レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2016/06/21
- 登録日時
- 2016/10/01 00:30
- 更新日時
- 2016/10/01 00:30
- 管理番号
- 6001017016
- 質問
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解決
外国と日本の就職活動時期の差異について知りたい。
- 回答
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以下の情報が見つかりました。
○インターネット情報
CiNii Articlesで「海外 就職活動」で検索した結果、次の論文が見つかりました。
魚崎典子「高等教育機関における外国人留学生のキャリア支援のあり方 : 日本の就職活動の特異性と留学生へのその周知方法をめぐって」『多文化社会と留学生交流 : 大阪大学国際教育交流センター研究論集』<18>p 11-21 http://hdl.handle.net/11094/50833(2016/8/2現在)
こちらの資料では、まず日本の就職活動はほかの国に比べ、「ガラパゴス就活」と呼ばれるような特異なものであると述べられており、その特徴の一つとして、就職活動の早期開始と長期化が挙げられています。
2014年1月から2月にかけて実施されたウェブアンケート調査の結果が紹介されていますが、就職活動の開始時期については、調査対象国の20カ国に限ると、外国では卒業後に就職活動をする国の方が多く、「日本のように最終学年次の前年度から就職活動を一斉に開始している国は皆無」という結果になったと記載されています。
また、なぜ外国では卒業後に就職活動を行う国が多いのかについては、「諸外国では大学を卒業することが日本に比べると困難なことが反映されていると考えられる。」と推測されています。
「卒業できるかどうか分からない時点から就職活動を始めることは、現実的ではな」く、また、「「卒業後に就職活動を開始する」という選択肢は、就職活動期間が長期に渡る日本では想像し難い」ので、「就職活動が短期間であるからこそ、「卒業後に就職活動を開始する」ことが可能だと言える。」と結論づけられています。
○図書
少し古い調査でも、日本と外国における就職活動の実態として、同じような傾向が示されているようです。
次の資料に以下のような記載がありました。
『日欧の大学と職業:高等教育と職業に関する12カ国比較調査結果 調査研究報告書』(日本労働研究機構 2001.3)p58
こちらの資料は日本と欧州11カ国を対象にして、1998年から1999年にかけて行われた郵送による調査を元にして、日本側の視点から書かれたものですが、欧州全体では、大学卒業を契機とした就職活動をする者は我が国とそれほど変わらないが、「卒業前からの就職活動は欧州諸国では4割程度で一般的とは言え」ず、卒業前から始める4カ国でも、「その開始時期は日本よりずっと遅く、また、就職先決定までにかかる期間は日本より短い。」と書かれています。
一方、なぜ日本では学生の間に就職活動を行うのかについても、59ページに就職活動の開始時期に関する統計結果があり、その中で、次の理由が指摘されていました。
「その理由は、一斉・一括の採用慣行にあると思う。」一括採用される学生の初任給の賃金格差は小さいため、「個々の学生の能力や就業する職務の違いは賃金にほとんど反映されない。」すなわち、どの学生を採用しても同一賃金であるので、「能力の高い学生を早く確保することが重要な採用戦略になる。」とあります。
他の理由を指摘する資料もありました。
『日本的雇用慣行:全体像構築の試み(MINERVA人文・社会科学叢書)』(野村正賽/著 ミネルヴァ書房 2007.8)p57-69
定期採用の始まった1895年からの経緯がかなり詳しく書かれている資料で、現在の採用慣行がかなり長い歴史を持つものであることが分かります。
P68では、今日にいたるまでなぜ在学中に就職活動を行う慣行を続いているのかについて書かれており、
・歴史的経緯により積み上げられた採用慣行があり、良い学生を採用したい会社も良い会社に入りたい学生もお互いにそれを中止することができないから
・何より決定的な理由として、会社が採用の際に最終年度の学業成績をあまり重視しておらず、それよりも人物を重視する傾向が続いていること
がその理由とされています。
こちらの2番目の理由についてより詳しく書かれたものとしては、
『キャリア形成・就職メカニズムの国際比較:日独米中の学校から職業への移行過程』(寺田盛紀/編著 晃洋書房 2004.5)p63-69
があります。
日本の採用慣行では、職業経験のない者を優先して採用しようとし、個別、具体的な職業・能力を重視しないが、それらの特徴は、長期雇用を前提として、企業内訓練を重視する傾向などと整合的であると書かれています。また、大学教育に対しては、基本的には深い職業知識の教育は期待しておらず、大学の入学者選抜難易度で表される「良い素材」の供給を求めている、と書かれています。
