今回ご依頼の用語について、調査した医学系辞典類にそのままの形での掲載がございませんでしたので、インターネットを含む情報や資料から、当方の判断により特定した用語で調査いたしました。
1.PC:肺炎とは
①『最新医学略語辞典 第5版』(橋本信也/監修 中央法規出版 2010.5)p594
「PCP」のフルスペルとして「Pneumocystis carini pneumonia」とあり、和訳は「ニューモシスチス・カリニ肺炎」となっています。
②『早引き看護・医学略語辞典 第2版』(唐澤由美子/監修 ナツメ社 2009.2)p213
「PCP」の欧文フルスペルとして「Pneumocystis jiroveci pneumonia」とあり、和訳及び用語の簡略な解説として「ニューモシスチス・ジロベシ肺炎(カリニ肺炎の新しい呼び名)」と書かれています。
③『新読み方つき医学・看護略語辞典』(南江堂 2007.4) p264
「PCP」の原語フルスペルとして「Pneumocystis carinii pneumonia」、和訳として「ニューモシスチスカリニ肺炎」とあります。
上記の略語辞典、及びインターネット情報を調べました結果、「PC肺炎」は「PCP」と判断致しました。上記資料のフルスペル表記のすべてに共通している「pneumonia」は「肺炎」の意味です。(『ライトハウス英和辞典 第6版』(竹林滋/編 研究社 2012.10)p1068)
ただ、「PCP」の和訳やフルスペルが情報源によって異なります。
つきましては、2009年以降に出版された当館所蔵の医学系辞典類から、「ニューモシスチス肺炎」の項目を一部紹介させていただきます。
④『看護学大辞典 第6版』(メヂカルフレンド社 2013.1)p1661
「ニューモシスチス肺炎」
付されている英語「Pneumocystis jirovecii pneumonia」
「ニューモシスチス・イロベチ Pneumocystis jirovecii による肺炎。以前はニューモシスチス・カリニ Pneumocystis carinii と呼ばれていたため,カリニ肺炎という名称が一般に使用されていた。病原体は健常人においても肺内に潜在的に存在しているが,肺炎は起こさない。しかし,エイズや白血病,悪性リンパ腫,膠原病等の基礎疾患や臓器移植後など宿主の免疫能の低下に伴って増殖し,肺炎を起こす。」
⑤『医学書院医学大辞典 第2版』(伊藤正男/総編集 医学書院 2009.2)p2117
「ニューモシスチス肺炎」
欧文名「Pneumocystis jirovecii pneumonia」
同義語「ニューモシスチス・カリニ肺炎 Pneumocystis carinii pneumonia,カリニ肺炎」
「ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)によって生ずる肺炎。P.jiroveciiは従来原虫に分類されてきたが,遺伝子解析の結果,現在では真菌に類縁の微生物と考えられている。幼少期に感染し、以後潜伏感染としてとどまり,宿主の細胞性免疫が高度に障害された場合に活性化して発症する場合と再感染によって発症する場合とがある。」
なお、⑥『看護大事典 第2版』(和田攻/総編集 医学書院 2010.3)p2241には、「ニューモシスチス肺炎」の項目名欧文は「Pneumocystis pneumonia」、同義語として「カリニ肺炎,間質性形質細胞性肺炎」と書かれています。
ご参考までに、他名称で説明している辞典類もご紹介します。
⑦『家庭医学大全科 BIG DOCTOR 6訂版』(高久史麿/総合監修 法研 2010.10) p2534
「ニューモシスチス・カリニ肺炎」
「ニューモシスチス・カリニと呼ばれる微生物の感染によって起こる肺炎です。ニューモシスチス・カリニの生物学的分類ははっきりせず、真菌(カビ)に近いとする説と原虫に近いという説があります。この微生物はヒトを含めたさまざまな動物に通常感染していますが、免疫力が正常な個体ではその増殖を阻止できるので、病気を起こすことはありません。ところが、エイズなどの免疫不全状態に陥るとニューモシスチス・カリニの増殖を止められなくなり、病気が起こります。」
(同資料、p1015-1016に、「ニューモシスチス肺炎 Pneumocystis pneumonia」についても書かれています。
「ニューモシスチスは真菌の一種で、ヒトの細胞性免疫が低下状態になった時に、両側性びまん性間質性肺炎として発症します。とくに、抗がん薬治療や副腎皮質ステロイド療法を受けている患者さん、自己免疫疾患、臓器移植、エイズ、先天性免疫不全の患者さんに合併して発症します。」)
⑧『標準・傷病名事典 Ver.2.0』(寺島裕夫/編著 医学通信社 2009.12)p36
「HIV カリニ肺炎」
付されている英文「HIV disease resulting in Pneumocystis carinii pneumonia」
