レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 登録日時
- 2008/10/25 02:11
- 更新日時
- 2008/10/25 10:24
- 管理番号
- B2008F0004
- 質問
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解決
アリストテレスの三段論法が自然数間の非同一性証明や幾何学の証明に不十分な事の証明を掲載している資料はないでしょうか。
- 回答
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ご照会の事項について、NDL-OPAC( http://opac.ndl.go.jp/index.html )の「一般資料の検索/申込み」を、件名「数学 歴史」、「論理学 歴史」やタイトル「アリストテレス」などで検索し、ヒットした図書資料を調査しました。しかし、お尋ねの「アリストテレスの三段論法が自然数間の非同一性証明や幾何学の証明に不十分な事」の証明を掲載している資料は見当たりませんでした。
図書以外では、NDL-OPACの雑誌記事索引及び当館で契約している科学技術文献データベースJDreamIIを「三段論法 アリストテレス」などのキーワードで検索し、ヒットした雑誌記事・論文を調べましたが、やはりお尋ねの事項を掲載している文献は見当たりませんでした。
しかし、アリストテレスの三段論法が不完全であることや、それゆえに論理学以外の分野にあてはめることができないことに言及した資料は確認できましたので参考までにご紹介します。
(1)『記号論理学の基礎.最新改訂版』(ヒルベルト,アッケルマン著 石本新,竹尾治一郎訳 1974 【MA41-51】)
「第Ⅲ章 狭い意味の述語計算」の「これまでの計算では不十分なこと」(pp.89-92)で、アリストテレスの形式論理学はかなり簡単な論理的関係を扱う場合にもすでに不十分であることが述べられています。p.90には「少し古い論理学の教科書には、なるほど、伝統的推論図式の数学における応用の例や、また沢山のそういった複雑な問題の例が十分にあげてはある。しかしなんらかの重要な数学の定理の証明が詳細に分析されているということは決してない」という記述があります。
(2)『アリストテレス』(今道友信著 講談社 2004.5 【HC16-H2】)
pp.202-203に「アリストテレス推論の欠陥」と題された項があり、冒頭に「ただ、アリストテレスが三段論法すなわち推論の理論をこれほど明瞭に、徹底的に説明しているということによって、彼がこの方面のすべてにおいて完全に成功していると考えるのは行き過ぎである」と書かれています。続いて、三段論法がどのように不完全であるかが解説されています。
(3)『アリストテレス : その思想の成長と構造』(G.E.R.ロイド著 川田殖訳 みすず書房 1998.6 【HC16-G5】)
pp.104-105にアリストテレスの三段論法の誤りを4つ挙げて説明しています。その4つをまとめると以下のようになります。
(一)すべての思考の形式が結局は三段論法の形式に帰着すると主張している
(二)いわゆる三段論法の第四格に注目しなかった
(※)第四格については、大前提命題では中名辞が述語となり、小前提では他のものがそれの述語となる格と記されています。
(三)AEIOといった四種の命題の型をめぐる論究にはきわめて詳細であるけれども、「より大きい」とか「と等しい」といった漸次的移行の関係を表わす命題など、十分に論じていないか、あるいは全く言及していない他の型の命題もまた存在する
(四)名辞を意味する記号を採用したが、命題を意味する記号を採用することの有効性には思い及ばなかった
(4)『アリストテレス入門』(山口義久著 筑摩書房 2001.7 【HC16-G11】)
pp.58-60「アリストテレス論理学の位置づけ」でアリストテレスの論理学(三段論法)は論理学の一部にすぎず、この論理学では証明できない推論があることが解説されています。
(5)『カッツ数学の歴史』(ヴィクター・J.カッツ著 上野健爾,三浦伸夫監訳 中根美知代,高橋秀裕,林知宏,大谷卓史,佐藤賢一,東慎一郎,中澤聡訳 共立出版 2005.6 【MA25-H48】)
pp.64-69「アリストテレス」では、数学史に重要な影響を与えた論理学(主に三段論法)や数と大きさの区別などのアリストテレスの業績について解説されています。このうちp.66には、「アリストテレスが推論を構築する素材として三段論法の使用を強調したにもかかわらず,一見してすぐわかるようにギリシア数学者は三段論法を決して用いなかった.数学者たちは別の形式の論理を用いており、現代に至るまでほとんどの数学者たちも同様である」との記述があります。
また、雑誌記事索引を検索したところ、アリストテレスの三段論法に関する次のような記事も確認しました。
(6)「アリストテレスの様相三段論法に関する批判と弁明をめぐって」
杉原丈夫 『西洋古典学研究』(通号 14) 1966.05 pp.109-117 【Z22-319】
アリストテレスの様相三段論法に対するルカシェヴィツの批判と、マッコール、リシャーらのそれに対する弁明を検討し、アリストテレス解釈の中正な立場を述べた論文です。「様相三段論法は不幸にしていくつかの難点を含んでいる」、「アリストテレスの様相三段論法はそれ自体の内部に不整合を含んでおり,それを処理しない限り矛盾のない公理体系は構成できない.」などの記述があります。
NDL-OPACおよびJDreamIIの最終検索日は、2008年1月17日です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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典拠:『ロジカル・ディレンマ』ジョン・W.ドーソンJr著(新曜社)
NACSIS Webcat
- NDC
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- 論理学.弁証法.方法論 (116 9版)
- 参考資料
- キーワード
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- 記号論理学
- アリストテレス
- 三段論法
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- NDC副出:410
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 公共図書館
- 登録番号
- 1000048398