レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2018/02/21
- 登録日時
- 2018/03/15 11:28
- 更新日時
- 2018/03/30 17:10
- 管理番号
- 139
- 質問
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初代尼崎藩主である戸田左門氏鉄(うじかね)の「左門」とは何か?
- 回答
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「左門」は「左衛門府」の略で、左衛門府は宮中警護などにあたっていた役所を指しますが、氏鉄がこの官職を務めていたというわけではありません。「左門」のほか、当時武士の間では、「~守」「~大夫」などの受領名・寮名(=朝廷の役所名)を名乗ることがありますが、当時の武士の通称名として使用されたものと理解できます。
戸田左門氏鉄の「左門」も、たとえば織田信長が上洛前に名乗っていた官職名である「上総介」「尾張守」「弾上忠(だんじょうのちゅう)」などと同様、通称と考えてよいと思われます。そして、戸田家の場合は氏鉄の父である一西(かずあき)、孫の「氏西(うじあき)」以下、たびたび「左門」を名乗っています。
なお、このような通称は、大名・旗本などの各武家の序列を確定する武家官位とも異なります。官位とは、「官職」と「位階」を指しますが、近世に朝廷の官位から切り離されて確立した武家官位の構成・序列は、「太政大臣-左大臣-右大臣-内大臣-大納言-中納言-宰相(参議)-中将-少将-侍従-四品-諸大夫(従五位下)-布衣」というもので、官職と位階が混在しつつ構成、序列化されていました(右大臣、左大臣等は官職だが、四品、諸大夫はもともと、それぞれ四位と五位の官職の無い散位を指す)。なお、江戸時代には、官位叙任の実質的な決定権は江戸幕府にあり、幕府が朝廷に奏請し、朝廷から叙任されるという手続きをとっていました。
ところで氏鉄は豊臣政権下の文禄4年(1595)に「従五位下・采女正(うねめのかみ)」に叙任されています。「従五位下」への叙任は「諸大夫成り」と称されていました。「采女正」も官職名(「采女」は宮廷で天皇に近侍し、食膳などに奉仕した下級女官で、采女関係の事務をつかさどる役職として「采女司[うねめのつかさ]」がある、采女正は采女司の長官)ですが、こちらも「名乗り」として理解することができます。諸大夫となり、これまでの通称から、新たな官職名へと名乗りを改めました。
しかし、豊臣家が滅んだのちの元和5年(1619)に本興寺に宛てて発給した「戸田氏鉄禁制」(本興寺文書』第1巻、『尼崎市史』第5巻)の発給者名には「戸田左門」とあり、おそらくは、豊臣から徳川への政権の交代を機に名乗りを旧に復したものと考えられます。その後寛永11年(1634)に従四位下に叙任されますが、「家譜」には官職名について記されておらず、このときは名乗りを改めた様子は確認できません。そして、翌寛永12年に尼崎から大垣へと転封になった本興寺宛の書状(『本興寺文書』第1巻)、さらに氏鉄に替わって尼崎藩に襲封する青山幸成(よしなり)に宛てた氏鉄の書状(「青山氏遺書書付類写し」『尼崎市史』第5巻)は、いずれもその差し出しにおいて「左門」を名乗っていることが確認できることから、継続して「左門」の名乗りを使用していたと考えられます。
- 回答プロセス
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1 「左門」の意味を調べる。
◆『日本国語大辞典』など
2 武家官位について、以下の文献を参照。
◆堀新「近世武家官位試論」(深谷克己/堀新編『展望日本歴史13 近世国家』、東京堂出版、2000)
◆堀新「織田政権論」(『岩波講座日本歴史』第10巻 近世1、岩波書店、2014)
◆笠谷和比古「武士の身分と格式」(朝尾直弘編『日本の近世』7身分と格式、中央公論社、1992)
など
3 戸田家の家譜
◆「美濃大垣 戸田家譜」(抄出)(『尼崎市史』第5巻)
◆『新訂 寛政重修諸家譜』第14巻(p374~380 戸田氏系譜)(続群書類従完成会、1965)
4 戸田「左門」と記されている一次史料の確認
◆『本興寺文書』第1巻(清文堂出版、2013)
◆「青山氏遺書書付類写し」(『尼崎市史』第5巻)など
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本史 (210)
- 系譜.家史.皇室 (288)
- 参考資料
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- 日本大辞典刊行会 編 , 日本大辞典刊行会. 日本国語大辞典. 小学館, 1977. (当館請求記号 813/ニ)
- 深谷, 克己 , 堀, 新 , 深谷, 克己 , 堀, 新. 近世国家. 東京堂出版, 2000. (展望日本歴史) , ISBN 449030563X (当館請求記号 210.1/ト-13)
- 国史研究会 , 国史研究会 編. 岩波講座日本歴史 第10. 岩波書店, 1935. (当館請求記号 210.1/イ-10)
- 辻達也 編 , 朝尾直弘 編 , 辻/達也 , 朝尾直弘. 日本の近世 : 身分と格式 第7巻. 中央公論社. (当館請求記号 210.5/チ-7)
- 尼崎市. 尼崎市史 第5巻. 尼崎市, 1974. (当館請求記号 219/A/ア-5)
- 林, 述斎 , 高柳, 光寿 , 岡山, 泰四 , 齋木, 一馬 , 村山, 貴久男 , 林, 述斎 , 高柳, 光寿 , 岡山, 泰四 , 齋木, 一馬 , 村山, 貴久男. 寛政重修諸家譜 14. 続群書類従完成会, 1964. , ISBN 4797102187 (当館請求記号 288/ハ-14)
- 本興寺 編 , 本興寺 (兵庫県). 本興寺文書 第1巻. 清文堂出版, 2013. (清文堂史料叢書 ; 第125刊) , ISBN 9784792409791 (当館請求記号 211.1/A/ホ-1)
- キーワード
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- 左門
- 戸田氏鉄
- 受領名・官途・寮名
- 武家官位
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000232530