以下の調査から、「ねずみの嫁入り」は日本の昔話とも、外国の昔話とも言うことはできない。
日本の昔話を調べる参考図書である資料1~3を調査し、資料3に「鼠の婿選び」として、あらすじ、背景と解説が載っていることがわかった。
資料3によると、あらすじは、鼠の両親が、娘を世界一偉い人に嫁がせようとして、太陽に娘をめとってくれるよう頼むと、太陽は私をさえぎる雲の方が偉い、と断る。風は私をさえぎる壁の方が偉いと言い、壁は私をかじる鼠の方が偉い、と次々に断る。結局、鼠の娘は鼠に嫁入りすることになる、という話。
また、この昔話は、日本全土に普及していて、より偉いものを捜し求めて次々にモチーフを重ねていく累積譚は、AT2031「いっそう強いものと一番強いもの」として世界的にも広く分布しており、アジアの諸民族でも伝承されている。最古の古典資料とされるインドの『パンチャタントラ』やラ・フォンテーヌの『寓話』などはヨーロッパ語族系の伝承に受け継がれる。また、日本では、『沙石集』にある類話でも、鼠の両親が娘鼠の婿を捜す話となっていること等が資料3に書かれている。
なお、「AT」とは、アールネ氏とトンプソン氏が、世界各地に伝わる昔話を収集・分類した類型のことである。
以下の資料でも同様のことがわかる。
『日本昔話通観』(同朋舎)は全32巻あり、28巻、29巻の総索引によって、昔話を探すことができる資料である。28巻(資料4)p.473「鼠の婿選び」の項目で、資料編のどの巻に類話が掲載されているかがわかる。また、研究編1、2(資料5、6)は、日本と外国の昔話の比較について詳しい。
これでも、「鼠の嫁入」はヨーロッパやアジアの各地でも伝承されており、インドの『パンチャタントラ』やギリシアの『イソップ』などの古い書物にも載っていることがわかる。朝鮮では、鼠の代わりにモグラが主人公になっていたり、アイヌの伝承では、「人間が氷で滑って転ぶので氷が偉い。」にはじまり、「人間は木を切り倒すので、人間が一番偉い。」に至る。
「鼠の婿選び」と共通する話は、アイヌ族、朝鮮、中国カワ族、モンゴル-モンゴル族、インドネシア、ベトナム、ラオス、インド-パンジャブ、アフガニスタン、コーカシア、シベリア-ヴォグール族、シベリア-ブリヤト族、シベリア-サモエード語族、アラスカ-イヌイットなどで伝承されている。また、日本の書物としては、『沙石集』のほか『一休諸国物語』に載っている。
また、資料7『世界の民話』(ぎょうせい 全25巻)でも、巻末のタイプ索引より、類書とどの巻に掲載されているかがわかる。