レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2003/01/31
- 登録日時
- 2010/10/28 02:02
- 更新日時
- 2010/11/25 02:02
- 管理番号
- 新県図-01142
- 質問
-
解決
慈母観音に関する解説書を所蔵していますか。当館の調査では、「子安(観音・神)」というキーワードで、下記の資料に簡単な記述があるのを確認しています。
調査済資料:
『世界大大百科事典 10巻』(平凡社 2000)
『岩波仏教辞典』(岩波書店 1989)
『日本宗教事典』(弘文堂 1985)
- 回答
-
次のとおり回答いたします。
1.慈母観音について
所蔵資料を確認しましたが、「慈母観音」ということばが出てくる資料は、さほど多くありませんでした。そこで、観音信仰関係の資料のうち、特に観音の母性について書かれたものも併せて紹介します。
(1)『観音経事典』柏書房 1995(R183/Ka57)観音経のみならず、観音信仰全般についての総合的な解説書。中国と日本の観音信仰についても詳しい。主要参考文献も紹介。
p119「子安観音」
「子供を授け、安産を守護する観音。これに対して出産後の成長を守護するのが子育て観音。…子安観音は西日本に多く、東日本の場合は子安地蔵や子安神が多い。」
p133「慈母観音」
「観世音菩薩の俗称。観音の性格には慈悲・智慧・勇猛といったものが与えられるが、観音の慈悲を慈しみ深い母親に譬えて呼んだもの。」
(2)『観音変容譚』弥永信美著 法蔵館 2002 仏教神話学 2(184/I94/2) 第二部「我れ婦女の身を現じ…-観音菩薩の女性化をめぐって」で観音の女性化について、詳細に論考。
p233~256「6 光明皇后の愛欲と聖性」
うちp348~256「3 光明皇后と観音菩薩」
「中国と日本の「慈母観音」について研究した三輪善之助が記するところによれば―、泰産寺子安観音の縁起に就いて…」
「大藤ゆき氏の解説によれば、一般に子安観音の信仰は、中国の慈母観音の影響を受けたといわれ、幼児を抱いた慈母の姿で、西日本に多く、堂または神社の形をとって祀られている。これに対して子安地蔵は路傍の石像が多く、東日本に多く見られる」という。(『世界宗教大事典』p676a)」
「中国の慈母観音と言われているものは、磁器製の子どもを抱いた女性の観音像で、一六世紀ころから中国で多く作られ、日本に輸入されて、一部は日本のキリシタンによっていわゆる「マリア観音」として信仰されたもののことを指している。」
「「慈母観音」ということばに表されるような優しく慈愛に満ちた女性神としての観音の信仰は、われわれ近-現代の日本神にとっては自然なもののように感じられるが、それは仏教全体の通念から見れば、まったく異例な、異様な信仰だった。そうした「慈母」的な、女性神としての表
象が生まれてきた背景で…」
p305~320「8 慈母観音の誕生-「蓮華部母」から「送子/子安観音」まで」うちp307~308「1 「送子観音」と「白衣大士」」
「日本-中国の「慈母観音」について研究した三輪善之助は、これよりさらに百六十年も前、元中五年(一三八八年)に没した南北朝時代の禅僧・周信(義堂)の詩集『空華集』に…」
うちp321~324「4 日本の子安観音信仰」
「日本の観音の女性化は、現代になってとくに顕著であるように思われる。たとえば大船観音や高崎観音など過去十年の間に造られた民間的な観音像は、明らかに女性、とくに「慈母」的な女性を意識して制作されているようである。これは近-現代日本のジェンダー/セクシャリティーの問題として詳しく再検討されなければならないだろう。」
(3)『観音信仰事典』 速水侑編 戎光祥出版 2000(186/H47)(1)同様、観音信仰についての総合的な解説書。
p24~43「観音信仰七つのキーワード」
