レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2015年07月21日
- 登録日時
- 2015/07/21 21:50
- 更新日時
- 2016/08/06 09:38
- 管理番号
- 広県図20150004
- 質問
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解決
広島県には,生まれた牛が牛車を牽く車牛(くるまうし)にならないように祈願する風習があるらしい。そのことについて分かる資料が見たい。
- 回答
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『広島県史 民俗編』に「「大津の車牛に行きませんように」ととなえ、土公神に抱え参りする風習」があることが記載されていた。(参考資料1)
『広島県文化財ニュース』第73号にも同様の記述があった。(参考資料2)
「土公神」が「ろっくうさん」や「(お)どっくさん」などと呼ばれる,かまどや火の神様であることが,『広島県大百科事典 下』(参考資料3),『広島県民俗資料 8 民間信仰』(参考資料4),『上下町史 民俗編』(参考資料5)に記載されていた。
また,牛に関する信仰として,大山(仙)信仰について『広島県史 民俗編』,『上下町史 民俗編』,『三次市史4 民俗・民俗資料編』(参考資料6),『青河町の牛』(参考資料7),『広島県民俗資料 6 伝説 口承文芸 3』(参考資料8)に記載されていた。
- 回答プロセス
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1 車牛について調査
(1) 広島県の民俗について調査するための基本資料である『広島県民俗資料集成・総さく引』(参考資料9)の「語彙さく引」で調べたが,「車牛」はなかった。
(2) 『広島県史 索引』を調べると,「民俗編索引」に「車牛」があった。該当箇所(p.115)には,「牛の生産に当たって「大津の車牛に行きませんように」ととなえ,土公神に抱え参りする風習のある」ことが記載されていた。
(3) OPACで当館所蔵雑誌を対象に,「牛」をキーワードにして検索したところ,『広島民俗』第24号(1985.8)の「奥備後牛飼いの民俗(広瀬繁登)」や『地方史研究』第60巻6号(2010.12)の「中国山地における役牛の売買流通過程(板垣貴志)」などがヒットしたが,「車牛」に関する記載はなかった。掲載の参考文献を調べると,『広島県文化財ニュース』第73号(1977.5)の「三次・十日市(石田寛)」に関係の記述があった。
2 「土公神」について調査
(1) 『広島県大百科事典 上巻』の巻末五十音順索引に「土公神」の項目があり,下巻のp.169に記載されていた。
(2) 『広島県民俗資料集成・総さく引』の「語彙さく引」を調べると,「土公神」があった。また「ろっくうをもみよ」とも記載されていた。該当箇所を確認すると,『8 民間信仰』に記載があることが分かった。
3 牛に関する信仰について調査
(1) 『広島県史 索引』にあった「車牛」は『広島県史 民俗編』の「4 牛」の「(一)牛の役割」の中の「運搬」にあったが,別に「(三)牛と信仰」があり,「大山信仰」「牛供養」「万人講」「万人講の運営」「牛荒神」「土公神」「牛舎の神礼」の記載があった。このうちの「土公神」には,仔牛が生まれると「大津の車牛に行きませぬように」と参ることが書かれていた。
(2) 『広島県史 民俗編』に上下町国留の大仙社の記載があったので,『上下町史 民俗編』を調べると,「第九章 神社祭祀と民間信仰」「第一節 神社祭祀」に「大仙神社」が,同「第二節 民間信仰」「七 家の神」の中に,「ロックウさん」が記載されていた。
(3) 『広島県文化財ニュース』第73号「三次・十日市」に三次の牛に関する記述があったことから,『三次市史 4 民俗・民俗資料編』を調べると,「大仙さん」と呼ばれる神様が牛馬の神であることなどが記載されていた。また,三次市青河町の牛の民俗について書かれた『青河町の牛』にも,関連の記述があった。
(4) 大山(仙)信仰について,改めて『広島県民俗資料集成・総さく引』で「大山信仰」を調べると,『6 伝説 口承文芸 3』に記載があった。
