刀剣を造る際の藁の使用については、『たたら製鉄と日本刀の科学』鈴木卓夫/著 雄山閣出版 1990(請求記号756.6/スタ)p.96に、玉鋼を積み重ねて熱を通す「積み沸かし」の作業工程で、テコ台に積んだ小割りした鋼に藁灰(半燃焼した藁)をまぶし、さらにその上から泥水をかけ炉に入れるということが記載されている。藁灰や泥を掛けるのは、空気を遮断して鋼が燃えないようにするためと、鋼全体に均質に熱を伝導させるためと説明されている。
同著者の『作刀の伝統技法』鈴木卓夫/著 理工学社 1995(請求記号756.6/スサ)には、「積み沸かし」工程で以下の記述があった。 “積み重ね終えた鋼を水でぬらした和紙で全体をつつみ、次にその上にワラ灰をまぶし、さらに泥汁を満遍なく全身にかけ、この状態を崩さないようにしてホドへ入れて熱します。和紙でつつむのは積んだ鋼を崩さない工夫であり、泥汁をかけるのは、鋼の芯までじっくり熱が伝わり、沸きの具合をよくするためにおこなわれ、またワラ灰はこれをまぶすことにより、鋼と空気とが遮断され、鋼の燃えが防がれることになります。”
『武術の創造力』甲野善紀・多田容子/対談 PHP研究所 2003(請求記号789.0/コブ)では、熱した鋼同士を接合する(鍛接)際、鋼の表面に生じる酸化鉄を除去するための鍛接剤として、江戸時代には藁灰と粘土汁を用いたということが述べられており(p.115~116)、上記の「積み沸かし」の作業もまた、この鍛接作業の一つとされている(p.123)。
他に作刀工程での藁の使用としては、同じく『武術の創造力』のp.122に、「焼鈍し(やきなまし)」として、鋼を熱してから藁灰の中などに入れ、保温しながらゆっくりと冷ますということが記述されており、こうすると鋼の内部組織が加工しやすいものになるということが説明されている。
また、『金属と日本人の歴史』桶谷繁雄/著 講談社 2006(請求記号563.0/オキ)では、刃の表面に焼刃土を塗って焼き入れをする「焼刃」作業で“藁灰水を用いて、刀身上の油気をのぞき”という記述が見られる。
藁を生の状態で使用している例はなく、いずれも藁を燃焼させた藁灰を使用しているものだった。