レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2005/6/16
- 登録日時
- 2011/02/21 02:00
- 更新日時
- 2013/12/26 11:30
- 管理番号
- 愛知県図-01015
- 質問
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「黒い太陽」という概念がヨーロッパ文化の中でどのような意味を持っているか。
- 回答
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シンボル事典、百科事典の中に「黒い太陽」についての記載が見つかりました(【資料1】~【資料4】)。ヨーロッパにおける「黒い太陽」の概念は、錬金術の中に見られます。【資料4】によると、「錬金作業の<黒化 nigredo>の段階における物質の腐敗・混沌状態・・・死と闇の状態」であると同時に「復活と光の母胎でもある」とされています。
錬金術に関する資料を確認すると、「黒い太陽」は、中世ヨーロッパで発行された錬金術書に登場します。錬金術書は、錬金作業の過程を絵に表したもので、【資料5】では錬金術の概説とともに、錬金術書に描かれたモチーフの解説があり、「黒い太陽」については「錬金作業の黒化を示す」とされています。【資料6】は、錬金術の過程と人間の精神的発達との連関について著された資料で、黒色化の闇と絶望は中年期の鬱状態を象徴するとされ、「黒い太陽」の図版及び解説もあります(p269)。
【資料7】には、錬金術的思考とヨーロッパ文学、絵画における関わりについてまとめられており、p189「太陽伝説」の項では、「黒い太陽」のモチーフが使われた作品がとりあげられています。また参考文献として【資料8】が挙げられています。
【資料9】は占星術的観点から、「黒い太陽」について簡潔にまとめられています。
さらに【資料4】で「黒い太陽」を描いた代表的人物として取り上げられているG.deネルバル、O.ルドンについては、【資料10】【資料11】があります。
- 回答プロセス
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1.シンボル事典、百科事典を確認
【資料1】 p35「黒い太陽」の項「錬金術では黒い太陽 sol niger(ソル ニゲル)は土星の象徴であり、太陽の暗く破壊的な面を意味するとされる」
【資料2】 「太陽」の項(p262)に、「黒い太陽(ソル・ニゲル)は蛇や地下に属する霊的存在と結びつく」とあり(用語解説(p326)「黒い太陽」にも同様の説明あり)、続いて地域、文化別の解説があるが、「黒い太陽」について触れた項は、「太陽-錬金術」の「黒い太陽は<第一資料(プリマ・マテリア:錬金術の最初の段階で原料とする物質の呼称)>である」のみ。
【資料3】 「太陽」の項の中に小項目「黒い太陽」(p590)があり、アステカ族、マヤ族、錬金術における記述あり。「錬金術師にしてみれば、黒い太陽は第一物質であり、まだ加工されず、進化の道程にまだいたらない物質である。後の精神分析学者にとっても、黒い太陽は同じく最も初歩的段階の無意識になるだろう」。またヨーロッパに限定した記述ではないが、「さまざまな伝承によると、黒い太陽は宇宙や社会や個人の中で破壊的な力が猛威を振るう前兆である。大災害や苦痛や死の予告なのだ・・・」とある。
【資料4】 「太陽」の項目の中に「太陽と錬金術」という小項目(p129)があり、「黒い太陽」について記述あり。「錬金作業の<黒化 nigredo>の段階における物質の腐敗・混沌状態を示す<黒い太陽 sol niger>。日食にも比せられるこの死と闇の状態は、同時に復活と光の母胎でもある。そこから<黒い太陽>は、一種の救済表象として、G.deネルバルやO.ルドンらの作品にも受け継がれていく。」
2.以上から、錬金術と関わりが深い用語であることが分かり、錬金術関係の資料を見ていく。事典類には、『魔法と錬金術の百科事典』(柊風舎,2009 R387.03)、『記号・図説錬金術事典』(同学社,1996 R430.2)があるが、いずれにも記述なし。また、錬金術と関わりの深い魔術、占星術、オカルト関係や、色彩事典、聖書事典等の参考図書にもあたるが、記載なし。
3.「錬金術」をキーワードに蔵書検索し、内容を確認すると、【資料5】~【資料7】に「黒い太陽」について記述あり。
【資料5】 p14-15「黒化・白化・赤化」の項で、図版入りで解説あり。「荒廃した台地に姿を現す黒い太陽は、錬金作業の黒化をしめしている。」「黒化は・・・物質の死であり・・・同時に再生への出発点である」とある。
【資料6】 錬金術の過程と深層心理学との関わりについて著された資料。p269「黒い太陽の恐怖」の項あり。
【資料7】 錬金術的思考と文学や絵画との関わりがまとめられており、「黒い太陽」が描かれた作品について記述あり。参考文献として挙げられた【資料8】には、「黒い太陽の神話-錬金術の宇宙観」(p41-64)という項あり。
4.「黒い太陽」「錬金術」をキーワードに図書内容検索、雑誌記事索引検索。特記すべき資料としては、【資料9】~【資料11】。
