レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2012/11/06
- 登録日時
- 2013/12/31 18:36
- 更新日時
- 2014/04/09 17:59
- 管理番号
- OSPR12100087
- 質問
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・「大工と鬼六」「ルンペルシュティルツヒェン」「トム・ティット・トット」のように
『人間が鬼や悪魔的な小人に頼みごとをし、その代償に命や子供、結婚を要求される』『しかし、鬼や小人の名前を当てることで、相手は負けを認めて逃げ出し、災難に合わずに済む』というお話があります。
1)上にあげた3つの例以外に、類似した内容の別の物語を読んでみたい。
(上三つは、インターネットで検索して内容を知ったので、
何か思い入れのある本があるというわけではないです。)
世界のどの地域のおはなしでも構いません。創作でも面白いものなら読んでみたい。
2)『名前を当てることで、鬼や小人は強制する力を失って逃げ出す』
(そして鬼や小人も「自分の名前を当ててみろ」と要求する)
というモチーフが興味深いので、この部分に言及した児童文学の研究書があるなら読んでみたい。
できれば大阪府内の図書館で借りられるものがよいですが、無理なら構いません。
現在わかっていることは
『類似している話でタイトルをはっきり確認できたのは、先にあげた3つだけ』
『魔力を持つものは名前を知られると、その魔力を失うとされていた』
ということのみです。
参照したHPは
『Wikipwdia-ルンペルシュティルツヒェン』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%92%E3%82%A7%E3%83%B3
『お話歳時記-ルンペルシュティルツヒェン』
http://www.pleasuremind.jp/COLUMN/COLUM071.html
- 回答
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1:類話について
『世界の民話 25:解説編』に掲載の「索引Ⅰ アールネ=トムソン『昔話の型』による索引」、「索引Ⅴ 日本の話形名またはモティーフ名による索引」によると以下の類話が紹介されていました。
・「索引Ⅰ アールネ=トムソン『昔話の型』による索引」
AT500 援助者の名前 [類話]イギリス3番 トム・チート・トート、北欧51番 トリレウィプ、[グリム]KHM55番 がたがたの竹馬小僧
*(「がたがたの竹馬小僧」は「ルンペルシュティルッヒェン」です。(『小人、怪物、大男(グリム・コレクション 4)』(ヤーコプ・グリム/著 パロル舎 2001.9)84pより)
・「索引Ⅴ 日本の話形名またはモティーフ名による索引」
大工と鬼六[類話]イギリス3番 トム・チート・トート、ドイツ・スイス23番 トゥンダ、ロートリンゲン36番 アントニウス・ホーレクニッペル
すでにご存知以外のものが収録されているものは、以下のとおりです。
・「トリレウィプ」(『世界の民話 3:北欧』(小沢俊夫/編 ぎょうせい 1979)収録)
・「トゥンダ」(『世界の民話 1:ドイツ・スイス』(小沢俊夫/編 ぎょうせい 1977)収録)
・「アントニウス・ホーレクニッペル」(『世界の民話 14:ロートリンゲン』(小沢俊夫/編 ぎょうせい 1979)収録)
『グリム童話を読む事典』(高木昌史/著 三交社 2002.2)では、「ルンペルシュティルツヒェン」の解説(85-87p)の中で、「グリム以前に、フランスのマリー-ジャンヌ・レリティエ・ド・ヴィランドンの妖精物語『リクダン・リクドンの物語』(1705年)がある」という注釈と類話紹介で次の3作品が挙げられています。
「リカベール・リカドン」(『フランス民話集』新倉朗子/編訳 岩波文庫 1993に収録)
「悪魔の名前」(『エスピノーサ スペイン民話集』三原幸久/編訳 岩波文庫 1989に収録)
「トム・ティット・トット」(『イギリス民話集』河野一郎/編訳 岩波文庫 1991に収録)
また、p383~の類話対応表によると、「ルンペルシュティルツヒェン」のKHM番号55番に対応しているのは
『フランス民話の世界』(樋口淳・樋口仁枝/編訳 白水社 1989)(Ⅱ-12)「ロピケ」
ヨーロッパの昔話との対応表では前述の「トリレウィプ」(北欧)、「トゥンダ」(オーストリア)、「アントニウス・ホーレクニッペル」(ロートリンゲン)、「トム・チート・トート」(イギリス他)、「大工と鬼六」(日本)です。
