レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2015/8/1
- 登録日時
- 2015/09/17 00:30
- 更新日時
- 2015/09/17 17:59
- 管理番号
- B150711150409
- 質問
-
解決
①
心理学者ユングの発言として「人生の正午」が有名ですが、この発言の出典はユングのどの著作によるものでしょうか。
②
ユング自身、青年期から中年期にかけて、いわゆる「中年期の危機」を経験したといわれています。中年期から老年期にかけて、ユングがどのような見解を持っていたかが記載されている著作があれば紹介してください。
- 回答
-
ユングの著作及びユングに関する著作の資料を調査対象として、次の(1)~(3)及び[その他調査済み資料及びデータベース]に記載した情報源を調査したところ、照会事項①について該当すると思われる記述がある資料(1)が見つかりました。
また、照会事項②について調査したところ、ユングがいつごろどのような「中年期の危機」を経験したかについて記載している資料は見あたりませんでしたが、ユングが50歳代半ばのときの著作物の翻訳と思われる(1)に、中年期から老年期の人間に係る記述がありました。また、資料(2),(3)にも関連する記述が見つかりました。(【 】内は当館請求記号です。)
(1)
ユング著 鎌田輝男訳「総特集 ユング 人生の転換期」(『現代思想』 7(5) 1979.4 pp.42-55 【Z9-368】)
※国立国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)(国立国会図書館内限定公開資料)
・照会事項①について
p.50に次の記載があります。
「子供らしい人間が、未知の世界と人生を前に恐れをなして尻込みするように、大人もまた人生の後半期を前にして後退りするのである。(中略)
これは、もしかすると究極的には死への恐れであるのだろうか。私にはそのようには思えない。普通、死はさらに遠い先のことであり、したがってやや漠然としているからである。経験の教えるところは、むしろ、この過渡期に現れるすべて障害の原因と理由は、心の深層における注目すべき変化である。このことを判りやすく示すために、私は、毎日の太陽の運行に譬えてみる。この太陽が、人間的な感情と人間的な瞬間の意識を具えているものと考えてみよう。朝になると、この太陽は無明の夜の大海から昇ってくる。そして天空高く昇るにつれて、太陽は、広い多彩な世界がますます遠く延び広がって行くのを見る。上昇によって生じた自分の活動範囲のこの拡大の中に、太陽は自分の意義を認めるであろう。そして最高の高みに、つまり自分の祝福を最大限の広さに及ぼすことの中に、自分の最高の目標を見いだすであろう。この信念を抱いて太陽は予測しなかった正午の絶頂に達するのである―予測しなかったというのは、その一度限りの個人的な存在にとって、その南中点を前もって知ることはできないからである。正午一二時に下降が始まる。しかも、この下降は、午前のすべての価値と理想の転倒である。太陽は矛盾に陥る。」
p.55の原著の書誌的事項と考えられる記載「Title: Die Lebenswende in Seelenprobleme der Gegenwart, 1946. Author: C.G Jung.」に基づき、該当する原著の当館での所蔵を調査しましたところ、『Gesammelte Werke』(Jung, C. G. (Carl Gustav)著 [Olten : Walter, 1971]-1983 【SB21-30】)の第8巻(Die Dynamik des Unbewussten)、pp.443-460に「Die Lebenswende」が見つかりました。P.443の脚注に[Vortrag, im Auszug veröffentlicht in: Neue Zürcher Zeitung, 14./16. März 1930; in neuer Fassung unter dem Titel Die Lebenswende erschienen in: Seelenprobleme der Gegenwart, Psychologische Abhandlungen Ⅲ(1931).]と記されています。
・照会事項②について
p.52に次の記載があります。