うちp41~43「キリシタンとマリア観音」
「こうして<潜伏キリシタン>の信仰において特に重要な崇拝対象とされたのが、「マリア観音」と称される仏像でした。マリア観音は、幼児を抱く慈母観音・子安観音などの観音像を、<潜伏キリシタン>が幼いイエスを抱くマリア像に見たてたもので、それ自体は仏像以外の何物でもありませんでした。その多くは中国製の白磁・青磁の観音像であって…」
p44~73「観音信仰のあゆみ」
「このほかにも、子安観音、子育観音…等々、実に多くの形態の観音が江戸時代には生み出された。」
(4)『神々の風景と日本人のこころ』 PHP 1996 エンゼル叢書 1(160/Mo74) 「forum3 民族の信仰と「母子の絆」-生活の根底に流れる母の愛・神のこころ」で日本における信仰と母性について論考。
p139~158「1 日本の昔話に見る「母と子と神の関係」」
うちp144~146「母性に対する信仰」
「日本でこれに対応するのは、観音様が子どもを抱く、慈母観音のような形でしょう。これは、アメリカの日本研究者マーチン・コルカットが指摘していますが、マリアの図像の影響を受けているのだと思われます。」
(5)『女神-聖と性の人類学-』 田中雅一編 平凡社(163/Ta84) 文化人類学的な視点からの女性と信仰に関する研究書。
p34~37「二 女神の由来伝承の特徴 1 観音菩薩」
「文献史料によると、観音の女性化は宋末から元にかけて起ったという。」
(6)『日本の神々 2 神の変容』 山折哲雄編 平凡社 1995(162/Y42/2)
p219~256「第7章 女神の誕生」(山折哲雄)
うちp232~236「三.観音信仰と女神」
「観音菩薩が日本の女神の秘密を解くためのアルファでありオメガであると思う。・・・観音=女神信仰の系譜については、周知のように柳田も折口もそれとして論じようとはしなかった。」
うちp245~253「五.観音信仰とマリア信仰」
「柳田国男のいう母子神、折口信夫の主張する水の女神にたいする信仰、そしてあえて飛躍したいい方をすれば親鸞や恵信尼が経験したような観音=女神信仰もまた、キリスト教伝来のマリア崇拝と共通する宗教意識の発現とみることができるわけである。」
(7)『性と身分-弱者・敗者の聖性と悲運-』 宮田登編 春秋社 1989 大系:仏教と日本人 8(182/Ta22/8) 観音霊験譚を集めた『日本霊異記』『今昔物語』などを通して、母性と宗教の関りを考察する。
p170~206「観音信仰と母性崇拝」(沼義昭)
うちp177~184「観音の女身顕現」
(8)『中国と日本の神-仏教・道教・儒教・神道-』オドン・ヴァレ著 創元社 2000(J162/V24)
p31「子どもを抱いた観音菩薩(中国)」
「キリスト教における聖母マリアと同じく、ひとびとの信仰は観音菩薩を女神の地位に押し上げた。柳田国男のいう母子神、折口信夫の主張する水の女神にたいする信仰、そしてあえて飛躍したいい方をすれば親鸞や恵信尼が経験したような観音=女神信仰もまた、キリスト教伝来のマリア崇拝と共通する宗教意識の発現とみることができるわけである。」
(9)『秘められた仏たち-中国の仏教遺蹟を訪ねて-』鎌田茂雄著 中外日報社 1997(182/Ka31)
p107~109「独楽寺の十一面観音」
「観音様は道教の廟でも観音娘々(にゃんにゃん)として祀られており…」
(10)『民間信仰辞典』(桜井徳太郎編 東京堂 1980(R385/Mi44)
p125「子安神」
「産神の一つで安産祈願の対象となり、ウブガミとして産に立ち合い生児を守護する神。・・・仏教と習合して中世以降は子安地蔵・子安観音が生まれ…。子安観音は中国の慈母観音の影響で日蓮宗におけるインド由来の鬼子母神と似たところがあるといわれる。」
(11)『日本民俗宗教辞典』 佐々木宏幹著 東京堂 1998(R387/I33)
p133「観音信仰」
