レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2015/05/29
- 登録日時
- 2015/08/21 18:27
- 更新日時
- 2016/02/15 11:20
- 管理番号
- 長野市立長野-15-011
- 質問
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解決
「こむら返り」を「からす返り」とも言うが、なぜそう言うのか知りたい。
- 回答
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こむらがえりは「からすなえ、からすなえり、からすなめり」などと昔から言われていたようです。
「からすがえり」はその方言のようです。
「からすなえり」の語源説として、
①空筋綯(カラスナヘリ) 〔言元梯〕
②カラスはカラスヂ(茎筋)の略で、カラ(茎)は腓(こむら)の意。ナヘはナヘ(蹇)の義、リは添えた語 〔大言海〕
がありました。
また、
「筋肉が急にけいれんを起して動かすことができなくなること」という意味で、
身にあっては「からすなえ」と読み、足にあっては「こぶらかえり」と読む、
と痙攣を起こした場所によって読み方が違うという文献や、
「烏の歩き方に似ている手足の痙攣をカラスオレ・カラスガエリという」
という文献も見られました。
- 回答プロセス
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インターネット「こむら返り からす」で検索。
YAHOO!知恵袋 「こむら返りのことを何故カラス曲がりというのですか」の質問を参照。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13114373143 (最終確認2016年1月10日)
カラス曲がりは長崎県五島列島の方言との記述あり。
参考資料に『日本国語大辞典』とあったので、当たってみる。
『日本国語大辞典第ニ版』第5巻 p1072に「こむらがえり」の項があったが、からす返りの言葉は出てこない。
『日本国語大辞典第ニ版』第3巻 p1075に「からすがえり」の項あり。新潟県東蒲原郡、中頸城郡、岐阜県飛騨の方言とあった。
方言ということで、『全国方言辞典』も参照。
p206に「からすおれ」の記述あり。「からすがえり」も載っており、愛知県北設楽郡、新潟の方言となっていた。
『日本方言大辞典 上巻』p623に「からすがえり」の項あり。
《からまげーり》長野県佐久など、言い方が違う方言がたくさん掲載されている。
【追記:2016年2月14日】
なぜ「こむら」が「からす」になるのか、分からずじまいだったので更に追加調査。
前回調べた『日本国語大辞典第ニ版』第3巻 p1075「からすがえり」の項を確認すると「「からすなめり(転筋)」に同じ。」とある。
p1078「からすなめり」の項には
「脚のふくらはぎの筋肉が突然けいれんをおこすこと。こむらがえり。からすがえり。からすなえ。からすなえり。
*十巻本和名抄(934頃)二「転筋 脚気論云転筋<俗云 古无良加倍利 一云加良須奈米理>由脚弱所生也」
*観智院本名義抄(1241)「転筋 コムラガヘリ カラスナメリ」」
とある。〔辞書〕に、和名・色葉・名義・言海とあり。
現在は様々な地域で方言として残っているが、昔からからすなめりとも言っていたようである。
p1077-1078「からすなえり」の項には
「語源説 (1)カラスナヘリ(空筋綯)の義〔言元梯〕。
(2)カラスはカラスヂ(茎筋)の略で、カラ(茎)は腓(こむら)の意。ナヘはナヘ(蹇)の義、リは添えた語〔大言海〕。」
とあり。
『言元梯』
早稲田大学図書館 古典籍総合データベース
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_01209/index.html <最終確認:2016年2月14日>
30ページ目に「轉筋 カラスナヘリ 空筋綯 カラスナヘリ」とあり。
『大言海』
『新編大言海』が当館に所蔵しているので確認。
p460に「からすなえり(轉筋)」
「〔からすハ、莖(カラ)(腓(コムラ))筋の略、(檝子(カヂコ)、かこ。汝達(ナンヂタチ)、なんたち)なへハ、蹇(ナヘ)、りハ、添ヘタル語、からすなめりトモ云フハ、へ、め、音通ナリ〕こむらがへりニ同ジ。又、からすなめり。今、博多ニテ、からすなへ。信濃ニテ、からすがへり。長崎ニテ、からすまがり。」
などとあり。(一部抜粋)
また、『日本国語大辞典第ニ版』「からすなめり」の辞書の項にに記載されていた他の典拠も確認した。
『色葉字類抄』(外題:伊呂波字類鈔)
早稲田大学図書館 古典籍総合データベース
http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ho02/ho02_00596/index.html <最終確認:2016年2月14日>
1巻 70ページ目「轉筋 テムキム カラスナメリ又コムラカエリ」とあり。
『和名類聚抄』
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2544217 <最終確認:2016年2月14日>
和名類聚抄 20巻. [2] 22コマ目に記載あり。
当館に所蔵の資料だと、『諸本集成倭名類聚抄 本文篇』p106、584に確認。
(「箋注倭名類聚抄 巻二 六十一」「元和古活字那波道圓本 和名巻三 二十一」)
『類聚名義抄』
国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2586898 <最終確認:2016年2月14日>
類聚名義抄. [9] 35コマ目に「轉筋 コムラカヘリ 一云カラスナメリ」記載あり。
古い言葉のようなので、古語辞典なども調べる。
『角川古語大辞典 第1巻』p897に「からすなへ」の項あり。
『時代別国語大辞典 室町時代編 2』p370に「からすなへ」の項あり。
「筋肉が急にけいれんを起して、動かすことができなくなること。
「折枝トハ老者ナドハ烏ナエナドノヤウニ手ノ指ガ屈デノビズ」(孟子聴塵一)
「転筋 身ニアツテハカラスナヘトヨミ、足ニアツテハ、コブラカヘリトヨム。コブラカヘリ」(病論俗解集)」
などとあり。(一部抜粋)
『病論俗解集』
京都大学電子図書館 京都大学附属図書館所蔵 富士川文庫 『病論俗解集』
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/f121/image/1/f121s0037.html <最終確認:2016年2月14日>
37枚目に記載あり。
『日本民俗語大辞典』p418「からす」の項に
「烏の歩き方に似ている手足の痙攣をカラスオレ・カラスガエリといい」との記載あり。
- 事前調査事項
- NDC
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- 辞典 (813)
- 方言.訛語 (818)
- 参考資料
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- 『日本国語大辞典第ニ版』第3巻 日本国語大辞典第ニ版編集委員会、小学館国語辞典編集部/編 小学館 2001.03 <R813ニ3> , ISBN 4-09-521003-6 (p1075,1077,1078)
- 『全国方言辞典』 東條 操/編 東京堂出版 1951.12 <R818ト> , ISBN 4-490-10002-7 (p206)
- 『日本方言大辞典 上巻』尚学図書/編集 小学館 1989.03 <R818ニ1> (p623)
- 『新編大言海』大槻 文彦/著 冨山房 1986.04 <R813オ> , ISBN 4-572-00062-X (p460)
- 『諸本集成倭名類聚抄 本文篇』源 順/著 臨川書店 1981 <R813シ> , ISBN 4-653-00507-9 (p106、584)
- 『角川古語大辞典 第1巻』中村 幸彦/編 角川書店 <R813カ1> , ISBN 4-04-011910-X (p897)
- 『時代別国語大辞典 室町時代編 2』室町時代語辞典編修委員会/編 三省堂 1989.07 <R813シ2> , ISBN 4-385-13297-6 (p370)
- 『日本民俗語大辞典』石上 堅/著 桜楓社 1983.04 <R380イ> , ISBN 4-273-00981-1 (p418)
- キーワード
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- 方言
- 古語
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000178794