【資料9】 占星術的観点から日食を解釈した論考で、「黒い太陽」について簡潔に記されている。「錬金術的なプロセスとは死と再生のプロセスなのである。「黒い太陽」はそのときに物質が「死ぬ」ときに描かれる。これは苦しい状態ではあるのだが、新しい再生に向けての生まれ変わりの準備なのだ。」
【資料10】【資料11】は、【資料4】で「黒い太陽」を描いた代表的人物として挙げられていたネルヴァル、ルドンに関する論評。
- 事前調査事項
- NDC
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- 化学 (430 9版)
- 参考資料
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【資料1】ミランダ・ブルース=ミットフォード 著 , 若桑みどり 訳. サイン・シンボル事典. 三省堂, 1997.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002627725-00 , ISBN 4385162123 (資料ID:1107345050) -
【資料2】J.C.クーパー 著 , 岩崎宗治, 鈴木繁夫 訳. 世界シンボル辞典. 三省堂, 1992.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002210953-00 , ISBN 4385107556 (資料ID:1106093450) -
【資料3】ジャン・シュヴァリエ, アラン・ゲールブラン 共著 , 金光仁三郎 [ほか]共訳. 世界シンボル大事典. 大修館書店, 1996.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002565310-00 , ISBN 4469012491 (資料ID:1107150917) -
【資料4】世界大百科事典 17 改訂新版. 平凡社, 2007.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I000424627-00 (資料ID:1109364574) -
【資料5】吉村正和 著. 図説錬金術. 河出書房新社, 2012. (ふくろうの本)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023319347-00 , ISBN 9784309761817 (資料ID:1110324240) -
【資料6】ヨハンネス・ファブリキウス 著 , 大滝啓裕 訳. 錬金術の世界. 青土社, 1995.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002401412-00 , ISBN 4791753526 (資料ID:1106682889) -
【資料7】種村季弘 著. 黒い錬金術. 白水社, 1991. (白水Uブックス ; 1016)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002142819-00 , ISBN 4560073163 (資料ID:1105819620) -
【資料8】巌谷国士 著. 幻視者たち : 宇宙論的考察 新版. 河出書房新社, 1991.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002151090-00 , ISBN 4309261566 (資料ID:1105845371) - 【資料9】「占星綺想 (1)黒い太陽」鏡 リュウジ/著 『ユリイカ 32巻1号(426号)』2000-01 p19~29 (請求記号:Z /900 /ユ2)
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【資料10】井田三夫 著. ネルヴァルの幻想世界 : その虚無意識と救済願望. 慶應義塾大学法学研究会, 2005. (慶應義塾大学法学研究会叢書 ; 別冊 13)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007835946-00 , ISBN 4766411528 (資料ID:1108732273) - 【資料11】「ルドンの黒い錬金術<特集>」 西沢 信弥 /著 『季刊みづゑ 937号』1985-12 p58~73 (請求記号:Z /700 /ミ)
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【資料1】ミランダ・ブルース=ミットフォード 著 , 若桑みどり 訳. サイン・シンボル事典. 三省堂, 1997.
- キーワード
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- 黒い太陽
- 錬金術
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000078564