「中世以降はますます庶民化し、観音霊場の巡礼がさかんに行われるようになったり、子安観音・慈母観音・延命観音などの民俗的信仰も生まれたりした。」
p190「子授け」
「その代表的なものが子を抱いた女神像や仏像を祀った子安神社・子安観音・子安地蔵などであるが…」
(12)『全国神仏御利益事典』 国書刊行会 1996(387/N45)
p273「子安信仰」
「子安信仰は安産祈願の対象として「ウブガミ」を源として子易信仰として発達したが、これが後に仏教の伝来にともない、中世以降はこの仏教と習合して子安地蔵及び子安観音が信仰されるようになった。勿論これを広めたものは仏僧や修験者であるため、子安観音はインドの鬼子母神や中国の慈母観音の影響を多分に受けている。」
2.観音信仰一般及び子安観音(子安神・子安地蔵)について。
1で紹介した以外のもので、主要なものを挙げます。
(1)『観音信仰』速水侑編 雄山閣 1982 民衆宗教叢書 7(186/H47)総合的な研究書。マリア観音についての論文も収録。
(2)『観音・地蔵・不動-民衆のねがい-』集英社 1989 図説日本仏教の世界(182/N71/8)
p34~77「観音信仰」(門馬幸夫)
(3)『観音信仰』神奈川県立金沢文庫 1993(186/Ka48) 図版と解説。
(4)『定本中国仏教史 3』任継愈編 柏書房 1994(182/N76/3)
p602~625「第5章 民間における仏教信仰の流行 第1節 観世音信仰の伝入とその流行の状況」
(5)『日本民俗大事典 上』吉川弘文館 1999(R380/F84)
p447~448「観音信仰」
p650~651「子安神、子安講」
(6)『仏教文化事典』佼正出版社 1989(R180/Su25)
p484~494「諸菩薩の信仰と造形-観音菩薩-」(上原昭一)
(7)『総合仏教大辞典 上』法蔵館 1988(R180/So28/1)
p228~229「観音菩薩」
(8)『中国仏教史辞典』鎌田茂雄編 東京堂 1981(R180/Ka31)
p50~51「観音信仰」など
(9)『日本の神仏の辞典』大島建彦ほか編 大修館書店 2001 (R162/O77)
p390~392「観音」「観音経」など
p528「子安」「子安観音」「子安地蔵」など
(10)『日本仏教語辞典』岩本裕著 平凡社 1988(R180/I94)
p164~167「観世音菩薩」など
(11)『日本仏教史辞典』今泉淑夫編 吉川弘文館 1999(R180/I43)
p177~178「観音信仰」
p349「子安神」
(12)『仏教民俗辞典 コンパクト版』 新人物往来社 1993(R180/B87)
p121「子安神」
(13)『日本の神々-多彩な民俗神たち-』 戸部民夫著 1998 (387/To13)
p94~95「子育て地蔵・子安地蔵」
p142「子安神」
(14)『日本神さま図鑑』 宗教民俗研究所編著 はまの出版 1996(387/Sy9)
p94~95「子安観音」
(15)『イラストふるさとの神々なんでも事典』 とよた時著 冨民協会 1989(387/To93)
p83「観音」
p85「子安神」
(16)『お産の民俗』 佐藤千春著 日本図書刊行会 1997(383/Sa85)
p62~64「お産と観(世)音」
(17)『日本の石仏 No.95』日本石仏協会 2000.9[雑誌]
特集:観音菩薩
(18)『子安観音と鬼子母神』三輪善之助著 不二書房 1935(国立国会図書館請求記号:683-135)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
-
- 仏教 (180 9版)
- 参考資料
- キーワード
-
- 慈母観音
- 子安観音
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 一般
- 質問者区分
- 県内図書館
- 登録番号
- 1000072921