- 事前調査事項
- NDC
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- 風俗習慣.民俗学.民族学 (380 9版)
- 参考資料
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- 1 『広島県史 民俗編』広島県/編,広島県,1978(p.115「牛の生産に当たって「大津の車牛に行きませんように」ととなえ、土公神に抱え参りする風習があることからも、牛にとって苛酷な役利用をさせまいとする愛情がみられる。」と記載あり。牛に関わる信仰について p.131 土公神では「仔牛が生れて三日めになると「大津の車牛にいきませぬように」といい、健全な成長を願って、抱え込んで土公神に参る。」と記載あり。p.126-132 牛と信仰 p.126-128 大山信仰について記載あり。p.1246 「[甲奴郡上下町]国留の大仙社は(略)幕末期には、牛馬飼育農民の間に霊験あらたかといわれた。その信仰範囲は、国留・深江・本郷・(略)木野山・上下の近在一八か村を数えている。」と記載あり。)
- 2 『広島県文化財ニュース』第73号(1977年5月号),広島県文化財協会/編,広島県文化財協会,1977年5月(p.16-18 三次・十日市 「農家では牛は生まれおちてすぐ歩くが、最初によろよろっと歩いておどくうさまへいって、大津の東牛にならぬようにと拝むという。(略)そのよなよなした足取りは、恰かも拝むようにみえるのであろう。」と記載あり。)
- 3 『広島県大百科事典 下』中国新聞社/編集,中国新聞社,1982(P.169 土公神 どくうしん 「ろっくうさんの名前で広く知られているかまど神で、台所柱や内庭の大釜をすえつけた所にあるろっくう柱の上に祭る。」と記載あり。)
- 4 『広島県民俗資料 8 民間信仰』村岡浅夫/編,ひろしま・みんぞくの会,1976(p.71-72 土公神「岡山民俗事典」「(お)どっくさん,(お)どくうさん,(お)ろっくうさんなどいう。竈,いろり,くど,火伏せなどの神さん。」と記載あり。)
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5 『上下町史 民俗編』上下町史編纂委員会,上下町教育委員会/編,上下町,1991(p.701-702 ロックウさん 「かまどの神、火の神としてロックウさんが多くの家で祀られている。(略)階見などでは、生まれた子牛は抱いてロックウさんに参る。」と記載あり。)
(牛に関する信仰について p.652-654 大仙神社 「牛馬の神としての伯耆(鳥取県)の大山に対する信仰が、大仙神社の名のもとに上下町に広がっているのを見ることができる。」と記載あり。) - 6 『三次市史 4 民俗・民俗資料編』三次市史編集委員会/編集,2004(p.379 八雲神社 「祭行事」の項に「牛の子が生まれると、竹筒持って行く。」と記載あり。p.391 大仙さん「功徳・縁起(霊験)」の項に「牛馬の神である。」と記載あり。p.472-532 聞き取り、明治・大正の歴史と民俗 p.516 大仙さん 「牛の神で、牛を飼っている家では牛小屋の入口にお札を貼って祀っていた」と記載あり。)
- 7 『青河町の牛:主に農耕牛について』青河ふるさと探訪の会,青河自治振興会/編集,青河ふるさと探訪の会,2007(p.11 牛の信仰について 「大山信仰という。鳥取県の大山神社は牛の守護神。」と記載あり。)
- 8 『広島県民俗資料 6 伝説 口承文芸 3』村岡浅夫/編,ひろしま・みんぞくの会,1973(p.142 大山(大仙)信仰 「伯耆大山(仙)は中国とくに東中国の霊山信仰の中心である。(略)備北から備南に影響したのは近世中末期宝暦年間(1751~1763)大神山神社の春秋の大祭に牛馬市を併催してからである。」と記載あり。)
- 9 『広島県民俗資料集成・総さく引』ひろしま・みんぞくの会/編,1977
- キーワード
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- 車牛
- 土公神
- 牛
- 大山(仙)信仰
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000177552