『教育学用語辞典 第4版』(学文社 2006.5)によると、ご質問にある授業形式(教師1人に対して生徒多数)のことは「一斉授業」といい、「一斉指導」「一斉教授」とも呼ばれます。「一般に、一斉授業の欠点としては、子どもの個性に対する配慮が不十分になりがちである。子どもの学習が受動的になる、などが指摘される。しかし、内容によっては綿密な授業の設計に基づいておこなわれる一斉授業が効率的であることもあり(略)」(p.8)とあります。
調査した資料で対義語として登場するのは「個別指導」「個別教育」「個別学習」などで、その間に位置する小グループでの学習形態は「グループ指導」「グループ学習」「協同学習」などと呼ばれています。
以下に、それぞれの形態について長所・短所に言及している資料を紹介します。
<辞書・事典>
・『現代教育用語辞典』(北樹出版 2003.11)
p.10「一斉教授」:「教育コストが抑えられるため、大衆教育の普及に伴って、一般的な指導形態として広まった。比較的学級規模が大きい日本では、教育の画一化の象徴として批判されることがある。欧米では、教育効率と教育効果の観点から行き過ぎた個別指導が見直され、一斉教授の利点が再評価されている。」とあります。
・『教育用語辞典:教育新時代の新しいスタンダード』(ミネルヴァ書房 2003.7)
p.20「一斉指導」:「学級内の個人差や多様性、個性を無視した画一的で一元的な「押し付け」となり、児童・生徒の受動的な態度を導くとの批判や「落ちこぼれ」を生み出す原因とする論調もある」、「重要なことは、一斉かグループか個別かといった単なる形態の問題ではなく、一斉指導においてそれが教師と児童・生徒との応答的なコミュニケーションとして考えられているのか、かれらの興味や関心を導いたり、既知や経験と結びついたり、さらに多様な考え方や感じ方、気づき、疑問や問いが認められ、保障されているのか否かということである。」とあります。
p.154-155「グループ指導」:「グループを単位に話し合う・制作する・練習するというように学習目的に沿って使用される。そこでは話し合いの進め方を指導し、グループでの活動が学習内容の深化・発展に結びつくように配慮される」、「グループでのリーダーシップの取り方を教えたり、少数意見を重視するなど、授業における民主的な交わりと行動の仕方が指導されてきた。」とあります。
・『学習指導用語事典 第3版』(教育出版 2009.1)
p.134「集団学習と個別学習」:集団学習、小集団学習、個別学習それぞれについての特徴をまとめています。集団学習は同時遂行型、協同達成型、相互啓発型の3タイプがあり、「集団のなかでは、なんらかの形で相互作用による学びが可能」とあります。小集団学習は、「個人が集団活動に参加しやすく、意見を発表できる機会が多くなるので、学習に対する意欲が高められる」、「個人の活動が重視されるので、自発性、責任感、指導性などが養われるとともに、共同的、許容的な雰囲気も生まれやすい。」とあります。個別学習では、「個人の能力・適性、興味・関心などの個人の特性を十分に生かすことができる。個人の学習スタイルや学習ペースが十分尊重されるので、個人に適した学習形態となる。」とあります。
<一般図書>
・『ファシリテーター・トレーニング:自己実現を促す教育ファシリテーションへのアプローチ』(南山大学人文学部心理人間学科/監修 ナカニシヤ出版 2010.12)
p.84-88「学級集団の成長と教育ファシリテーション」(山口真人/著)グループダイナミックス(個人と集団との間の影響関係や集団と集団との影響関係を研究する社会心理学の領域)の観点から学級集団の特徴や成長発達、教師の関わり方、教育ファシリテーターの働きなどを説明しています。
・『インストラクショナルデザインの原理』(R.M.ガニェ/著 北大路書房 2007.8)
p.332-354「グループ学習における環境」3つの集団規模にむけたインストラクショナルデザインについてわかりやすく述べています。
・『授業の社会学と自主協同学習:分析と実践』(高旗正人/著 ふくろう出版 2011.8)
本書は、自主協同学習の実践的展開について論じています。p.75-91「日本における自主協同学習の開発と展開」では、一斉指導形態の特質や改善点、また自主協同の授業との比較、分析をしています。
・『授業のデザイン(玉川大学教職専門シリーズ)』(山口榮一/著 玉川大学出版部 2005.4)
本書は、個別指導を基本とし、どう授業を計画したらよいかについて書かれています。p.27-30「授業のデザインと「一斉授業」という制度」では、「学年制のなかでの授業の形態」(p.29)として一斉指導、能力別/習熟度別グループ指導、個別指導それぞれについての特徴を記載しています。また、p.146-151「一斉指導の問い直し」において、ブラフィという研究者がリスト(p.147)にした社会的学習理論からの授業と、従来の情報伝達型の授業(一斉指導)との違いを紹介しています。
・『オランダの個別教育はなぜ成功したのか:イエナプラン教育に学ぶ』(リヒテルズ直子/著 平凡社 2006.9)
一斉授業の問題点を指摘し、オランダの個別教育の実践例をわかりやすく紹介しています。
・『授業デザインの最前線:理論と実践をつなぐ知のコラボレーション』(高垣マユミ/編著 北大路書房 2005.3)
p.55-78「授業を理解する」という章では、理想的形態が個人指導教師による授業であるとし、考察しています。一斉授業と個別指導の特性、個人指導教師としての必須要因(p.60-61)を示しています。
その他、以下の図書は主に協同学習による授業改善の立場から書かれたものですが、一斉授業にも触れていますので参考までに挙げておきます。
・『協同学習の技法:大学教育の手引き』(エリザベス=バークレイ/著 ナカニシヤ出版 2009.9)
・『教師のための「教育メソッド」入門』(高橋誠/編著 教育評論社 2008.9)
・『一斉授業の復権』(久保齋/著 子どもの未来社 2005.3)
・『習熟度別指導の何が問題か(岩波ブックレット)』( 佐藤学/[著] 岩波書店 2004.1)
・『バズ学習の研究:協同原理に基づく学習指導の理論と実践』(杉江修治/著 風間書房 1999.11)
・『格差をなくせば子どもの学力は伸びる:驚きのフィンランド教育』(福田誠治/著 亜紀書房 2007.7)