ロシア及びウクライナ、ベラルーシに共通する夏至祭は「Ivan Kupala(イワン・クパーラ、イヴァン・クパーラ、イワン・クパロ、イヴァン・カパラ)」と呼ばれ、洗礼者ヨハネの祝日である旧暦6月23日の夕方から翌日にかけて行われる(『ヨーロッパ古層の異人たち』p.141)。そもそもは「夏を前にしてさまざまな悪霊や魑魅魍魎を祓って心身を清める祭りと、『洗礼者ヨハネ祭』そして『夏至の祭り』とが一つになってできあがった」祭りとされる(『ロシア 読んで旅する世界の歴史と文化』p.361)。
祭儀の基本的要素として『ロシア民俗夜話』p.150-151では次の7点を挙げている。
(1)種々の草を集める。花を摘み、花冠(はなかんむり)を編む。
(2)祭儀用の樹木あるいは藁人形を用意する(ウクライナ)。
(3)祭り(遊び)の場に祭儀用の樹木を立て、その周囲に火を焚く。樹木と焚火の周りで輪舞を踊り、歌をうたい、焚火の上を飛び越える。
(4)祭儀用の樹木あるいは藁人形を水に沈める(地方によっては焼く)。
(5)夜食会をする。
(6)水に花冠を投げ、それで占いをする。
(7)水浴びをする。
なお、現在ではロシアの西武辺境地方か、ウクライナ人やベラルーシ人の移住者の影響が残るシベリア地方でわずかに残されているにすぎないとされる。(『ロシアの祭り』p.18)
ロシアの夏至祭について解説している資料には以下のようなものがある。
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(1)『ロシア民俗夜話 忘れられた古き神々を求めて』(387/クリ96/ 資料番号:0003506631)
「イワン・クパーラの前夜」と章立てし、16~17世紀の文献紹介や様々な言い伝えと風習を詳細に解説している(p.139-166)。また、白黒イラストで「水に花冠を投げて占う」様子(p.151)、「イワン・クパーラ前夜に焚火をとび越える」様子(p.157)が掲載されている。
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(2)『ロシア 読んで旅する世界の歴史と文化』(293.8/ロシ98/ 資料番号:0003734381)
短いロシアの夏を代表する野外の祭として紹介されている(p.361-362)。また、カラー写真で「水辺で水浴後の冷えた体を温めるために焚いた火を飛び越えたりして、短い夏を惜しむかのように遊び騒ぐ」様子が掲載されている(p.363)。
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(3)『ヨーロッパ古層の異人たち 祝祭と信仰』(386.3/ハカ03/ 資料番号:0005065487)
ヨーロッパ、スラヴの夏至祭として、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの事例を紹介している(p.141-144)。
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(4)『ロシヤの神話 自然に息づく精霊たち』(388.38/サノ09/ 資料番号:0009217662)
「救世主の出現を予言し、イエスに洗礼を施したヨハネの誕生日」として土着の神話と共に紹介している。また、クパーラの別名として「愛の日」、「こざっぱりとした日」、「薬草通」、「雑婚祭」を挙げ、それぞれ解説している(p.663-664)。
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(5)『ロシアの祭り 民衆文化と政治権力』(386.38/サカ09/ 資料番号:0009120825)
ロシア時代(19世紀から1917年まで)における春送りの祭りとして「イワン・クパロ(洗礼者イオアン)の日」を紹介している(p.16-18)。
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(6)『民俗民芸双書 9 ロシアの祭』(380.8/5/9 資料番号:0001388818)
主にウクライナで行われる「大きなかがり火を焚き、これを跳んで占う祭」として「イワン・クパロ」の儀礼を解説・分析している(p.13,162-172)。
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(7)『ヨーロッパの祭りたち』(386.3/ハマ03/ 資料番号:0005086053)
キリスト教以前から伝わる「火と水による浄化の祭り」として「イワン・クパーラの日」を紹介している(p.141-142)。その後、キリスト教は「太陽、すなわちキリストに先行する光、星と形容され、火とも結びつく」洗礼者ヨハネの誕生日として取り入れたとされる。
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(8)『世界40カ国の自然観 自然と共に生きる知恵』(382/モリ05/ 資料番号:0006819858)
「パブテスト派(成年になってから自らの信仰告白により全身に水を浸すという先例を行う新教)のジョーン(イヴァン・カパラ)の誕生祭」として紹介されている(p.257-258)。