オンラインデータベースの日経テレコンでも、「就職活動」「就活」で検索し、いくつか関連する記事がヒットしました。
○日経テレコン
「就職転々、不安と期待、経団連、面接6月解禁決定――脱「新卒一括」、多様な採用を。」
『日本経済新聞』2015.11.21 朝刊3面
現在のような採用慣行になった経緯として、図書にあったものと同じ経緯が書かれており、
企業のフライングがあとを絶たないのは、大手企業の採用が新卒一括採用であるため、同時期に企業の採用活動が重なり、構造的に優秀な学生の獲得競争が激しくなるので、大手企業に入りたい学生の方も必死になるからであると書かれています。
「根は深い「早すぎ就活」――効果薄い選考日程見直し(中外時評)」『日本経済新聞』2015.11.15 朝刊12面
こちらでも、就活日程のルールの沿革について書かれています。
1960年代前半では大学3年の2~3月に就職先が決まることが珍しくなく、石油ショックから10年ほど経ったあたりから早期化に歯止めがかからなくなったとあります。
「就活、欧州も悩む、インターン使い捨て、国境超え既卒と競合。」『日本経済新聞』2015.12.7 朝刊21面
欧州には日本のような企業訪問や面接時期の取り決めなどはほとんど存在せず、学生にとっては通年で自分の都合に合わせて取り組める一方、会社説明会といった企業側からのお膳立ては少なく、学生が能動的に企業の求人動向を探る必要があると書かれており、最近でもやはり欧州では卒業後に就職活動が行われているようです。
ただ、若年失業率は欧州の方が概ね高く、新卒一括採用の慣行のある日本や韓国では10%未満という2013年時点の調査結果からすると、就労経験や実務技能を問わず、学生の「潜在能力」に期待して企業内で人材育成する新卒一括採用は、学生にとってメリットもあるとあります。
すなわち、こちらの記事によると、卒業前に新卒一括採用を行う日本では「潜在能力」に期待をしており、卒業後に各自就職活動をする必要のある欧州では、就労経験や実務技能を問う傾向があり、そのため若年者の失業率が高くなっているということが分かります。
「イチからわかる 日本独特の就職活動、歴史と背景は」(親子スクール ニュース イチから)『日本経済新聞 プラスワン』2015.7.14
現在のような採用の形になった経緯について、こちらも図書と同じ内容がわかりやすく書かれています。
明治時代に、三菱や三井といった大きな会社が大学の卒業生を対象とした採用を始め、大学増加に伴って卒業生が増えたこともあり選考試験が始まったが、優秀な人を確保しようと在学中に声をかけることも多くなったので、1928年に「選考試験は卒業後にする」と取り決めた。その後、経済復興により獲得競争が激しくなったため就職協定が決められたが、守られず廃止になったので、経団連が「内定開始は10月とする」と決めて、それがずっと続いてきたが、2011年に大学側の希望で選考の開始日も加わった、とあります。
また、新卒一括採用は日本独特のもので、米国では卒業間近や卒業後に希望する会社に連絡をとって書類を送るケースが多く、大学の専攻に合わせて応募する、とあります。
こちらの表記から、米国では、大学での教育と仕事がより密接に直結しており、就職してから育成する日本と違った傾向であることが分かります。
[事例作成日:2016年6月21日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 労働経済.労働問題 (366 8版)
- 教育課程.学習指導.教科別教育 (375 8版)
- 参考資料
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- 日欧の大学と職業 日本労働研究機構 2001.3 (58-59)
- 日本的雇用慣行 野村/正實∥著 ミネルヴァ書房 2007.8 (57-69)
- キャリア形成・就職メカニズムの国際比較 寺田/盛紀∥編著 晃洋書房 2004.5 ( 63-69)
- http://hdl.handle.net/11094/50833 (高等教育機関における外国人留学生のキャリア支援のあり方 : 日本の就職活動の特異性と留学生へのその周知方法をめぐって(2016/06/19現在))
- キーワード
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- 就職活動(シュウショクカツドウ)
- 高等教育(コウトウキョウイク)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- ビジネス,その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000197582