書かれた論文は見当たりませんでした。
「カビ OR 黴」「資料 OR 本 OR 紙」「くん蒸 OR 燻蒸」「嫌気性」「保存」「図書館」「木川りか」「佐野千絵」
このほか、以下のサイトの「スタッフ紹介」「刊行物」のページで参考となる文献がないか調査しました。
・東京文化財研究所(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/index.html)
・文化財虫害研究所(http://www.bunchuken.or.jp/index.html)
- NDC
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- 情報資源の収集・組織化・保存 (014)
- 微生物学 (465)
- 参考資料
- キーワード
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- カビ
- 微生物
- 資料保存
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000072505