別称「ニューモシスティス肺炎」
「病原体はニューモシスティス・イロベジー(Pneumocystis jiroveci),かつてはニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)と呼ばれた真菌である。幼少期にほとんどのヒトがP.jiroveciの既感染となることから,従来より幼少時に感染し体内に潜伏しているP.jiroveciが免疫不全の進行により再燃発症すると考えられていた。しかし現在は,免疫不全の発症後,本病原体が新規再感染することにより肺炎を発症する可能性が高いとの知見もある。」とあります。また、「「ニューモシスティス肺炎」が正しい呼称で,学問的には「カリニ肺炎」は今や死語となっているが,今だにICD-10では採用されている。」ともあります。
※「ICD-10」は①の資料p379に、「ICD-10は,疾病および関連保健問題の国際統計分類第10回修正(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, Tenth Revision)の略称」と書かれています。
2.呼吸状態の低下 SATとは
インターネットで調べました結果、下記の情報がありました。
『レジデント』2008年4月号(創刊号)の
「デキレジ~聖路加チーフレジデントがあなたをデキるレジデントにします」という連載の「第1回 Satが低下してます!」が、サンプルとして公開されておりました。
(
http://www.igaku.co.jp/pdf/resident0804-2.pdf)(2013/5/30現在)2013/5/25現在)
この記事では、「酸素飽和度(Sat)低下をみたらどうする?」という記載があります。
よって、「呼吸状態の低下 SAT」の「SAT」は、「酸素飽和度」と判断し、調査させていただきました。
④『看護学大辞典 第6版』(メヂカルフレンド社 2013.1)[再掲]
p859「酸素飽和度」は「動脈血酸素飽和度」と示されております。
p1579「動脈血酸素飽和度」の項目の説明を一部引用します。
「1gのHb(ヘモグロビン)は1.34mlの酸素と結合する。正常では100mlの血液は16gのHbを含んでいるのでヒトの血液の最大酸素容量は20~21vol%である。動脈血酸素飽和度というのは動脈血の酸素量を最大溶存酸素量で割ったものをいい,動脈血酸素飽和度(Sao2)=溶存酸素量/最大溶存酸素量×100(%)で求められる。」
※「vol%」は③の資料p371によると、和訳は「容量パーセント」です。
加えて、「呼吸状態の低下」ということに関して資料を探しました。
⑨『臨床検査項辞典』(桜林郁之介/監修 医歯薬出版 2003.5)p399
「酸素飽和度」の別名として「So2,Sao2,O2 sat」とあります。
説明部分に「酸素飽和度(So2)は血液ガス分析により算出される一つの指標である.」とあります。
「臨床的意義」に「So2の低下は,体内における酸素不足を示す.」とあります。
⑩『今日の臨床検査 2011-2012』(櫻林郁之介/監修 南江堂 2011.4)p247
「21.動脈血ガス分析と酸塩基平衡」の項目における「検査解説」の「21-A.動脈血ガス分析」に「3.酸素飽和度(Sao2)」について書かれています。説明を一部引用します。
「酸素飽和度とは動脈血中のHbの酸素結合部位が実際に酸素で占められる割合(%)をいう.」
「判読のポイント」として「90%(Pao2 約60Torrに相当)」以下は呼吸不全.」とあります。
※「Pao2」は同資料p246によると「動脈血酸素分圧」。
※「Torr」は①の資料p780によると、和訳は「トール」解説に「圧力の単位の記号。海面のレベルで水銀柱を1mmの高さまで持ち上げる圧力。Torr=mmHg。」とあります。
⑪『臨床検査データブック 2013-2014』(高久史麿/監修 医学書院 2013.2)p225
「動脈血O2飽和度〔Sao2〕≪観血的動脈血O2飽和度≫,経皮的動脈血O2飽和度〔Spo2〕≪非観血的動脈血O2飽和度≫」の項目中、「Decision Level」に「Sao2低下」について書かれた部分があります。一部引用します。
「[高頻度]95%以下は低酸素血症.90%未満は呼吸不全が疑われる.Sao2の低下は,ほとんどの場合,Pao2の低下と同じ原因で起こる.Sao2とPao2の関係は酸素解離曲線で示される.[可能性]CO中毒,メトヘモグロビン血症,酸素解離曲線の右方偏位」とあります。
※同資料、凡例を見ますと、「Decision Level」は「異常値のレベルごとに考えられる疾患名とその対策を記載した」ものとのことです。 その中で「[高頻度]」は「高頻度にみられる疾患」、「[可能性]」は「可能性が否定できない疾患」とのことです。