「人生の午後にいる人間は、自分の人生が上昇し拡大するのではなく、仮借ない内的過程によって生の縮小を強いられるのだということを悟らなければならないであろう。青年期の人間にとって、自分自身に打ちこみすぎることは、もうほとんど罪である。そうでないにしても少なくとも危険である。老いつつある人間にとっては、自分の自己にたいして真剣な考察をささげることは、義務であり必然性である。太陽は、その光をひとつの世界に惜しみなく降り注いだあとは、自分自身を照らすためにその光線を回収するのである。そうするかわりに、多くの老人たちは、気で病む病人、吝嗇家、やかまし屋、過去の賛美者、あるいはさらに永遠の少年になることのほうを好む。これこそ、自己照明をしないですますための哀れな代償行為であるが、またしかし、人生の後半期は前半期の諸原則によって治めなければならないとする妄想の必然の結果でもある。」
(2)
・『ユング心理学辞典』(アンドリュー・サミュエルズ [ほか]著 ; 浜野清志, 垂谷茂弘 訳 創元社 1993.12 【SB35-E136】)
pp.79-80に「人生の段階[じんせいのだんかい] stages of life」の項があり、次の記載があります。
「(前略)人生の後半においてユングが重視したのは、目的感の意識である。死の接近が人生後半では現実となる。究極的には、自己受容、自然な充実ないし開花、そして、自身の潜在力に沿って満足のいく生を送れたという感覚、などの度合いがここで問題となる(個性化)。」
(3)
・『人格心理学』(鈴木乙史, 佐々木正宏 編著 放送大学教育振興会 2000.3 【SB131-G39】)
「10 人格と発達(4)ライフサイクル 2.ユングのライフサイクル論」(pp.119-121)に、資料(1)のp.50「朝になると、(中略)太陽は矛盾に陥る。」が引用された後、次の記載があります。
「一回限りの人生を生きる個人にとって、正午の絶頂から午後の下降を前もって実感を込めて知ることはできない。人生の午後にいる人間は、生の縮小を強いられるのだということを悟らなければならないのである。そして、自己に対して真剣な考察を捧げることが、義務であり必然だとユングはいう。
人生の午後は、午前と同じプログラムで生きるわけにはいかない時期なのである。人生の午後の課題は、自己に対する真剣な考察を捧げ、人生の前半で排除してきた自己を見つめ、自己のなかに取り入れることである。ユングは、このことを個性化と呼んだ。中年期の転換期ではこのように、生き方や価値観の転換をしなければならないのである。」
[その他調査済み資料及びデータベース]
・『人格心理学』(大山泰宏 著 改訂新版 放送大学教育振興会 2015.3 【SB131-L19】)
・『パーソナリティ心理学ハンドブック』(二宮克美, 浮谷秀一, 堀毛一也, 安藤寿康, 藤田主一, 小塩真司, 渡邊芳之 編集 福村出版, 2013.3 【SB2-L2】)
・『ユング心理学入門』(河合隼雄 著 新装版 培風館 2010.4 【SB35-J63】)
・『ユング』(アンソニー・スティーヴンズ 著 ; 鈴木晶 訳講談社 1995.2 【SB35-E168】)
・『転移の心理学』(C.G.ユング 著 ; 林道義, 磯上恵子 共訳 みすず書房 1994.9 【SB35-E160】)
・『ユング伝』(ゲルハルト・ヴェーア 著 ; 村本詔司 訳 創元社 1994.7 【SB35-E158】)
・『ユング : その生涯と心理学』(アントニ・スティーヴンズ 著 ; 佐山菫子 訳 新曜社 1993.4 【SB35-E122】)
・『タイプ論』(C.G.ユング 著 ; 林道義 訳 みすず書房 1987.5 【SB134-84】)
・『無意識の心理』(C.G.ユング 著 ; 高橋義孝 訳 人文書院 1977.8 【SB35-111】)注記:『人生の午後三時』 (新潮社昭和31年刊) の改題複製
・『分析心理学』(C.G.ユング 著 ; 小川捷之 訳 みすず書房 1976 【SB35-88】)
・『人生の午後三時』( ユンク 著 ; 高橋義孝 訳 新潮社 1956 【145.1-cJ95z-T】)
※国立国会図書館デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)(国立国会図書館内限定公開資料)
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インターネット及びデータベースの最終アクセス日は2015年7月27日です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 心理学 (140 9版)
- 参考資料
- キーワード
-
- 心理学者
- ユング
- Carl Gustav Jung
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000179936