また、『ガイドブック世界の民話』の「ルンペルシュティルツヒェン」(84-86p)に「この話型は、ドイツ、スカンジナビアを中心にヨーロッパで広く語られていますが、発端の類似から、「三人の糸紡ぎ女」としばしば混同されています。小人の名は、トム・ティット・トット(英)、チィテリリュリ(スウェーデン)、フリーメル、フルムペンシュティール(独)など意味不明の長い名、すっからかん(ラトビア)、土曜日(ルーマニア)など変わった名があります。なお、名前を当てるというモチーフは文学作品にもしばしば使われていますが、なかでもエリナ・ファージョンの『銀のシギ」にはイギリスの民話「トム・ティット・トット」の話がそっくり使われています。」と記載され、小人の名を『世界の児童文学登場人物索引:アンソロジーと民話・昔話集篇』(DBジャパン/編集 DBジャパン 2005.6)で調べてみましたが、上述以外のおはなしは見つかりませんでした。
『ガイドブック世界の民話』で紹介されている『銀のシギ』の「訳者あとがき」(279-291p)にもイギリスの昔話「トム・ティット・トット」を題材に使っていると紹介されています。
「ルンペルシュティルツヒェン」を題材にした物語として、次のような作品もあります。
『六つのルンペルシュティルツキン物語(Sogen bookland)』(ヴィヴィアン・ヴァンデ・ヴェルデ/著 東京創元社 2005.2)
『日本昔話ハンドブック』(稲田浩二/編 三省堂 2001.7)の「大工と鬼六」の〔背景と解説〕に「大工と鬼六」の原話となったとされる北欧の伝説は、聖人が教会を建てようとしているとトロルが「自分の名前を言い当てるか、目玉と心臓をよこすか」の条件で教会を建てようと提案する。」(136p)とあり、北欧の伝説にも類話があることが伺えます。
『日本昔話事典』(稲田浩二/ほか編 弘文堂 1977.12)によると、「大工と鬼六」は採集例の少ない話とあり、外国でモチーフが一致する話として「悪魔と悪魔のばあさま」(KHM125、AT812)があると書かれています。KHM125は『グリム童話を読む事典』でのタイトルは「悪魔とそのおばあさん」、AT812は『日本昔話通観 28巻 昔話タイプ・インデックス』でも「大工と鬼六」の対応タイプとされています。ほかにAT812は「蟹問答」「化け物問答」も同タイプとされています。
2:研究書について
『昔話と語りの現在(日本児童文化史叢書20)』(櫻井美紀/著 久山社 1998.10) p46-75「「大工と鬼六」の出自」
雑誌『民話の手帖 第33号』(1987.10 日本民話の会) p108-125「「大工と鬼六」の周辺」
雑誌『みんぱく 第8巻第7号第82号』(1984.7 千里文化財団) p20-21 民話の世界31「巨人の建てた協会」
フィンランドの巨人伝説で「大工と鬼六」との共通点があると示しています。鬼や悪魔との契約、相手の名をいいあてて自由を獲得するモチーフは世界中の昔話に広く知られているとも書かれています。
『みんぱく 第9巻第3号第90号』(1985.3)p22 Q&Aで「巨人の建てた協会」のモチーフの民族学的考えを問われ、回答が掲載されています。「相手の名を知ることが、相手の正体を知ることであり、これによって、えたいの知れぬ相手はその魔力を喪失するか、社会の秩序に従う、というかんがえがあるとおもわれます。」とあります。
雑誌『子どもと昔話 43』(2010.4 小澤昔ばなし研究所)「昔話に出てくる登場人物にはどんな名前があるの?」(32-34p)の中に、「大工と鬼六」に関連することが記載されています。そこで紹介されている『昔話研究の諸相』(小沢俊夫教授喜寿記念論文集編集委員会/編 昔話研究土曜会 2007.7)収録の「日本昔話における登場者の名前のイメージ」に詳しく掲載されているようです。『昔話研究の諸相』は国際児童文学館で閲覧が可能です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
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- 『世界の民話 25:解説編』(小沢俊夫/編 ぎょうせい 1979 )
- 『ガイドブック世界の民話』(日本民話の会/編 講談社 1988.8 ) (84-86)
- 『グリム童話を読む事典』(高木昌史/著 三交社 2002.2 (85-87)
- 『日本昔話ハンドブック』(稲田浩二/編 三省堂 2001.7 ) (136)
- 『日本昔話事典』(稲田浩二/ほか編 弘文堂 1977.12)
- 『昔話と語りの現在(日本児童文化史叢書20)』(桜井美紀/著 久山社 1998.10 )
- 『銀のシギ』(ファージョン/作 岩波書店 1975.11 )
- 『六つのルンペルシュティルツキン物語(Sogen bookland)』(ヴィヴィアン・ヴァンデ・ヴェルデ/著 東京創元社 2005.2)
- キーワード
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- 民話 昔話 類話 パターン
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000142848